孤独な美少女剣士は暴君の刺客となる~私を孕ませようなんて百年早いわ!~

世界のボボ誤字王

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別れと始まり編

シャオリー2

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 パチパチと、焚き火の光が踊る。

 鬱蒼とした森の道すがら、馬を止め休憩している一団がある。

 御者はお漏らしをしたので、歩いて帰ってもらった。

 元々この道は、馬車では難しい峠道につながっていく。

 

「本当に戦うの?」

 シャオリーが、てて、と歩いてきて、リンファオの隣に座った。

「うん、私の仕事なんだ」
「ふうん」

 シャオリーと二人で焚き火を見つめる。

 ロクサーヌはお茶を入れ、リンファオにも渡してくれた。

 シャオリーは、仮面をとってすするリンファオの顔をじっと見つめる。

(顔、覚えてるのかな?)

 リンファオはドギマギした。

 しかし、シャオリーは立ち上がった。

「私、おにいちゃんにも渡してくる」

 カップを持って、ロウコの居る森の中に入っていく。

 仰天して止めるリンファオとロクサーヌ。

「僕が一緒に行くよ」

 ヘンリーが苦笑いした。

「あなたが行って、何の役にたつって?」

 思わず辛辣な口調になってしまったリンファオ。

 ヘンリーは少し傷ついた顔をした。

「ひどいな。知らない間柄じゃないし」

 まあ、そうね。ロウコのことも記憶にはちゃんとあるのだ。

 おかしいのは関係性。

「一緒に酒を飲んで語り合い、ギターかき鳴らしながら歌った仲だ」

 あるわけがない! どこまで記憶が改竄されているのか。

 そうこうしている間に、シャオリーは死神の近くまで行っていた。慌てて追うヘンリー。

「お茶よ」

 木の根に持たれるように横になり、目を閉じていたロウコは、面倒そうに片目を開けた。

「いらん」

 シャオリーはそのにべもない言い方に、うるっと涙目になる。だがロウコの心を揺さぶることは出来ないようだ。

 あ、泣くかな? リンファオは遠くからハラハラしながら見守った。

 ロウコにとっては、今ここで全員を皆殺しにしたって構わないんだ。ギャンギャン泣いたら斬られるかも。

 シャオリーは、ぐっと堪えてまた言った。

「お茶よ」
「……」

 ロウコは、しつこい女児を睨みつけたが、問答が面倒になったようで、ブリキのカップを受け取った。

 シャオリーの顔がパアッと明るくなる。

「温まるわよ」
「……」

 ロウコは紅茶を飲み干すと、シャオリーにカップを返した。

(何だ、このガキ)

 引きさがるかと思いきや、まだそばにいる。

「ねえ」
「……あ?」
「どうして戦いたいの? あの人と」

 子供はリンファオを指差す。

 うっとおしいので無視してまた目をつぶると、袖を引っ張ってくる。

「剣で戦うんでしょ? 刺さったら血が出るよ」

(しつこい)

 がんばって無視する根暗剣士。

「顔に怪我したら大変よ」

 ロウコがイライラしながら吐き捨てる。

「戦うのが土蜘蛛のサガだ」
「そんなことないですよ」

 ヘンリーがおずおずと口を挟んだ。

「護ることが、貴方たちの性です……。リンファオはそうだった」

 感謝を込めて振り返る。

「ずっと僕たち一家を……私と妻と、娘を、そして僕の研究を守ってくれていた」

 ロウコが怪訝そうに眉をひそめる。リンファオが護衛していたのは、この青二才一人だ。女と子供はいなかった。

 だいたい、いつこさえたんだか知らないが──おそらく子供の年齢を考えると、姿を消した期間だろう──この子供はリンファオの子だと言うではないか。

 この青瓢箪が言っていることは、いろいろおかしい。

 その時、ロウコはハッと顔を上げた。リンファオと目が合う。彼女は頷いた。

「何か来る」
「シャオリー」

 ヘンリーが彼らのただならぬ雰囲気を感じて、子供の手を引いた。そしてロクサーヌのところに駆け寄る。

「数が多いな。ああ……」

 ロウコは苦笑いした。

「俺の失態だ」
「なに? どういうこと?」

 リンファオは、ロウコの言葉を聞きとがめる。

「里が襲われたことは知ってるだろう? その時、鏡獅子に出くわした。……気がそぞろだったんだ。変な糸で、腕を僅かに傷つけられた」
「それで?」

 リンファオは立ち上がっていた。土蜘蛛の面を取り出し、被る。戦う時は、やはりこれが一番しっくりくるから。

──近い。

「鏡獅子は、なかなかの能力者だ。水盤に探したい奴の血液を入れることによって、正確に、確実に、占星術で場所を突き止めることができる。過去や未来も占えるらしいぞ、詳細に」

 ロウコが言った途端、複数に囲まれた。だがそこに居たのは、鏡獅子だけではなかった。

「よくも、仲間を殺してくれたな」

 顔に刺青。蛟もいる。

「おまえがあの島の蛟を、皆殺しにしたんだろう? 鏡獅子に占ってもらった」
「ああ、里を襲うのに手を組んだのだな。いつまでも仲がいいことだ」

 ロウコは笑う。しかも、何年も前の話など持ち出しやがって。その目を冷たく光らせるロウコ。

「失せろ、おまえらは手応えが何も無かった」

 怒り狂った蛟が、襲いかかってきた。

 リンファオも、シャオリーに血なまぐさいところを見せたくないな、と思いながら剣を抜いた。
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