孤独な美少女剣士は暴君の刺客となる~私を孕ませようなんて百年早いわ!~

世界のボボ誤字王

文字の大きさ
上 下
74 / 98
アリビア帝国編 Ⅱ

ぷっぺっぺっぺっ

しおりを挟む

「おい」

 リンファオがシャオリーの遊び相手をしていると、ヘンリーがやってきた。

 やけに不機嫌だ。

「俺は徹夜で仕事してるんだ。ガキの声がうるさくて寝られないじゃねーか」

 リンファオはにっこり笑う。エドワードだ。

 彼はシャオリーとはあまり遊んでくれない。

 子供嫌いなのかと思えば、一歳を過ぎた娘に自作の玩具をプレゼントしてくれたりする。ゼンマイ仕掛けで動くような、本格的なやつだ。

 仕事に追われてるはずなのに、そういう不器用な気遣いがあるのが面白い。

 エドワードはめったに現れないけれど、リンファオは彼に会えることが嬉しかった。

「だいぶ上手に立てるようになってきたんですよ、シャオリー。歩いちゃいそうだ。人間の赤子より発達が早いんですかね?」

 彼が無愛想なのを承知で、娘を抱き上げて見せてやる。

 ブランとぶら下がった幼児を見て、エドワードはフンッと鼻を鳴らした。

「俺は、ハイハイをしていた時の方が好きだ。ペットみたいで」

 その彼のお気に入りは青虎だ。昼寝の時、枕にしているのをよく見かける。

 寝ているときに顔が険しかったら、中身がエドワードだとわかるのだ。ぼそりと「モフモフだなーオイ」と呟いているのも聞いたことがある。

(なるほど、四つ足が好みか)

 動物が好きな人は、人間が嫌いだと言うけれど……。

 そういえば、新薬の研究で動物を使おうとするのを邪魔される、とヘンリーが嘆いていた。

 こっそり檻を開放して実験動物を逃がしたのは、どうやらエドワードの仕業らしい。

 また、エドワードの時だけ菜食に徹しているので、意外と彼のほうが神経が細いのかも。

 リンファオはそんな彼に興味があった。

 エドワードは、無理やり渡されたシャオリーを顔の前にぶら下げた。

 目線を合わせると、片眉ずつ動かしたり、唇を尖らせたり、変な顔をしてみせながら不器用にあやしている。

 根っから子供がダメ、というわけでもないのだろうか。そもそも、幼児と動物は似ているのだ。

「ところでおまえさ」

 けっきょくシャオリーを芝生の上に転がして、お腹をくすぐってやりながら──犬じゃないっての──エドワードが言った。

「いつまでヘンリーに敬語なわけ? ヘンリーから求婚されてるんだろ?」

 リンファオは真っ赤になった。

「え? いや、だいぶ前ですけど」
「あいつ、待ってるんじゃねーの?」
「も、も、もう忘れたんじゃないかしら」
「結婚したくないの?」

 ズバズバ聞いてくるな……。リンファオはすっかり困ってしまった。

 結婚の概念が良く分からない。

 土蜘蛛の一族同士の絆より、よほど温かくて近い人間のつながりを知ったリンファオにとって、かえって結婚はあまり意味がなくなってしまった。

 母のようなテレーザや、弟のようなゲルクとの出会いを経験し、そしてなにより本当に今、子供がいる。

 その子供には、父親のように接してくれるヘンリーがいる。

 ついでに使用人たちが、寄ってたかって愛らしいシャオリーの世話をしたがるので、リンファオの周囲には、かつてないほどの人との絆があったのだ。

(結婚って、じゃあ何のために?)

 こんなこと考えるのは、土蜘蛛だからなのだろうか。

 口を閉ざしているリンファオに、エドワードは意地悪そうな笑みを浮かべて見せた。

「俺のこと、気にしてるんだろ?」

 ドキッ、となって顔がこわばる。

(え? なに? なんのこと?)

 たしかに、プロポーズしてきたのはヘンリーだ。では、エドワードは?

