孤独な美少女剣士は暴君の刺客となる~私を孕ませようなんて百年早いわ!~

世界のボボ誤字王

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別れと始まり編

終わりと始まりの予感

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 水軍省は、人でごったがえしていた。庁舎も宿舎も、軍人たちで溢れている。

 それなりに地位のある壮年の将官たちが、まるで新兵のように慌ただしく動いているのを見て、リンファオはおかしくなった。

 久しぶりの大きな対外戦争を前に、興奮しているのだろうか。

「すぐにでも、西の大陸に行っていいんだぞ?」

 アーヴァイン・ヘルツは、律儀に自分の前に戻ってきた少女を見て、困惑顔だ。

 既にたくさん利用した。

 土蜘蛛を滅ぼしたのも、王党派の勢力に利用されないか心配だったからだ。

 あんな化物たちを敵に回したら、勝ち目なんてない。化物は化物で制す、というフランソルの計画に乗っかった。

 少女の気持ちなんて、あまり──いや、ぜんぜん考えなかった。

「はっきり言って、おまえには散々ひどいことしてきた。謝らないがな」

 謝るつもりなら、最初からやらない。

「分かってる。でもあのまま里が存続していたら、私は夜も眠れなかったかも。安眠に対するお返しを少ししてから行くよ」

 リンファオは笑った。

 この国がゴタゴタ中なのは、身をもって知っている。もう少しくらい、彼の役にたってやってもいいかな、と思ったのだ。

 きっと、その間に、リンファオを襲ってくる奴があぶり出されるだろう。給料も欲しいし。

「ぶつからなかったけど、私たちが北に出発してすぐ、ブルゴドルラードの軍艦が出港したんだって?」
「お、だてに情報部に在籍していただけあるな」
「あの国、継承権はもう無いのに? それとも、幼帝の身代わりでも立てたの?」
「さてな。向こうの新聞社を買収してあるから、いち早く情報は国内にばらまかれてるはずなんだがな」

 アリビア皇帝の血を引くソフィアとディトマールは、星型疱瘡で死んだことになっている。おそらくもう、隠しようがない。

 アーヴァインはタバコに火を付ける。

 どこかに行こうとしていたのか、羽織ろうとしていたネイビーのジャケットを、リンファオに押し付けた。ふわっとコロンが香る。

「まー、おかげで北方の同盟はあやふやな感じになりそうだよ。それに、そっちはアリビア北部の艦隊でどうにかなる。俺は……」

 言ってから、グイッとリンファオに顔を近づけた。タバコの煙をフーッと吹き付ける。

 小さい頃はいじめっ子だったんじゃないかな? と咳き込みながらリンファオは思った。

「ちょっと羽を伸ばしてくる。おまえ付き合え」

 うわー。さっそくか。

 リンファオは人使いが荒そうな男の顔を見ながら、早々と自分の決断に後悔していた。

(まあ、それもいいかな)


 リンファオは元帥専用の部屋の窓から、西の方角を見つめた。大西海の向こうには、かの新大陸がある。

 そのまっさらな未開拓の土地は、言わば真っ白なキャンバス。リンファオの娘にとって、新しい生活の基盤とするのに、ふさわしいものに思えた。

「行くからね」

 優しく海に向かって囁くと、汚れた自分もまっさらな人間になったような気がした。

「すぐに行く」

 言霊が、本当になるように、もう一度力を込めてつぶやいた。





~完~

ご愛読ありがとうございました。




☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…

長い長いお話にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

最後の方、ギャグっぽくなってしまいました
(;´Д`)
シリアス好みの方ごめんなさい。

続編として西の大陸の話があります。リンファオなどお馴染みのキャラはたくさん登場いたしますが、ロウコが主人公です。悪役であり、女に興味のないロウコをグダグダに貶めるお話です。バトル有りの恋愛物ですが、ギャグ要素が満載となりますので、シリアス好みの方は激怒するレベルです。むしろ激怒させるために書いたような感じになっちゃいました。

そちらは本編の続編の後に転載していきます。

では、本編Ⅲにてお会いいたしましょう(タイトル考えつき次第転載していきます)

ありがとうございました!
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