【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王

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出航と別れ

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 フェルナンドは順風満帆で走り出した船の船尾から、遠ざかっていくミハス島を眺めていた。

 東の空が明るくなり、白い帆を照らし出す。夜明けだ。

 やはり起きれなかったようだ。あの寝坊助め。薄情なヤツめ。

 ソル帝国の海上貿易の要、東の航路を潰しに行くわけだから、激しい戦闘になるだろう。死ぬかもしれない、もう会えなくなるかもしれないのに、なんだよ……。

 フェルナンドは拗ねていた。昨夜お別れをしたはずなのに、我ながら女々しい。

 だが正午になると、むしろ早く忘れた方がいいと気持ちを入れ替えた。お見送りなどされたら──あと一目でもジョセフィーナを目にしようものなら──もう全てをほっぽり出して、彼女を攫って逃げていたかもしれない。

 少年水夫らに太陽の位置を六分儀で測らせていたフェルナンドは、新人教育はアリリオに任せていたことを思い出した。これから忙しくなるってのに、何をやっているんだ。

 探すために海図室に向かうと、ミハス海軍では航海士であるアリリオと、航路を指示する役目のイスハーク皇子が、大喧嘩をしていた。

「急げったって仕方ないだろ、貿易風のせいで基本向かい風なんだから」
「即位祝いは四十九日で終わりなんだ。それまでに何人の皇子の船を潰せるかで、私の身の安全度が変わってくるんだよっ」
「不吉な期間だな! あと長いっての」

 ちょっとガラの悪い格好をした皇子は、フェルナンドに気づくと手を挙げた。

 母国の護衛艦の奴らに身元がバレても不味いし海賊の格好をしてみたいし、と言った皇子に、スカーフとブリムの長い帽子と眼帯を貸してやったところ、シャツの胸元もはだけさせ、けっこう様になっている。

「二、三日もすれば船の墓場と言われる座礁地帯だ。だけどな、もう敵艦と遭遇する海域に入ってるんだぞ。二人とも揉めてないで持ち場についてろ」
「へーい」
「あいあいさー」

 渋々甲板に出る二人。

 フェルナンドは本格的な戦闘が始まる前にと、水夫らの配置を確認しに、船内を一通り回った。挙帆長や砲兵長といった下士官──重要な役割をする各船乗りたちと、綿密に打ち合わせし、最後に船底に降りていく。

 医務室に入ると、今度は船医ミシェルに声をかけた。

「今回は、榴弾、ぶどう弾の飛び交う激しい戦闘になるかもな。頼んだぜ天才。ただし、なるべく手足は残す方向で。お前ならできるだろ」

 ミシェルは無言でメガネの奥の目を泳がせている。

 ……また、麻酔代わりの薬でラリってるのか? 怪訝に思って凝視しているフェルナンドの前で、ミシェルが目を下に向けた。そしてまた船長の方を見て、目をぎょろぎょろさせた。

 それを繰り返すので、うわ……マッドサイエンティスト気持ち悪っとフェルナンドは思った。

「──?」

 なんだろう。

 目線を追って下に目をやる。

 折りたたみデスクの下に、小さな足が見えた。密航者か?

 ミシェルを椅子ごと押しのけ、胸ぐらを掴んで引きずり出す。

 その姿を見るなりフェルナンドは、ぎゃああああ! と断末魔のような声を上げていた。

「へへ、ついてきちゃったでやんす」
「ジョセフィーナ!?」

 なんで!? どうして!?

 幻かと……夢かと思って、思い切りミシェルの頭頂部を殴った。

「痛い!」

  夢じゃないのか! フェルナンドは怒声をあびせていた。

「馬鹿野郎! 何やってるんだお前!!」

 相手が公爵令嬢であることも失念して、シャツの襟を掴み、ガクガクゆすってしまう。

「死ぬかもしれない船に乗ってるんだぞ!」
「みんなそうでやんす」

 悪びれずに言うジョセフィーナに、フェルナンドは絶望した。

 だめだ、今さら引き返せない。いや、一隻だけ引き返させるか? 幸いまだ敵影は無いし、一度錨泊させて、艦載ボートでそちらにジョセフィーナを移せば……。

「いやでがんす」

 考えを読んだかのようにジョセフィーナは睨みつけてくる。

「待っているのは、嫌でげす」

 フェルナンドは問答無用で、ジョセフィーナを肩に担ぎ上げた。階段を駆け上がり、ハッチから顔を出すと、露甲板に向かって叫ぶ。

「縮帆!」

 全員が振り返る。

「錨を降ろせ! 停船せよ──むぐうぅ」

 担いでたジョセフィーナに手で口を塞がれた。

「やめるでやんす!」

 しかしフェルナンドは、口を塞がれたまま艦載ボートの方に歩いていく。架台を見上げ、乗組員らに目でボートを降ろすよう合図した。

 船尾から様子を見ていたアリリオが、意図を察して他の船に信号旗を上げようとした。

「やめて!」

 ジョセフィーナは口を塞いでいた手を離すと、ポカポカとフェルナンドを叩き出す。

 痛くも痒くもない、とフェルナンドは冷たく笑う。

「お願い、もう少しだけ一緒にいさせてください」

 ついには咽び泣き始めるジョセフィーナを、船員たちは困ったような顔で見守った。

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