(私のこと、どう思ってるのだろう)

 自分がエドワードを意識していることを言い当てられたみたいで、かなり動揺した。

 エドワードはそれを見て、ムスッとなった。

「ヘンリーには、付属品の俺がついてるからな。残念ながら、軍需品の開発をしている間は、俺は消えるわけにはいかないんだ。気持ち悪いかもしれないけど、我慢してやれよ。あいつ相当たまってるぜ?」
「そんな、気持ち悪いなんて! え? たまってるって?」
「おまえと、やりたがってるって言ってるんだよ、このっ……このっ──」

 苛立った表情で、リンファオに噛みつくように言う。

「このバカマンコ!」

 怒鳴り声に、シャオリーが泣き出した。

 彼は一瞬うろたえて、すぐに立ち上がると、逃げるようにその場を立ち去った。

(いや、バカマンコって……)

 リンファオはあまりの言われように青ざめていた。

 それにしても、あのヘンリーがやりたがってる? まさか、だってヘンリーよ?

 今度は顔が赤くなるリンファオだった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 どうしてこういうことになったのか、リンファオは考えていた。

 今のしかかってきているのは、ヘンリーだと思う。

 うん。

 だけど彼の目は、いつもの穏やかさを浮かべていない。

 ──ギラギラしていて、獣のようだと思った。




 第二施設の、保存食の実験場を掃除しているとき、加熱処理に失敗した缶詰の一つが膨張し、破裂した。

 全身に腐敗した食べ物を浴びて、リンファオはオロオロしてしまった。

 自室まで行くには、あまりにも汚い。そこで、外の人工池に向かい、水栓を開いて噴水を出した。

 気を放出しないせいか、リンファオはさほど睡眠を必要としない。

 いつも朝一で目が覚めてしまうので、その時も、まだ薄暗い早朝だった。

 人目が無いことをいいことに、特に何も気にせず服を脱ぐ。

 多少寒いのを我慢して、ばしゃばしゃ髪や身体、そして衣服を洗っていると、人の気配に気づく。

 すぐにヘンリーだと分かった。

 だんだん近づいてくるその気配は、殺気が無く、ほんわかした馴染みのものだったからだ。

 大急ぎで濡れた服で身体を隠し、隠れるべきか開き直るべきかオタオタしていると、ヘンリーの方が先にリンファオを見つけた。

 カクンと顎が落ちる。

 ややして状況に脳の処理が追いついたようで、後ろ向きになり、手をバタバタさせた。

「運動不足でウォーキングしてたら、み、水の音がしたから、出しっぱなしだったのかと思って──ていうかリンファオ何してるの? 護衛や他の研究員に見つかったらどうするのさ?」
「だ、だって、臭くて汚いやつ、かぶっちゃって……」

