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研究特区編
祝! 処女喪失
しおりを挟むロウコは何処に行っているのだろう。
いつ戻って来るのか、そして、それを自分たちが知ることができるのかすら怪しい。
ロウコは手強い。
森を流れる小川沿いに、奥へ奥へと入って行くシショウ。
この辺りは柔らかな緑の苔が一面に生え、リンファオの隠れ昼寝ポイントだ。せせらぎの音と、小鳥の囀りしか聞こえない。
それでもリンファオは、周囲を警戒しながら後に続いた。
「あいつ、ついて来てないな」
ある程度進んだところで、シショウが立ち止まった。
リンファオは首をかしげる。
「ロウコのことなら、分からない。もしかして、気配を追えてないだけかもしれないもの」
「俺たち二人ともが感知してないなら、大丈夫だ。君は自分の力を過小評価しすぎているよ、リンファオ。それに、俺が今言った『あいつ』はロウコのことじゃない」
「え?」
「君が守ってる、あの小僧だよ」
「ヘンリ……エドワードのこと?」
シショウは面を外した。
リンファオは、眩しそうに彼を見つめた。
ますます成長したシショウは、もう綺麗なだけではない。顎の辺りにたくましさが加わり、男の色気のようなものさえ伺える。
「あそこまで武に携わってない奴だと、逆に警戒心が働かなくて気配に気づけないのかも。……あの少年は、君にご執心だ」
「え?」
「たぶんリンファオのこと、好きなんだよ」
リンファオは吹き出していた。鈴を転がしたような声で笑う。
「やめてよシショウ。私に興味なんて無いよ。というかあの人、女に興味ない。研究が恋人だから」
シショウの勘違いに、クスクス笑いが止まらない。
「根っからの学者バカなんだよ。ヘンリーの方は優しいけど、誰にでもだし」
ヘンリーのいつもの行動を思い出す。またお腹の底から笑いがこみ上げてくる。
「平坦な道をただ歩いているだけでもすっ転んだり、突然大きな声で数式を叫びだしたり。色恋なんて考える余地が無いってば」
ザ・童貞。童貞王。コミュ障。オタクの中のオタク。あり得ない。
「エドワードなんてもっと変な人だよ。四六時中、周囲の人間に噛み付いて怖がらせようとして、でもなんかガキがいきがってるみたいで滑稽でね。この前研究員たちに厨二病って言われてカンカンに──!?」
「黙って」
苛立った声と共に、いきなり抱きすくめられるリンファオ。驚いて逃れようとするリンファオを、シショウは無理やり押し倒す。
「シ、シショウやめてよ。どうしたの、なんか怖い……あっ」
首筋を吸われて、パニックになるリンファオ。
「月のモノが来たって聞いた」
シショウの声は上ずっている。
「もう子供じゃない」
リンファオは、いつもの穏やかなシショウではないのを感じ取った。
訳のわからない恐怖に駆られ、必死に離れようとする。そして、男の力を実感した。
でも、あのシショウを気功でぶっ飛ばすわけにもいかないし……。
「外すよ」
フードをめくり、リンファオの艶やかな髪を露出させると、今度は面に手が置かれる。
そおっと、奇怪な土蜘蛛の面を外した。
息を呑むシショウ。
リンファオは、顔をそむけた。
「私の顔は、駄目だってレン先生が。災いを呼ぶって──!」
シショウの唇が、リンファオの言葉を最後まで言わせなかった。
リンファオの後頭部を支え、自分に押し付けるように、接吻する。顔中に。
「こんなに綺麗になっていたなんて……俺のものだ。全部俺のものだ」
口づけを止めると感慨深げにそう呟いた。
赤くなるリンファオだが、今度は衣の紐を解かれて、小さく悲鳴をあげた。
「ちょっとまって、駄目だよシショウ。里の許可が降りてない」
シショウが血走った目をギラギラさせながら、顔を離す。
「薬、飲んでいるだろう? 里長が恐れているのは災いの子を残すか残さないかの一点だ。こんな機会はもう無い」
目を見開いて見つめるリンファオの背中から、彼は神剣をむしりとり、柔らかい苔の上に放る。
そしてあろうことが、リンファオの黒衣の上着の合わせを広げたではないか。
気が動転して、本当に気功を撃ってしまいそうになる。だが、シショウの呆けたような顔を見て止めた。
「シ、シショウ?」
細かく編んだ、糸のように精巧な鎖帷子。その網目に覆われた肌の露出に、シショウは目を奪われ動きを止めていた。
しばらく絶句し、ややして長いため息をつく。
硬気功が不得手な者はよく装着しているが、女が着ると……裸よりもずっと扇情的だ。
