【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王

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ジョセフィーナ、ケツほられそうになる

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 船底の医務室の近くは、予備の大きな帆の格納庫になっていて、誰もいなかった。船医ミシェルが怖いという説もあるからだろうか、本当に誰もいない。

 ジョセフィーナは、ミシェルから日焼け止めを貰うのかな、と予想した。

 ジョセフィーナは自分が勤勉で、知識を詰め込むことが好きであることを自覚している。

 しかしながら、圧倒的に経験が足りず、今回の魔女騒動までは何一つ危ない目にも遭ったことがなかったため、警戒心が育っていなかった。それをすぐに思い知らされてしまったのだ。

 気づけば、あっという間に背後から口を塞がれ、後ろ向きに壁に押し付けられていたジョセフィーナである。

「へっへっへっへっ、上玉だぜ」

 コテコテの悪漢丸出しの台詞を吐いたネヴァルに、素早く腰のサッシュベルトを解かれた。

 わたくしったら、なんてバカなの! ジョセフィーナは歯噛みした。

 必死に下げられないようにトラウザーズを押さえ込むも、屈強な水夫にかかれば抵抗していないも同然だった。

 簡単に、プリンと尻を剥き出しにされてしまう。ネヴァルらしき水夫が吼えた。

「な、なんだこの桃のようなケツは! けしからん! まるで女の子だ!」

 女の子ですわ!

 厳つい手が尻を掴みあげ、揉みしだいた。

 公爵令嬢のお尻になんてことを!

 そう叫んだつもりだったが、出てくるのは恐怖に竦んだ、しゃくり上げるような喘ぎ声だけだった。

 ついには生温かい硬いモノを割れ目に押し付けられ、ひぃぃぃぃ~っと引きつった悲鳴がやっとのことで出る。

 ジョセフィーナは身を守るため、とっさに呪文を──滅びた古代語を──口にしていた。

 彼女を危機に陥れた力だが、誰もいないここなら、むしろ救う力だ。

 ネヴァルを吹き飛ばすくらいの小さな力なら、短い詠唱で済む。

『風よ走──っ!?』

 無我夢中で力を発動しようとした時、ネヴァルは突然ジョセフィーナを解放した。

 ……ん?

 おそるおそる後ろを見ると、このソル教徒、ジョセフィーナにくるりと背を向け、尻を突き出していた。

「さ、準備はオッケーだ」
「う……え?」
「掘ってくれ」

 まさかの屈強ウケ! 後ずさったその時、ザクッと船の内壁にナイフが刺さった。

 やけに小さな、食事用より小さいナイフだ。

 ジョセフィーナの顔スレスレを掠めて刺さったものだから、またひぃぃぃぃ! と叫んでいた。

 ネヴァルの大きな体の向こうから、細身の影が現れる。

「何してる?」

 ランタンの灯りを反射し、相手のメガネが光る。船医が指に何本ものナイフを挟み、近づいてきた。

「僕は今、切り刻みたくてうずうずしているのだ。この輝くメスが貴様のチン○チンを切り落とす前に離れろ!」

 ゴゴゴゴという音がしそうな迫力である。そう、○の位置が無意味なことも気にならないくらいの迫力。本当に医者なの!?

「そいつは預かるぜ」

 別の低い声がした。

 ネヴァルが呻き声をあげ、慌てて尻をしまった。

 船長のフェルナンドがハシゴから飛び降りてくるところだった。船医ミシェルが、すぐさまフェルナンドに苦情を言う。

「どいつもこいつも、普段手術室に近づこうともしないくせに、賭け事や如何わしいことをする時だけ来やがる。船長、あんた水夫どもに舐められてやしないか?」
「悪かったよ、ミシェル。伝声管での連絡ありがとな、助かった」

 フェルナンドは苦笑いすると、ネヴァルの首根っこを掴む。

「二度目だな、規律違反は。うちの船は色んな人種、宗教のやつがいる。男色も禁止じゃねーよ? 好きにやればいい。だが同意なき行為は死罪だぜ?」
「こ、こいつが誘ったんだ」

 ジョセフィーナはトラウザーズを持ち上げながら、フルフル首を振った。まだショックでうまくしゃべれない。

 犯されそうになった恐怖──いや、犯させられそうになった(?)恐怖と、風の力を危うく見られそうになった恐怖で震えが止まらない。

「そうさ、こいつは妖艶な魔女だ」

 ネヴァルは思いつきで言ったのだろうが、口から心臓が飛び出しそうになったジョセフィーナである。ま、魔女なんかじゃないでやんす!

「誰彼構わず男を誘惑する魔女さ、あ、魔男か」

 間男みたいに言わないで! ジョセフィーナは恐怖も忘れ、カンカンに怒った。

「あっしはそんなことしないでやんす!」

 ひょい、と船長に首根っこを掴まれ、後ろに下げられた。

「ネヴァル、見苦しいぜ? さて、久々に竜骨くぐりだな!」

 船長は笑顔で言ったが、目は笑ってない。

「竜骨くぐりって、なんでげすか?」

 きょとんとするジョセフィーナに、ミシェルが軽い調子で説明した。

「船首から船尾までロープをつけて潜らせるんだよ」
「わあっ、楽しそうでやんすね!」
「……普通溺死だし、船底のフジツボに背中削られて、上がってきた時には背骨が見──」

 うぇぇええ、え、えぐすぎですわ!

「や、やめてくださいでゲス!」
「つっても、どうせ処刑だぜ?」
「おい、処刑するくらいなら解剖用にくれよ、フェルナンド。生きたまま腹を裂きたい」

 あっけらかんと言う船長と、酷い理由で異を唱える船医。

「わたくしが、あう、オラが誘ったでげすわ!」

 ジョセフィーナは必死にネヴァルを庇っていた。自分のせいでそんなエグい目に遭わせられたら、たまったものではない。

 しかも、犯されそうだったわけではなく……犯させられ──なんなのっ!? 説明しにくいですわ!

「同意の上ですわ」

 気づくとそう叫んでいた。ネヴァルが目を丸くした。

「あ、そう。じゃあ続きをどうぞ」

 あっさり背を向ける船長と船医。ジョセフィーナはあたふたしてしまう。

「お、お待ちなさいっ、あなたたち」

 ネヴァルは傷のある顔を歪めた。罪悪感が滲み出ていた。

「船長、俺が悪かったよ。どうにも美少年に目がなくてな。……もう、病気だ。殺してくれ」

 うなだれるネヴァル。

「前回は火薬運びの少年に『なんでてめーのケツ掘らねーといけねーんだよ、この変態!』と罵られ、辞められてしまった。男娼だってそうさ。あいつらにも『掘られる前提で来てるんだ、掘りたくなんてねーわ』って吐き捨てられたし、俺、もう欲求不満で死にそうだったのさ」

 船長が肩を竦め、ホルスターからピストルを抜いてネヴァルの頭に押し当てた。

「だ、だめよ、お待ちなさい、そんなことはやめてください!」

 必死に船長の腕にぶらさがるジョセフィーナ。彼女は斬り込みのシーンを思い出していた。

 戦いではびっくりするくらい、人が死んでいた。

「こんな……簡単に人が死んでしまう船上ですわ、敢えて殺さなくても。……この者にも機会を!」
「ジョセフよ。こいつな、掟を破るのは二回目なんだよ」
「ですが──」

 そこでハッとなる。いいことを思いついた。

「では、わたくしとしばらく行動させればよろしいわ。それでもし、またお尻を掘ろうとしたら、その時は処刑なさるがよろし──」

 あ、言葉遣い。

「処刑なさるがよろしいでやんす」

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