孤独な美少女剣士は暴君の刺客となる~私を孕ませようなんて百年早いわ!~

世界のボボ誤字王

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アリビア帝国編 Ⅱ

ぷっぺっぺっぺっ

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「おい」

 リンファオがシャオリーの遊び相手をしていると、ヘンリーがやってきた。

 やけに不機嫌だ。

「俺は徹夜で仕事してるんだ。ガキの声がうるさくて寝られないじゃねーか」

 リンファオはにっこり笑う。エドワードだ。

 彼はシャオリーとはあまり遊んでくれない。

 子供嫌いなのかと思えば、一歳を過ぎた娘に自作の玩具をプレゼントしてくれたりする。ゼンマイ仕掛けで動くような、本格的なやつだ。

 仕事に追われてるはずなのに、そういう不器用な気遣いがあるのが面白い。

 エドワードはめったに現れないけれど、リンファオは彼に会えることが嬉しかった。

「だいぶ上手に立てるようになってきたんですよ、シャオリー。歩いちゃいそうだ。人間の赤子より発達が早いんですかね?」

 彼が無愛想なのを承知で、娘を抱き上げて見せてやる。

 ブランとぶら下がった幼児を見て、エドワードはフンッと鼻を鳴らした。

「俺は、ハイハイをしていた時の方が好きだ。ペットみたいで」

 その彼のお気に入りは青虎だ。昼寝の時、枕にしているのをよく見かける。

 寝ているときに顔が険しかったら、中身がエドワードだとわかるのだ。ぼそりと「モフモフだなーオイ」と呟いているのも聞いたことがある。

(なるほど、四つ足が好みか)

 動物が好きな人は、人間が嫌いだと言うけれど……。

 そういえば、新薬の研究で動物を使おうとするのを邪魔される、とヘンリーが嘆いていた。

 こっそり檻を開放して実験動物を逃がしたのは、どうやらエドワードの仕業らしい。

 また、エドワードの時だけ菜食に徹しているので、意外と彼のほうが神経が細いのかも。

 リンファオはそんな彼に興味があった。

 エドワードは、無理やり渡されたシャオリーを顔の前にぶら下げた。

 目線を合わせると、片眉ずつ動かしたり、唇を尖らせたり、変な顔をしてみせながら不器用にあやしている。

 根っから子供がダメ、というわけでもないのだろうか。そもそも、幼児と動物は似ているのだ。

「ところでおまえさ」

 けっきょくシャオリーを芝生の上に転がして、お腹をくすぐってやりながら──犬じゃないっての──エドワードが言った。

「いつまでヘンリーに敬語なわけ? ヘンリーから求婚されてるんだろ?」

 リンファオは真っ赤になった。

「え? いや、だいぶ前ですけど」
「あいつ、待ってるんじゃねーの?」
「も、も、もう忘れたんじゃないかしら」
「結婚したくないの?」

 ズバズバ聞いてくるな……。リンファオはすっかり困ってしまった。

 結婚の概念が良く分からない。

 土蜘蛛の一族同士の絆より、よほど温かくて近い人間のつながりを知ったリンファオにとって、かえって結婚はあまり意味がなくなってしまった。

 母のようなテレーザや、弟のようなゲルクとの出会いを経験し、そしてなにより本当に今、子供がいる。

 その子供には、父親のように接してくれるヘンリーがいる。

 ついでに使用人たちが、寄ってたかって愛らしいシャオリーの世話をしたがるので、リンファオの周囲には、かつてないほどの人との絆があったのだ。

(結婚って、じゃあ何のために?)

 こんなこと考えるのは、土蜘蛛だからなのだろうか。

 口を閉ざしているリンファオに、エドワードは意地悪そうな笑みを浮かべて見せた。

「俺のこと、気にしてるんだろ?」

 ドキッ、となって顔がこわばる。

(え? なに? なんのこと?)

 たしかに、プロポーズしてきたのはヘンリーだ。では、エドワードは?