乳房が押し上げたその小さな網目からは、可愛らしい朱鷺色の乳首が飛び出している。
シショウは頭を抱えたくなった。
「リンファオ、きみ、これはないだろ。一枚脱いだだけでこんな無防備な……いやらしい格好をしてたの?」
リンファオは、震えながらシショウを見上げた。黒目がちな目が、懇願しているように見開かれている。
シショウは眩暈がするほどの欲望を感じ、生唾を飲み込んだ。
濡れ光ったような紅い唇が、おずおずと答える。
「硬気功がいつでも発動出来るか分からないから、念のため。あの、いつもは下に麻布をきつく巻いてるの。乳首痛いし、女だってバレたらダメだってロウコが。今日はたまたま忘れたの」
「俺のために?」
「ちがっ寝坊──いやああっ」
鎖帷子の上から乳房を舐められて、リンファオは叫んだ。
まだ幼さの抜けない声が、たまらなく愛おしかった。
「もっと声が聞きたい」
シショウは美しい顔を両手で挟んで、囁くようにそう言った。
そしておもむろに、リンファオの下穿きの紐をほどきだした。驚くリンファオに優しく微笑んでみせてから、足首で絞ってある袴を下着ごといっきに脱がす。
柔らかそうな恥毛は、肌が透けるほど薄い。
リンファオは、恥ずかしさのあまりぎゅっと目を瞑った。
シショウの長くて細い指が内腿を這い、やがて股間に到達する。
ビクッと反応する身体。思わずシショウの手首を掴んでしまった。
「大丈夫。怖くないよ、開いて」
リンファオは硬直している。
メイルンの行為を覗いたくらいで、こういうことがまったく分からない。
リンファオの混乱を感じて、シショウはまた安心させるように微笑んでみせた。
なんて可愛いんだろう。
味わうように、紅い唇を舌でなぞる。甘い。
リンファオがほんの少し口を開けた隙を逃さず、口腔にその舌をねじ込んだ。
愛らしい小さな舌を見つけ、ねっとりと絡めとる。
リンファオがおそるおそるだが、それに応えだした。すするようにお互いの粘膜を探り合う。
しばらく続けていると、リンファオの足の力が緩んできた。シショウはすかさず指を入れた。
「あっ、駄目!」
リンファオが唇を離し、泣きそうな顔で叫んだ。内腿を必死で閉じようとする。
(力じゃ叶わないのに……可愛い)
シショウは腿を両手で開かせた。
「なっ……いやっ」
そんな場所は、人に見せていいものではない。
シショウの指が、リンファオの肉の襞をめくり、つつっと裂け目をなぞる。指先が濡れた。
「なんだ、キスだけで濡れちゃったんだ?」
トロリと濡れた指先を見せられ、リンファオの顔が染まった。
なんで濡れるのか分からないけれど、とても、とても恥ずかしい。
いけないことをしてしまったみたいで、涙ぐむリンファオ。
「はうっ」
羞恥に顔を背けたリンファオがびくっとなった。シショウの細く長い指が、突起を摘まんだからだ。皮を剥くように、コリコリと転がす。
ピリッとした刺激に、思わず腰を浮かせるリンファオ。
シショウの目の前で、可愛らしい花びらの奥から、透明な愛液が溢れだした。
現実離れした美しさの少女が、こんなにも生々しい反応を見せたことに、シショウの心は高ぶった。
じっくりゆっくり、彼女が花開いていく様を楽しみたい。
悶え乱れるまで、いじくりたおしたい。
だけど、ロウコがいつ戻るか分からない。ゆっくり堪能できないのだ。
今しか、リンファオをものにするチャンスは無いかもしれない。
「楽にして」
シショウは内腿をさらにこじ開けるように、自分の身体を割り込ませた。
そして自らも、下穿きを少し降ろす。
おそらく、どうするのかリンファオは分かっていない。姐巫女たちに教えてもらうことが出来なかったのだから。
だがそれがなんだと言うのだろう。欲望は女にもあり、性行為は本能的なものだ。
「俺が教える」
怯えるリンファオの長い両足を肩の上に担ぎ上げると、必死で濡れた股間を隠そうとするその両手を掴みあげた。
シショウの一部が、リンファオの鳥羽口をつついた。
「ごめんね、最初だけだから」
涙目で首をかしげる美の結晶に、シショウはすまなそうな目をむけ、そして──一気に貫いた。
「っ……!」
リンファオは、痛みのあまり声も出なかった。
硬気功を撃たれるのでは? という心配がシショウの脳裏をよぎったが、その考えも、リンファオの中のあまりの気持ち良さにとろけ、霧散した。
必殺技みたいな名前のついた、すごい気功砲を撃たれてもいいと思った。
それでも放す気は無かっただろうから。それほどの感覚だった。
リンファオの中は滑らかで、生き物のように吸い付き、シショウを絡めとる。