 ヘンリーがあまりに焦っているので、リンファオもすっかりパニックだ。

「タオルを持ってきてくれますか、ヘンリー」

 まるで上官に命令された二等兵のように、ヘンリーが従った。

 部屋の方にくるりと向きを変え、小走りでタオルを取りに行ったのだ。

 目を塞いだまま戻ってくると、あちこち躓きながらリンファオに近づき、ふわふわのタオルを渡してくれる。

「あと、着替えも持ってきた。まさかタオル巻いたまま部屋まで行こうとか、思ってなかったよね? こ、ここには警備の男がいっぱいいるんだからさ」

 リンファオは礼を言って身体を拭く。

「ごご、ご、ごめんなさい。ほんとね、私ったら何を考えていたのだろう」

 動揺して水辺から出ようとすると、つるんと足を滑らせる。いつもなら受身を取れるのに、身体を隠す方を優先して尻餅をついてしまう。

 リンファオの悲鳴を聞いて、ヘンリーが目隠しを外した。

「大丈──」

 言いかけた彼の目が見開かれる。

 リンファオは転んだ瞬間に、全てをさらけ出していた。

 ヘンリーが見たのはまさに水もしたたる、女神のようなあられもない姿の──。

 ヘンリーは無言のまま、引っ張り起こすために手を伸ばす。

 リンファオは濡れたタオルで身体を隠し、気まずさで下を向きながら礼を言った。

 しかし彼の手を取ったとたん、引きずり寄せられた。恐ろしい程の力で抱きしめられ、リンファオは愕然となる。

「へ? ヘンリー、濡れますよ」

 しかしそのまま、綺麗に整えられた芝の上に押し倒された。彼は眼鏡を外した。

「ぼぼ、僕は、もう我慢出来ない。前に言ったこと覚えてるよね?」

 リンファオは困って目をそらす。

 その顎を掴んで、ヘンリーは自分の方に向けさせた。

 いつになく強引だ。あまりに真剣な表情にドキッとなる。

「返事は?」

『おまえとやりたがってるんだよ』

 エドワードの言葉が頭に浮かぶ。

「あ、あのね、ヘンリー。よく考えてくださいね。ヘンリーは多分発情してるのだと思います」
「その通りだ。だが相手は君しか考えられない。エドワードはしょっちゅう街の娼館に通ったりしているけれど、僕は違う。好きな相手としか出来ない。チェリーだ!!」

 開き直って告白したヘンリーの言葉を聞いて、胸がズキッとした。

 エドワードはちゃんと、女性遊びをしているのだ。それを聞いただけで、なぜか心が痛んだ。そんな自分に驚いた。

(え、なんで。もしかして私は──)

 リンファオは困惑した。もしかして、エドワードが好きなのだろうか。

 口ごもっているリンファオの唇に、温かいものが押し当てられる。ヘンリーが接吻してきたのだ。

「愛してる」

 ヘンリーのくせに、怖いくらい真剣な表情だ。あの優しいヘンリーでも、こんな顔をするんだ。苦しいのを堪えているかのような……。

 眉間に寄ったシワ。まるで、エドワードの時のようだ。

 そう考えただけで、リンファオの身体は熱くなった。

「私もです」

 思わず答えていた。

 その途端、ヘンリーの顔が輝く。エドワードの言うとおり、ずっと待たせていたのだと分かった。




 性急だった。下品な言い方だが……よほど溜まっていたのだろう。

 それでも、やっぱりこの人は優しい。

 性欲を押さえつけようとしているその苦しそうな表情と、血走った目に反して、リンファオの膨らみを揉むその手は、おずおずと労わるようなものだった。

 濡れていたせいと、朝のひんやりした空気のせいで固く尖った乳首を、ぎこちなく摘まれた。

「あ……うっ」

 久々の行為に、思ったより大きな声が出る。土蜘蛛の感覚は鋭い。

 ヘンリーがビクッと手を引く。

(そこで止めないでよ)

 熱くなった体を持て余し、リンファオは苛立った。

 でも、それでこそヘンリー。童貞の中の童貞。まあ体は童貞じゃないのだけれど。

 リンファオは安心させるように言う。

「大丈夫、痛いわけじゃないです」

 ヘンリーはほっとして、愛撫を再開する。

 柔らかさを確かめるように、何度も繰り返し二つの双丘を揉みほぐしてくる。繊細な手が、滑らかな肌を伝って、腹の上を滑った。

 そのまま背中に手を回すと、リンファオを起こす。

 間近で、ふるいつきたくなるような乳房を見つめた。こんなに美しく、愛らしく、そして淫らな光景があろうか。

 ヘンリーは真っ赤になりながら上ずった声で言った。

「なめらかプリンの上に、可愛らしい木苺が乗っているみた──っぷっぺっぺぷっ」

 その顔面に、リンファオの乳首からほとばしった液体が直撃する。

「きゃっ、ごめんなさいっ」

 慌てたリンファオが胸を抑える。

 回数は多くないとは言え、未だに授乳中なのだ。刺激されれば当然こうなる。

 顔をぬぐった後ヘンリーは、リンファオの手をそっと外した。

 薄いミルク色を滲ませた先端に、彼の顔が近づいてきた。ついばむように、頂きに吸い付く。

「きゃうっっ」
「あ……すごく甘い」

 ヘンリーは、止まらなくなった。何度も吸い上げる。

 母乳ってこんな味なんだ。甘くて、いい匂いがする。触れればどんどん張ってくる乳房。……やめたくない。

 しかし、あまりに吸い付いきすぎて、変態だと思われたくなかった。

 ヘンリーはほどほどで顔をあげ、今度はふっくらした唇に吸い付いた。

 ちゅっちゅっと軽い、小鳥が啄むようなキス。不器用なそれに、リンファオは苦笑しながら応える。

 ちょっとお姉さんぶって、リンファオの方から口を開いた。舌を伸ばしてヘンリーのそれを絡め取り、自分の口内に誘う。ヘンリーの動揺が伝わってきて、リンファオは微笑んだ。