(私のこと、どう思ってるのだろう)

 自分がエドワードを意識していることを言い当てられたみたいで、かなり動揺した。

 エドワードはそれを見て、ムスッとなった。

「ヘンリーには、付属品の俺がついてるからな。残念ながら、軍需品の開発をしている間は、俺は消えるわけにはいかないんだ。気持ち悪いかもしれないけど、我慢してやれよ。あいつ相当たまってるぜ?」
「そんな、気持ち悪いなんて! え? たまってるって?」
「おまえと、やりたがってるって言ってるんだよ、このっ……このっ──」

 苛立った表情で、リンファオに噛みつくように言う。

「このバカマンコ!」

 怒鳴り声に、シャオリーが泣き出した。

 彼は一瞬うろたえて、すぐに立ち上がると、逃げるようにその場を立ち去った。

(いや、バカマンコって……)

 リンファオはあまりの言われように青ざめていた。

 それにしても、あのヘンリーがやりたがってる? まさか、だってヘンリーよ?

 今度は顔が赤くなるリンファオだった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 どうしてこういうことになったのか、リンファオは考えていた。

 今のしかかってきているのは、ヘンリーだと思う。

 うん。

 だけど彼の目は、いつもの穏やかさを浮かべていない。

 ──ギラギラしていて、獣のようだと思った。




 第二施設の、保存食の実験場を掃除しているとき、加熱処理に失敗した缶詰の一つが膨張し、破裂した。

 全身に腐敗した食べ物を浴びて、リンファオはオロオロしてしまった。

 自室まで行くには、あまりにも汚い。そこで、外の人工池に向かい、水栓を開いて噴水を出した。

 気を放出しないせいか、リンファオはさほど睡眠を必要としない。

 いつも朝一で目が覚めてしまうので、その時も、まだ薄暗い早朝だった。

 人目が無いことをいいことに、特に何も気にせず服を脱ぐ。

 多少寒いのを我慢して、ばしゃばしゃ髪や身体、そして衣服を洗っていると、人の気配に気づく。

 すぐにヘンリーだと分かった。

 だんだん近づいてくるその気配は、殺気が無く、ほんわかした馴染みのものだったからだ。

 大急ぎで濡れた服で身体を隠し、隠れるべきか開き直るべきかオタオタしていると、ヘンリーの方が先にリンファオを見つけた。

 カクンと顎が落ちる。

 ややして状況に脳の処理が追いついたようで、後ろ向きになり、手をバタバタさせた。

「運動不足でウォーキングしてたら、み、水の音がしたから、出しっぱなしだったのかと思って──ていうかリンファオ何してるの? 護衛や他の研究員に見つかったらどうするのさ?」
「だ、だって、臭くて汚いやつ、かぶっちゃって……」

