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第二章

この豚ごときが、ヒューバート様とお話しできるかしら?

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 夕食後、お父様は撞球室へクライヴ兄様とヒューバート様を誘いました。ヒューバート様は一瞬わたくしの方を見ましたが、お兄様に引きずられていき、その後は長い間ビリヤードに興じていました。

 忙しい日々が続いていて、男三人でゆっくり過ごすのは久しぶりだったのでしょう。

 お母様とミラベルとわたくしも、パーラールームでお茶をしながら、おしゃべりに花を咲かせていました。

「まだ一度もお兄様と会話してなくない?」

 ミラベルがわたくしにそう言いましたが、正直、何から話していいやら……。

 出会い頭はミラベルが居たので、ナディーン様のことを謝れませんでした。真っ先に、そうすべきでしたのに……。

 わたくしが黙っていると、

「久しぶりだから、恥ずかしいんじゃないかしら。シンシアがほら、変わったでしょ? 若い子の三年は大きいもの」

 お母様がホクホクしながら助け舟を出してくれます。確かに前より変わりましたが……。

 わたくしは自分のみっともない胸を見おろしました。ヒューバート様がわたくしの顔から視線を下げた後、見苦しかったのでしょう、片手の甲で口を押さえて露骨に目を背けたところです。

「まあ、たしかに。お兄様、話しにくくなったわね。前よりすごく気難しくなった」

 ミラベルの何気ない言葉に、ズキッと胸が痛みました。

 その理由を、わたくしは知っていたからです。

 よくよく考えると彼の初恋をぶち壊したわたくしが、今度はお金で釣って妻の座に収まろうとしているようなもの。

 と、とんでもない悪女ではないですか!

 悪女というのは、ミラベルのような気の強そうな美女がなってこそ絵になるのに、こんな醜女では救いようもない。ただの悪役です。

 わたくしは己の立ち位置に震え上がりました。醜い悪女!

「ミラベルの結婚はどうするの?」

 お母様がその時もっともなことを、親友だった前侯爵夫人の娘に尋ねたのです。

 彼女は一気に暗くなってしまいます。

「うーん。お兄様ったら、羊も先祖代々の土地も頑なに売ろうとしないから、持参金は用意できないかもね。でも持参金に釣られてくる人とは結婚したくないから、むしろ良かったわ」
「侯爵家の令嬢に失礼かもしれないけど、あなたは娘も同然なの。持参金はステイプルトン家が持ちます」

 お母様が言うと、彼女は肩をすくめました。

「お兄様が許さないわ。それに私も、夫人やシンシアのように、仕事をしたいとも思っているの」
「ええええ?」

 侯爵家の令嬢なのに!?

「時代はどんどん変わっているわよ。上流階級の女性の職業は家庭教師くらいしかダメだなんて、そんな誰が決めたかも分からない悪しき風習は終わりよ。シンシアを見て思ったの」

 長引いた戦争の後、当主を失った貴族の家門も増えました。女子が相続できるよう議会で議論されているようですし、確かに世の中は変わりつつあります。

「いいわ、ミラベル。わたくしと共同経営者になりましょう! みっちり農園経営について教えてあげる」
「わーい、嬉しいわ」

 二人で手を取り合ってはしゃいでいたその時、パーラールームの外からヒューバート様の声がしました。

「シンシア、少しいいか」

 話し方も、声も、昔とは違います。いえ、わたくしに話しかける時だけ、声の高さは違ったの。

「おいちぃでちゅかー?」って一オクターブ高くなることさえあったもの。

 今は、背筋を這い上るような色気のある、素敵な声になったわ……。つまり本来は、こういう落ち着いた低い声でしたのね。

 わたくしがドキドキしながら部屋を出ると、彼は室内のお母さまに頭を下げました。

「団らんのところ申し訳ない、夫人。シンシアを少しお借りします」
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