 ──童貞、いいかも。

 自分も大して経験が無いくせに──しかもそのほとんどが、無理やり犯されただけ──ちょっと優越感を持ってしまった。

「あなたは可愛い」

 いたずらっぽく、リンファオが耳元で囁いた。そのままヘンリーの耳たぶを、ふっくらした唇が弄ぶ。

 甘い吐息が、彼の耳の穴をくすぐった。

 固まってされるがままだったヘンリーが、呻き声をあげる。

 突然、ヘンリーがすっと顔を上げ、リンファオの動きを抑え込んだ。

「え?」

 再び押し倒され、片足の太ももの内側に、手を入れられた。ぐぐっと開かれる。

「やっ……ちょ、ちょっと」

 うろたえ、焦るリンファオを無視して、ヘンリーは片方の足を自分の肩にひっかけ、無言で足の間に顔を寄せた。

 それから、掠れた声が呟いた。

「こっちには、僕がする」

 下の唇を押し広げ、舌をさしこまれ、リンファオは悲鳴をあげる。

 どうやら煽りすぎたようだ。

 長い舌がリンファオの秘密の穴を暴くように、何度も何度も抽挿された。

 内側の粘膜を舐め上げ、かき回す。さらに、小さな膨らみを歯でコリっと噛まれた。

「ひあっ!」

 先程までのウブなヘンリーは、やはり男だったようだ。

 文字通り、豹変してしまった。

 自分よりずっと経験豊かな者のように。どういうことだ、ヘンリーのくせに。

「待って」

 子供を産んでおきながらあれだが、リンファオはそんなに慣れていない。誰が来るかも知れない庭先で、御開帳されているのだ。

 それにもう明るくなってきている。

 だいたいケンとの時は、薄暗い牢だったし……。

 しかも、ぴちゃぴちゃと恥ずかしい音をたてながらほじくられ、先ほどの余裕など霧散し、助けて、と叫びたくなった。

 ややして、恐怖を感じるほどの快楽が、リンファオを襲ってきた。

「待って、お願いっ、変になり──」
「待てないっ」

 怒ったように言われ、再び顔を突き合わされる。口の周りにリンファオの愛液が付いている。

「これ以上、待てるわけないだろ?」

 そう言うと、思いきり高く尻を持ち上げられた。ほとんど、折り畳まれるくらい。

「入れるよ、見てて」
「見てて?」

 動揺のあまり凍りつく。ヘンリーは中腰になり、ズボンの前を開けると、意外に立派なものを出した。

 思わず引くほど膨らんでいる。

 リンファオは、初めて男のモノをちゃんと見た。朝日に照らされ、神々しいほど……グロテスクだ。

「これを、君の中に入れるから。いいよね?」

 いいよね? と言いながら、既に先端をあてがっていた。

 折り曲げられた苦しい体勢の中、ぐぐっと沈む亀頭を見つめる。そのまま一気に押し入ってきた。

「あっ……あぁあっ!」

 深い位置に当たるのを感じた。

 男の人の平均の大きさなんて、リンファオは知らない。

 だが、シショウより、ケンより、どうやらずっと大きかったようだ。

 ヘンリーのくせに!?

