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船医ミシェル
しおりを挟む釘と板を持って船体の修繕に向かおうとしていた水夫を捕まえて聞くと、手術室は喫水線──水面より下の部分だという。そこは砲弾が当たりにくく、まだ安全だからなのだとか。
ジョセフィーナはおそるおそる梯子で船底まで降りていった。
ところが──。
「痛み止めだと? ああ? 殺すぞガキ」
線の細い青年が、ジロっとこちらを睨んだ。白衣が血に染まっている。どうやらこの男が、船医のミシェルらしい。
台の上に縛り付けられた水夫と目が合った。口に猿轡を噛ませられている。これから何をされるのか想像したくない。
うーうーうー、と呻きながら首を左右に動かしている。必死に助けを求められている、ような気がする。
「でも、露甲板の負傷者も、痛みがひどいみたいで」
「じゃあそいつらをここに連れてこい、痛い部分をぶったぎってやる」
ギラギラした目がこちらを凝視する。ジョセフィーナが身をすくませた時、船医の薄く青い瞳がカッと見開かれた。
「……? お前……」
ジョセフィーナは彼の猟奇的な視線に耐えられず、悲鳴をあげ、涙目で手術室を飛び出していた。
また上の甲板に上がると、同じ場所で寝ている者はもう誰もいなかった。
「あら……負傷者はどこかしら?」
呆然としていると、アリリオがジョセフィーナに気づいた。
「軽症者はもう自分の持ち場に戻ったよ。おい、ウロウロするなって船長が」
「あの、わたくしより小さな子が働いているので、わたくしも」
そこでハッと口を押さえる。言葉遣い!
「わた、くし、くし、串揚げが好きでゲス」
「そうか、俺はケバブが好きだ」
「わた、じゃない、おいらも働くでごわす!」
アリリオは息をついて、ジョセフィーナにできそうなことがないか、考えてみた。
「じゃあ、縫物できるか?」
ジョセフィーナの顔がパッと輝く。アリリオはその顔を見てうわっと叫んだ。
「まずいぞ、お前、さっさと船から降りろ」
「なんででやんすか? 縫物なら得意でやんす!」
こう見えても刺繍の腕は、王都の貴族令嬢一と言われている。そう、ジョセフィーナは公爵令嬢、海賊船の水夫より役に立たないなんて断じて有り得ない。
王太子から、役立たずと言われたことを思い出し、唇を噛み締める。
言っておきますが、断じて、役立たずではございませんわ!
見てらっしゃい、と勇んで予備の帆の修繕室に行くと、はい、とぶっとい針を渡された。
針というか、串揚げができそうな、頚椎に刺して要人を暗殺できそうな、もはや小型の暗器に見える。
「…………」
「ちなみに帆布はめちゃくちゃ固いからな、けっこう力要るから」
「…………」
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