 ヘンリーがあまりに焦っているので、リンファオもすっかりパニックだ。

「タオルを持ってきてくれますか、ヘンリー」

 まるで上官に命令された二等兵のように、ヘンリーが従った。

 部屋の方にくるりと向きを変え、小走りでタオルを取りに行ったのだ。

 目を塞いだまま戻ってくると、あちこち躓きながらリンファオに近づき、ふわふわのタオルを渡してくれる。

「あと、着替えも持ってきた。まさかタオル巻いたまま部屋まで行こうとか、思ってなかったよね? こ、ここには警備の男がいっぱいいるんだからさ」

 リンファオは礼を言って身体を拭く。

「ごご、ご、ごめんなさい。ほんとね、私ったら何を考えていたのだろう」

 動揺して水辺から出ようとすると、つるんと足を滑らせる。いつもなら受身を取れるのに、身体を隠す方を優先して尻餅をついてしまう。

 リンファオの悲鳴を聞いて、ヘンリーが目隠しを外した。

「大丈──」

 言いかけた彼の目が見開かれる。

 リンファオは転んだ瞬間に、全てをさらけ出していた。

 ヘンリーが見たのはまさに水もしたたる、女神のようなあられもない姿の──。

 ヘンリーは無言のまま、引っ張り起こすために手を伸ばす。

 リンファオは濡れたタオルで身体を隠し、気まずさで下を向きながら礼を言った。

 しかし彼の手を取ったとたん、引きずり寄せられた。恐ろしい程の力で抱きしめられ、リンファオは愕然となる。

「へ? ヘンリー、濡れますよ」

 しかしそのまま、綺麗に整えられた芝の上に押し倒された。彼は眼鏡を外した。

「ぼぼ、僕は、もう我慢出来ない。前に言ったこと覚えてるよね?」

 リンファオは困って目をそらす。

 その顎を掴んで、ヘンリーは自分の方に向けさせた。

 いつになく強引だ。あまりに真剣な表情にドキッとなる。

「返事は?」

『おまえとやりたがってるんだよ』

 エドワードの言葉が頭に浮かぶ。

「あ、あのね、ヘンリー。よく考えてくださいね。ヘンリーは多分発情してるのだと思います」
「その通りだ。だが相手は君しか考えられない。エドワードはしょっちゅう街の娼館に通ったりしているけれど、僕は違う。好きな相手としか出来ない。チェリーだ!!」

 開き直って告白したヘンリーの言葉を聞いて、胸がズキッとした。

 エドワードはちゃんと、女性遊びをしているのだ。それを聞いただけで、なぜか心が痛んだ。そんな自分に驚いた。

(え、なんで。もしかして私は──)

 リンファオは困惑した。もしかして、エドワードが好きなのだろうか。

 口ごもっているリンファオの唇に、温かいものが押し当てられる。ヘンリーが接吻してきたのだ。

「愛してる」

 ヘンリーのくせに、怖いくらい真剣な表情だ。あの優しいヘンリーでも、こんな顔をするんだ。苦しいのを堪えているかのような……。

 眉間に寄ったシワ。まるで、エドワードの時のようだ。

 そう考えただけで、リンファオの身体は熱くなった。

「私もです」

 思わず答えていた。

 その途端、ヘンリーの顔が輝く。エドワードの言うとおり、ずっと待たせていたのだと分かった。




 性急だった。下品な言い方だが……よほど溜まっていたのだろう。

 それでも、やっぱりこの人は優しい。

 性欲を押さえつけようとしているその苦しそうな表情と、血走った目に反して、リンファオの膨らみを揉むその手は、おずおずと労わるようなものだった。

 濡れていたせいと、朝のひんやりした空気のせいで固く尖った乳首を、ぎこちなく摘まれた。

「あ……うっ」

 久々の行為に、思ったより大きな声が出る。土蜘蛛の感覚は鋭い。

 ヘンリーがビクッと手を引く。

(そこで止めないでよ)

 熱くなった体を持て余し、リンファオは苛立った。

 でも、それでこそヘンリー。童貞の中の童貞。まあ体は童貞じゃないのだけれど。

 リンファオは安心させるように言う。

「大丈夫、痛いわけじゃないです」

 ヘンリーはほっとして、愛撫を再開する。

 柔らかさを確かめるように、何度も繰り返し二つの双丘を揉みほぐしてくる。繊細な手が、滑らかな肌を伝って、腹の上を滑った。

 そのまま背中に手を回すと、リンファオを起こす。

 間近で、ふるいつきたくなるような乳房を見つめた。こんなに美しく、愛らしく、そして淫らな光景があろうか。

 ヘンリーは真っ赤になりながら上ずった声で言った。

「なめらかプリンの上に、可愛らしい木苺が乗っているみた──っぷっぺっぺぷっ」

 その顔面に、リンファオの乳首からほとばしった液体が直撃する。

「きゃっ、ごめんなさいっ」

 慌てたリンファオが胸を抑える。

 回数は多くないとは言え、未だに授乳中なのだ。刺激されれば当然こうなる。

 顔をぬぐった後ヘンリーは、リンファオの手をそっと外した。

 薄いミルク色を滲ませた先端に、彼の顔が近づいてきた。ついばむように、頂きに吸い付く。

「きゃうっっ」
「あ……すごく甘い」

 ヘンリーは、止まらなくなった。何度も吸い上げる。

 母乳ってこんな味なんだ。甘くて、いい匂いがする。触れればどんどん張ってくる乳房。……やめたくない。

 しかし、あまりに吸い付いきすぎて、変態だと思われたくなかった。

 ヘンリーはほどほどで顔をあげ、今度はふっくらした唇に吸い付いた。

 ちゅっちゅっと軽い、小鳥が啄むようなキス。不器用なそれに、リンファオは苦笑しながら応える。

 ちょっとお姉さんぶって、リンファオの方から口を開いた。舌を伸ばしてヘンリーのそれを絡め取り、自分の口内に誘う。ヘンリーの動揺が伝わってきて、リンファオは微笑んだ。