 ヘンリーは目をつぶったまま、ゆっくりゆっくり腰を動かしだした。引き抜かれ、貫かれ、また引き抜かれ、貫かれ。

 ジュブッジュブッという音が耳に入り、動揺する。

 初めこそ太いそれが出たり入ったりするのを呆然と見ていたが、やがて脳髄がとろけそうになり、目をつぶった。

 声を抑えるために自分の手首を噛む。大声を出したら、護衛が集まってくる。ここは外なのだ。

 それでも、迫り来るなにかに耐えられそうになかった。

 ヘンリーは、童貞のくせに長かった。

 執拗なほど責め立て、その間ずっと愛でるかのように、乳房を撫で回している。

 授乳期のリンファオの乳房は、水風船のようにパンパンに張り、滴る乳でまさにミルクローションを塗ったくったようにつやつや光っている。

 ヘンリーはそれを見て、ますます興奮した。変態だと思われてもいい。容赦なくむしゃぶりついた。わななくリンファオ。

「待って、くる、何か」

 ついにリンファオが悲鳴混じりに言うと、ヘンリーの唇がそれを塞ぎ、先ほどの初々しさはどこへ? というほど荒々しく中を犯した。

 シショウの時以来だ。これほど誰かに求められていると感じたのは。

 それに、この傲慢な荒々しさは、ヘンリーというより、まるで──。

 揺さぶられていた頭が、その時真っ白になった。

 ヘンリーの打ち付けていた腰も硬直し、その身体が何度か痙攣したあと、ぐったりとリンファオに倒れ込んだ。

 リンファオは、気力が一気に解放されたことに気づいた。

 かつてないほど満ち足りている。

 わかる。

 蛟のケンにかけられた呪縛が、今、解けたのだ。

 力が戻ったのを感じる。

 つまり、自分はヘンリーを、いやエドワードを? 愛しているのだ。

 うっとりした顔で見上げると、ヘンリーの顔が歪んでいた。まるで苦痛を堪えるように。

 驚いて身を起こすリンファオ。

「どうしました? どこか痛めましたか?」

 気功の解放と、何か関係があるのだろうか。放出はしてないけれど、普通の人間には性交すら駄目だったのかもしれない。

 恐怖で身がすくんだ。

 何年も封印されていた「気」は、相手にどんなダメージを与えたのか。

 しかし、そんな心配は見当違いだった。

 ヘンリーの歪んだ顔は、すぐに邪悪な笑いに変わった。

 初めは押し殺したクスクス笑いだったが、徐々に大きくなり、最後は身体を折り曲げて大爆笑している。

「へ、ヘンリー?」
「ばーか、まだ分からないの? 俺だよ」
「エ、エドワード?」

 そう、今はエドワードだ。リンファオは何となく嬉しくなった。

 いつから彼だったのだろう。

 何でこんな気持ちになるのだろう。

 あれ、もしかして、エドワードと抱き合えたってこと?

「ヘンリーのやつが奥手過ぎて可哀想だったから、手伝ってやったのさ。上手いだろう? ヘンリーの真似」

 リンファオは困ったように、服をかき集めて身体を隠した。

「あの……」
「残念だったな。相手がヘンリーじゃなくて。だけど俺だって、おまえみたいな得体の知れない化け物とやるのは、相当我慢したんだぜ?」

 リンファオの顔が凍りつく。

 彼はズボンのベルトをしっかり締めながら、吐き捨てるように言った。

「ま、人間じゃない奴と一発やったなんて、めったにない経験だ。武勇伝ってことで──」

 エドワードの言葉が途切れた。

 リンファオが泣いているのを見たからだ。

 あまりに静かに涙を落としているから、気づかなかった。

 彼はしばらく黙り込んで、ポロポロ涙を流す少女を眺めた。

「そんなに俺が嫌なら、さっさとヘンリーとやっちまえば良かったんだ!」

 ヘンリーとやってる最中に出てきたくせに、矛盾した言葉を吐き捨てると、そのまま去っていってしまった。

 その背中を見送りながら、リンファオは唇を噛む。

(嫌なわけないじゃないの)

 自分の気持ちが分かったっていうのに。

 なのに、彼にとってはただの悪ふざけだった。

 恥ずかしくて死にそうだ。

 違う、恥ずかしいわけじゃない。

──得体の知れない化け物──

 青虎が大きくなって近づいてきた。主人を心配しているらしい。ザラザラした舌で顔を舐められる。

「大丈夫。ヘンリー──いや、エドワードから離れないで」

 青虎はクゥンと鳴くと、渋々エドワードが去っていった方に歩いて行った。

 一人で泣きたい時もあるのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...