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本編
アレク、助けに来てくれたのね!
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ああ、アレク、やっぱりアレクが助けに来てくれたわ! わたくしのこと大好きだものね! いつもわたしを見守っているし、それにわたくしの婚約者だし──
「だめー、ずるいよベルトラン様」
わたくしはその声を聞いて絶句してしまいました。
アレクサンドルじゃありません。ユベールさんでしたわ。
「俺が卒業パーティーの相手に誘おうと思っていたのに、もっと手の速いやつがいたとはね。でも残念、振られちゃったね」
ベルトラン様がぐっと唇を噛み締め、うつむきました。
わたくし、あたふたとユベールさんの方に逃げました。アレクじゃないけど、助けに来てくれたのですもの。
そのわたくしの腰に、手が回されたのです。ハッとして顔を上げると、なんと彼までわたくしに唇を重ねてきたではありませんか!
ズキューンと音がするほど激しく吸われ──やっぱりベロが入ってきました──わたくしはバタバタともがいてしまいました。
みなさん、一体何がありましたの!?
ああ、そう言えばユベールさんも戦地に行くと学長から伺いましたわ……。息子と大喧嘩になったと、癒し魔法の特訓の時、学長が悲しそうにおっしゃっておりましたわ。
ユベールさん、長男なのに何考えているのかしら! 当主である学長が出陣なさるのだから、次の当主として、控えていなければならないのよ?
あとユベールさん、唇を放してくれません。鮮やかな黄緑の瞳でわたくしを凝視しながら、味わうようにわたくしの口内を探ります。
「ん~っんっ!」
顎を掴まれて放してもらえず、わたくしは窒息しそうでした。
ユベールさん、綺麗な顔をして力が強いのです。ベルトラン様といい、やっぱり男性の力には敵いません。
戦場で貴族の子女が役に立たないのが、よく分かりますわね。
ちゅぽんという音とともに、ユベールさんがやっと唇を離しました。チアノーゼを起こす直前でした。
「はい、消毒完了。ノエルは僕が貰う。いいだろ? パートナーになってくれよ。どうせアレクはあのアリスとかいう平民女と出るんだし」
その時、わたくしの腫れ上がった唇から嗚咽が漏れ、ベルトラン様とユベールさんが息を呑みました。
「無理やりこんなことするなんて、見損ないましたわ!」
二人がこんな風に伴侶を見つけようと焦る気持ち、わたくしには分かります。
わたくしだって、そうしたいですわ。貴族としての義務なのは分かってますし。
でもできません。わたくし女ですもの。後継者を産むのはわたくしなんですから。
わたくしが男でしたら、アレクに求婚して、アレクのお腹に後継者を残して、安心して戦地に行けます。
でも、アレクは男性ですわ! 襲いかかったところで返り討ちにされるし、わたくしが孕んだら戦地にいけません!
泣きじゃくりながら、わたくしは混乱した頭でアレクを思い浮かべました。
お嬢様、お嬢様、とエクボのある笑顔で追いかけてきてくれた、あの頃を思い出しました。
わたくしは、ベルトラン様やユベールさんのものではありません。
アレクのものですわ。
でも、アレクはわたくしのものじゃない。
そんなこと、とっくに分かっておりました。
ジリジリと二人から後退ります。
「わ、わたくし、ファーストキスじゃないんですからね」
涙でグチャグチャの顔で、それでも強がって二人を睨みつけました。
「セカンドキスでもないし、サードキスでもございません! おっぱいだって、初めて殿方に見られたわけではございませんわ!」
わたくしとアレクだけの秘密ですけど、言わせてもらいますわ!
「わたくし、子供の頃アレクとチューをいっぱいしましたわ! お風呂だって一緒に入りました! だから今のはノーカンですからね!」
叫ぶようにそう告白すると、二人は複雑な表情で顔を見合わせました。
「ノエルちゃん、やっぱり君は、どうしようもないくらいアレクサンドル君が好きなんだね」
ベルトラン様の沈んだ声。
「あんな、助けにも駆けつけないようなガリ勉野郎、どこがいいんだよ!」
ユベールさんにいたっては、怒気も露わにしています。
「あいつは君の卒業パーティーのパートナーには絶対ならないぜ? 嫌がられてるのが分からないのか?」
「その通りだ。客観的に見て、脈が無い。君だっていずれは跡継ぎを作らなければならないのだろう?」
わたしくしは気づくと、勝手な二人に怒鳴りつけていました。
「そんなこと関係ございません! わたくしが、アレクを大好きなだけですの。べつに向こうの気持ちを自由にしようなんて、思いませんわ!」
それから、ボタンの跳んだブラウスを押さえて、憩いの森から走って逃げました。
「だめー、ずるいよベルトラン様」
わたくしはその声を聞いて絶句してしまいました。
アレクサンドルじゃありません。ユベールさんでしたわ。
「俺が卒業パーティーの相手に誘おうと思っていたのに、もっと手の速いやつがいたとはね。でも残念、振られちゃったね」
ベルトラン様がぐっと唇を噛み締め、うつむきました。
わたくし、あたふたとユベールさんの方に逃げました。アレクじゃないけど、助けに来てくれたのですもの。
そのわたくしの腰に、手が回されたのです。ハッとして顔を上げると、なんと彼までわたくしに唇を重ねてきたではありませんか!
