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研究特区編
北方組の下ネタ
しおりを挟む各地から任務を終えて戻ってきた剣士が里に増えたとき、シショウはやっとほぼ毎日のお勤めから解放された。
──干からびるところだった。
「正直、生き地獄だった」
シショウは、同じ儀式の時に神剣遣いになった顔なじみと、久々に話した。
自分の村で醸造した角マムシの焼酎を持ってきたシショウに、ブライは北国の特産であるウォッカを手土産としてくれた。
醸造酒のアルコール分は、気力として放出してしまい、土蜘蛛は酔えない。しかし蒸留酒はなぜか体に留まり、酩酊することができる。
なので、もっぱら祭りでは焼酎が振舞われる。
料理と同じく、その土地の酒が楽しめるのが、遠征時の魅力である。
酒が入ると、シショウの愚痴はとまらなくなった。
「子供がなかなか出来ないのは、俺の種のせいかもしれないのに。何で毎日群がられなけりゃいけないんだっ」
ブライはその大きく開いた口に、ショットグラスから飛ばしたウォッカを投げ込む。
アルコール度数九十六パーセントの、現地人ですらそのまま飲まないというやつを放り込まれ、さすがにゲホゲホ咳こむシショウ。
喉が焼けそうだ。
その背中を叩いてやったのはイシンである。本人は平然と瓶ごとやっている。
「うらやましいことで。こちとらずっと北の女三昧だったって言うのに」
その土地の女も楽しみたいが、残念ながら土蜘蛛の美的感覚からすると、里の女とは比べようがない。
「まあまあ。そこまで悪くは無かったじゃないか」
ブライが笑いながらフォローするが、イシンは首をふった。
「色は白かったがな。だけど身体はいかついし、その上固い」
さらに言うと、年配女性の劣化の激しさは引くほどだ。イシンは落ち着いたしとやかさのある年上女性が好きなのだが、北方の熟女は白熊のようだった。
「南の仕事が入ったら、褐色の肌も拝める。長老たちは、何で南の仕事を取ってこない?」
イシンは不満そうだ。ブライは柳眉を潜めた。
「頭がチリチリだって聞いたぜ? アソコの毛に火をつけたら喜ぶって本当か?」
シショウは脱力してため息をついた。
彼らは年上だからか、顔に似合わず下品な話も平気でする。
だが正直今は、各国の女の話なんてどうでもいい。
リンファオ以外、もう女はうんざり。
山猫が迷い混んできても、雌なら石を投げて追い払いたい気分だ。
「北の連中が戻ってきたなら、俺はお役御免だな。明日の船でシェルツェブルクに戻るよ」
ほっとしたように言うと、イシンとブライは顔を見合わせた。
「え、だって長老が言ってたぜ」
「シショウの種は貴重だから、巫女が一人孕むまで続けてもらうって」
天がひっくり返ったようなショックだった。
シショウは頭を抱えた。
もし不能だったら、どうする? 自分だって同族交配の産物だ。種が死んでる可能性が大いにある。
それが分かるまで、里の外へ出られないってことじゃないか。
(くそっ、リンファオ)
あのもやし小僧の、リンファオを見る目が気に入らない。
もしあの研究者が、リンファオを見初めたらどうする? 警護対象の特権を利用して、護られてやる代わりにパイオツを見せろとか迫ったら?
それに、ロウコだって。リンファオを見張るうちに、惚れてしまったらどうする?
二人とも、どうみても変態だ。しかもロウコはロリコンな気がする。
さらに他の護衛や、大学から研修に来る若者たちも居る。
誰かが、面の中をうっかり見てしまったら?
一番怖いのは──。
(俺のこと忘れられていたら、どうしよう)
離れていて不安なのは、シショウも同じだった。
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