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広い部屋で考える

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 ベッドが揺れないのにも、ようやく慣れてきた。ふかふかの広い天蓋付きベッドの上を転がり回りながら、ジョセフィーナは伸びをする。

 こんな広いベッド、一人で寝るものではない。

 添い寝期間を思い出し、ジョセフィーナは自分の体をギュッと抱きしめた。温め係と言われたが、じっさい温められていたのは自分の方だった。筋肉質の胸元は熱いくらいで……。

 じわっと涙が出てくる。

 凱旋の宴の後は、次の航海の作戦会議とやらで、ほとんどフェルナンドに会えていない。

 しかしカルドナ侯はよく様子を見に来てくれて、その時にフェルナンドの出生の秘密を話してくれた。

 自分と同じ「神託」の被害者。運命を感じてしまったジョセフィーナだ。

 ただし、悪い方の巡り合わせである。

 氏神の伝承を信じるなら、自分は王家を護るための存在。なのに「王家に不吉な影を落とす」と言われている、双子と出会うなんて……。

 そんな人を好きになってしまった私は、やはり邪悪な魔女なのだろうか。もしかして神託は正しいのだろうか。

 自分とフェルナンドで、王家を滅ぼす?

 そこでジョセフィーナは目を見開いた。やだ、好きになってなんかいないもん。

 明日、フェルナンドは出航する。思ったより早く船の準備ができたとかで。イスハーク皇子との戦闘を思い出し、ギュッと胸を押さえた。あの時、かっこいいと思ってしまった自分を殴りたい。

 大砲一発で、体がバラバラになる過酷な世界なのだ。二度と会えなくなるかもしれないところに、あの人は行ってしまう。こんな苦しいなら、彼が他の女性と話すところを見ている方がまだマシだった。

 宴の夜を思い出し、ベッドの上で体を丸める。胃がキリキリしてきたのだ。



 宴の夜は、びっくりするほど上手にエスコートしてくれたフェルナンドである。

 侯爵家の子として育てられたのだから、貴族の子息並みのことをこなすのは、当たり前なのかもしれない。

 そう言えば、粗野を装っていてもそこはかとなく気品があるな、と思ってはいた。しかし今までの印象よりさらに貴公子で──完璧な貴公子で、すごく驚いてしまったのだ。

  それと同時に、こんな誰が見ても素敵なフェルナンドなら、きっと色んな美女が狙うのだろうな……そう思った。

 総督の息子であるフェルナンドに、案の定、小麦色の肌をした現地の有力者の娘や、総督府で働く貴族の令嬢たちが群がっていった。

 ショックで立ちすくむジョセフィーナだった。胸の内がモヤモヤし、そんな自分に首を傾げた。

 イスハーク皇子がその隙にジョセフィーナの手を取ろうとしたが、先にアリリオがジョセフィーナの手を引く。

「船長のために、ジョセフのケツは守らなきゃな!」

 睨みつけてくるイスハーク皇子だが、彼とてたちまち年頃の娘に囲まれて見えなくなった。黒い肌に銀髪碧眼なんて、それだけでエキゾチックでミステリアスなのだ。モテないはずがない。

「ところで、コルセットってすごいな」

 これまたコワモテに似合わず、意外にも上手にワルツをリードしながら、アリリオがジョセフィーナを見下ろした。

「腹の肉、そこまで上に持ち上げられるのな。ケツみてーじゃん」



 ベッドの上に丸まり、そこまで回想したジョセフィーナの唇に、ようやく笑みが浮かんだ。胃の痛みが少し和らいだ。

 アリリオには、船の上でもずっと救われてきた。彼ら幹部連中も、本職は海軍の士官なのだとか。

 士官学校を出ているならそれなりの家柄なのだろうが、どう見ても悪漢だったな、と笑いが止まらなくなる。

 ──彼らとも、お別れなのね……。

 ジョセフィーナから、再び笑顔が消えた。

 私掠船は敵国の財政に打撃を与える有効な手段だ。それを踏まえているからこそ、商船にはその国の海軍の護衛がつくものだ。

 もちろん今回狙うソル帝国の商船にだって、大砲をいっぱい積んだ軍艦がくっついていることだろう。

 戦闘しに……行くのよね。

 ジョセフィーナは唇を噛み締め、柔らかい掛布を頭から被った。寝よう。気にしちゃダメ。それが彼らの仕事。いちいち心配なんて、してられない。

 それでも目を閉じると、フェルナンドと過ごした船長室を思い出してしまう。

 いつの間にか、声を殺して泣いていた。一緒にいたい。

 自分をごまかすのも限界だった。

 その時、客室の扉がノックされた。
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