ズキューンと音がするほど激しく吸われ──やっぱりベロが入ってきました──わたくしはバタバタともがいてしまいました。
みなさん、一体何がありましたの!?
ああ、そう言えばユベールさんも戦地に行くと学長から伺いましたわ……。息子と大喧嘩になったと、癒し魔法の特訓の時、学長が悲しそうにおっしゃっておりましたわ。
ユベールさん、長男なのに何考えているのかしら! 当主である学長が出陣なさるのだから、次の当主として、控えていなければならないのよ?
あとユベールさん、唇を放してくれません。鮮やかな黄緑の瞳でわたくしを凝視しながら、味わうようにわたくしの口内を探ります。
「ん~っんっ!」
顎を掴まれて放してもらえず、わたくしは窒息しそうでした。
ユベールさん、綺麗な顔をして力が強いのです。ベルトラン様といい、やっぱり男性の力には敵いません。
戦場で貴族の子女が役に立たないのが、よく分かりますわね。
ちゅぽんという音とともに、ユベールさんがやっと唇を離しました。チアノーゼを起こす直前でした。
「はい、消毒完了。ノエルは僕が貰う。いいだろ? パートナーになってくれよ。どうせアレクはあのアリスとかいう平民女と出るんだし」
その時、わたくしの腫れ上がった唇から嗚咽が漏れ、ベルトラン様とユベールさんが息を呑みました。
「無理やりこんなことするなんて、見損ないましたわ!」
二人がこんな風に伴侶を見つけようと焦る気持ち、わたくしには分かります。
わたくしだって、そうしたいですわ。貴族としての義務なのは分かってますし。
でもできません。わたくし女ですもの。後継者を産むのはわたくしなんですから。
わたくしが男でしたら、アレクに求婚して、アレクのお腹に後継者を残して、安心して戦地に行けます。
でも、アレクは男性ですわ! 襲いかかったところで返り討ちにされるし、わたくしが孕んだら戦地にいけません!
泣きじゃくりながら、わたくしは混乱した頭でアレクを思い浮かべました。
お嬢様、お嬢様、とエクボのある笑顔で追いかけてきてくれた、あの頃を思い出しました。
わたくしは、ベルトラン様やユベールさんのものではありません。
アレクのものですわ。
でも、アレクはわたくしのものじゃない。
そんなこと、とっくに分かっておりました。
ジリジリと二人から後退ります。
「わ、わたくし、ファーストキスじゃないんですからね」
涙でグチャグチャの顔で、それでも強がって二人を睨みつけました。
「セカンドキスでもないし、サードキスでもございません! おっぱいだって、初めて殿方に見られたわけではございませんわ!」
わたくしとアレクだけの秘密ですけど、言わせてもらいますわ!
「わたくし、子供の頃アレクとチューをいっぱいしましたわ! お風呂だって一緒に入りました! だから今のはノーカンですからね!」
叫ぶようにそう告白すると、二人は複雑な表情で顔を見合わせました。
「ノエルちゃん、やっぱり君は、どうしようもないくらいアレクサンドル君が好きなんだね」
ベルトラン様の沈んだ声。
「あんな、助けにも駆けつけないようなガリ勉野郎、どこがいいんだよ!」
ユベールさんにいたっては、怒気も露わにしています。
「あいつは君の卒業パーティーのパートナーには絶対ならないぜ? 嫌がられてるのが分からないのか?」
「その通りだ。客観的に見て、脈が無い。君だっていずれは跡継ぎを作らなければならないのだろう?」
わたしくしは気づくと、勝手な二人に怒鳴りつけていました。
「そんなこと関係ございません! わたくしが、アレクを大好きなだけですの。べつに向こうの気持ちを自由にしようなんて、思いませんわ!」
それから、ボタンの跳んだブラウスを押さえて、憩いの森から走って逃げました。
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