 ──童貞、いいかも。

 自分も大して経験が無いくせに──しかもそのほとんどが、無理やり犯されただけ──ちょっと優越感を持ってしまった。

「あなたは可愛い」

 いたずらっぽく、リンファオが耳元で囁いた。そのままヘンリーの耳たぶを、ふっくらした唇が弄ぶ。

 甘い吐息が、彼の耳の穴をくすぐった。

 固まってされるがままだったヘンリーが、呻き声をあげる。

 突然、ヘンリーがすっと顔を上げ、リンファオの動きを抑え込んだ。

「え?」

 再び押し倒され、片足の太ももの内側に、手を入れられた。ぐぐっと開かれる。

「やっ……ちょ、ちょっと」

 うろたえ、焦るリンファオを無視して、ヘンリーは片方の足を自分の肩にひっかけ、無言で足の間に顔を寄せた。

 それから、掠れた声が呟いた。

「こっちには、僕がする」

 下の唇を押し広げ、舌をさしこまれ、リンファオは悲鳴をあげる。

 どうやら煽りすぎたようだ。

 長い舌がリンファオの秘密の穴を暴くように、何度も何度も抽挿された。

 内側の粘膜を舐め上げ、かき回す。さらに、小さな膨らみを歯でコリっと噛まれた。

「ひあっ!」

 先程までのウブなヘンリーは、やはり男だったようだ。

 文字通り、豹変してしまった。

 自分よりずっと経験豊かな者のように。どういうことだ、ヘンリーのくせに。

「待って」

 子供を産んでおきながらあれだが、リンファオはそんなに慣れていない。誰が来るかも知れない庭先で、御開帳されているのだ。

 それにもう明るくなってきている。

 だいたいケンとの時は、薄暗い牢だったし……。

 しかも、ぴちゃぴちゃと恥ずかしい音をたてながらほじくられ、先ほどの余裕など霧散し、助けて、と叫びたくなった。

 ややして、恐怖を感じるほどの快楽が、リンファオを襲ってきた。

「待って、お願いっ、変になり──」
「待てないっ」

 怒ったように言われ、再び顔を突き合わされる。口の周りにリンファオの愛液が付いている。

「これ以上、待てるわけないだろ?」

 そう言うと、思いきり高く尻を持ち上げられた。ほとんど、折り畳まれるくらい。

「入れるよ、見てて」
「見てて?」

 動揺のあまり凍りつく。ヘンリーは中腰になり、ズボンの前を開けると、意外に立派なものを出した。

 思わず引くほど膨らんでいる。

 リンファオは、初めて男のモノをちゃんと見た。朝日に照らされ、神々しいほど……グロテスクだ。

「これを、君の中に入れるから。いいよね?」

 いいよね? と言いながら、既に先端をあてがっていた。

 折り曲げられた苦しい体勢の中、ぐぐっと沈む亀頭を見つめる。そのまま一気に押し入ってきた。

「あっ……あぁあっ!」

 深い位置に当たるのを感じた。

 男の人の平均の大きさなんて、リンファオは知らない。

 だが、シショウより、ケンより、どうやらずっと大きかったようだ。

 ヘンリーのくせに!?

 ヘンリーは目をつぶったまま、ゆっくりゆっくり腰を動かしだした。引き抜かれ、貫かれ、また引き抜かれ、貫かれ。

 ジュブッジュブッという音が耳に入り、動揺する。

 初めこそ太いそれが出たり入ったりするのを呆然と見ていたが、やがて脳髄がとろけそうになり、目をつぶった。

 声を抑えるために自分の手首を噛む。大声を出したら、護衛が集まってくる。ここは外なのだ。

 それでも、迫り来るなにかに耐えられそうになかった。

 ヘンリーは、童貞のくせに長かった。

 執拗なほど責め立て、その間ずっと愛でるかのように、乳房を撫で回している。

 授乳期のリンファオの乳房は、水風船のようにパンパンに張り、滴る乳でまさにミルクローションを塗ったくったようにつやつや光っている。

 ヘンリーはそれを見て、ますます興奮した。変態だと思われてもいい。容赦なくむしゃぶりついた。わななくリンファオ。

「待って、くる、何か」

 ついにリンファオが悲鳴混じりに言うと、ヘンリーの唇がそれを塞ぎ、先ほどの初々しさはどこへ? というほど荒々しく中を犯した。

 シショウの時以来だ。これほど誰かに求められていると感じたのは。

 それに、この傲慢な荒々しさは、ヘンリーというより、まるで──。

 揺さぶられていた頭が、その時真っ白になった。

 ヘンリーの打ち付けていた腰も硬直し、その身体が何度か痙攣したあと、ぐったりとリンファオに倒れ込んだ。

 リンファオは、気力が一気に解放されたことに気づいた。

 かつてないほど満ち足りている。

 わかる。

 蛟のケンにかけられた呪縛が、今、解けたのだ。

 力が戻ったのを感じる。

 つまり、自分はヘンリーを、いやエドワードを? 愛しているのだ。

 うっとりした顔で見上げると、ヘンリーの顔が歪んでいた。まるで苦痛を堪えるように。

 驚いて身を起こすリンファオ。

「どうしました? どこか痛めましたか?」

 気功の解放と、何か関係があるのだろうか。放出はしてないけれど、普通の人間には性交すら駄目だったのかもしれない。

 恐怖で身がすくんだ。

 何年も封印されていた「気」は、相手にどんなダメージを与えたのか。

 しかし、そんな心配は見当違いだった。

 ヘンリーの歪んだ顔は、すぐに邪悪な笑いに変わった。

 初めは押し殺したクスクス笑いだったが、徐々に大きくなり、最後は身体を折り曲げて大爆笑している。

「へ、ヘンリー?」
「ばーか、まだ分からないの? 俺だよ」
「エ、エドワード?」

 そう、今はエドワードだ。リンファオは何となく嬉しくなった。

 いつから彼だったのだろう。

 何でこんな気持ちになるのだろう。

 あれ、もしかして、エドワードと抱き合えたってこと?

「ヘンリーのやつが奥手過ぎて可哀想だったから、手伝ってやったのさ。上手いだろう? ヘンリーの真似」

 リンファオは困ったように、服をかき集めて身体を隠した。

「あの……」
「残念だったな。相手がヘンリーじゃなくて。だけど俺だって、おまえみたいな得体の知れない化け物とやるのは、相当我慢したんだぜ?」

 リンファオの顔が凍りつく。

 彼はズボンのベルトをしっかり締めながら、吐き捨てるように言った。

「ま、人間じゃない奴と一発やったなんて、めったにない経験だ。武勇伝ってことで──」

 エドワードの言葉が途切れた。

 リンファオが泣いているのを見たからだ。

 あまりに静かに涙を落としているから、気づかなかった。

 彼はしばらく黙り込んで、ポロポロ涙を流す少女を眺めた。

「そんなに俺が嫌なら、さっさとヘンリーとやっちまえば良かったんだ!」

 ヘンリーとやってる最中に出てきたくせに、矛盾した言葉を吐き捨てると、そのまま去っていってしまった。

 その背中を見送りながら、リンファオは唇を噛む。

(嫌なわけないじゃないの)

 自分の気持ちが分かったっていうのに。

 なのに、彼にとってはただの悪ふざけだった。

 恥ずかしくて死にそうだ。

 違う、恥ずかしいわけじゃない。

──得体の知れない化け物──

 青虎が大きくなって近づいてきた。主人を心配しているらしい。ザラザラした舌で顔を舐められる。

「大丈夫。ヘンリー──いや、エドワードから離れないで」

 青虎はクゥンと鳴くと、渋々エドワードが去っていった方に歩いて行った。

 一人で泣きたい時もあるのだ。

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