リンファオは痛みで身をよじっているのに、シショウはまるで、天国にいるかのような錯覚に囚われていた。
「大丈夫だよ、力を抜いて」
「だめっ、動かないで!」
修行中、痛みならばいくらでも経験した。気を抜けば殺されているほどの、実戦さながらの修行だったのだから。
だけど内側から壊されるような、こんな痛みは初めてだ。
シショウが腰をゆっくり動かし始めた。裂けそうだった。
リンファオの大きな瞳から苦痛の涙が零れ落ちる。
「あぁぁぁっ痛いっいたぃっやめて──」
「ごめん」
荒い息をつくシショウ。これでも抑えているのだ。しかし、動くのは止められない。気持ち良すぎて。
しかし数回目で、リンファオは涙に濡れた瞳を見開いた。
痛みが減った。
痛みよりも何か、不思議な感覚が生まれてきた。
くちゅっくちゅっ、という音が耳に入る余裕が生まれた。
これはシショウと結合している音。長く熱いものが、肉壁を擦りあげながらリンファオの中をいったり来たりしている。
もっと。
身体の芯に届いて欲しいような、渇望が生まれたのだ。
もっと。もっと。
「シショウ?」
「ん?」
シショウの声はかすれていた。
見ると、あまり汗をかかないはずの土蜘蛛の額に、びっしり汗を浮かべ、目が血走っている。
なにかに堪えているようだ。
リンファオは、そんな人間くさいシショウが物珍しく、濡れ光る紫の瞳を潤ませたまま、じっと見つめた。
シショウはうめいた。
リンファオの無垢な美しさを見ているだけで、闇雲に突きまくり、射精したくなる。汚してやりたくなる。
ダメだ、彼女は初めてなのだ。
リンファオの可愛らしい唇が開いた。
「シショウ、もう大丈夫みたい。だから……もっと早く動いて」
リンファオの言葉は、シショウの中の冷静さを全て奪った。
獣じみた凶暴さでリンファオをかき抱くと、その耳に囁く。
「いくよ?」
孤独だったリンファオにとって、一族の者とは言え、他人と一つになる感覚は強烈だった。
トンットンットンッと、奥の壁に当たるたびに、目の奥が真っ白になる。乳房が張り、鳥肌が立ち、乳首が固く尖るのが自分でも分かった。
シショウは薄く柔らかい鎖帷子をたくしあげると、ぷりんと飛び出した双丘を掴みあげた。柔やわと揉みしだきながら、固く尖った先端を転がす。
「んっ……んっ……んっ」
必死で声を堪えるリンファオ。しかしその間も腰の動きは止まらない。リンファオは、だんだん訳が分からなくなっていた。
自分を翻弄するその感覚に、か細い声で鳴き続けるしかなかった。
脳内がふわりと浮き、二つの個体が溶け合っているのを感じる。
精霊を初めて身体に落としたときの感覚に似ているかもしれない。
それよりもずっと身近で、現実的だったけれど。
何度もなんども奥を突かれ、リンファオは知らないうちに、声を大きくしていった。
それは、自分でも驚くような、女のあえぎ声だった。
森に響き渡る艶やかで甘い嬌声は、絶頂を迎えると絶叫に変わっていた。
リンファオは、まだ信じられないような表情を浮かべ、呆然と横たわっている。
その上にぐったりともたれかかった、シショウの若い身体を抱きしめ、森の木々の間から覗いた青い空を見つめていた。
「くそっ」
シショウは囁くように罵った。
「こんな時、土蜘蛛に生まれたことを後悔するよ」
「え?」
リンファオはぼんやりと聞き返した。
シショウがむくりと起き上がる。そしてリンファオの汗まみれの頬に張り付いた髪を、どかしてくれる。
「里に帰って繁殖の儀式だって? 君と寝た後に、他の女のことなんて考えられないよ」
リンファオの胸が痛んだ。そうだ、シショウはこれから一族の男の義務を果たしに、里へ行くのだ。
「勃つ自信が無い」
リンファオはいつの間にかめくれ上がっていた鎖帷子を下ろすと、起き上がり、黒い着物を羽織った。
その頬が、情事の名残でほんのりピンクに染まっている。シショウは思わず見とれてしまった。
「レン先生が、何で君に面をしていろと言ったか分かったよ」
長い睫毛を瞬かせながら、問いかけるようにこちらを見るリンファオ。シショウはまた股間が元気になってくるのを感じた。
「傾国の美姫、ってのが古の、東の大陸の小国家に居たろ? 歴史の授業で習った。君もそうだよ。君が欲しいがために、周囲で争いが起こる」
シショウは目をそらした。
リンファオを攫って逃げたいという、恐ろしいほどの衝動にかられている自分だからこそ、分かる。
いっそ、リンファオに繁殖の許可が降りなければいい。
この娘は、俺だけのモノだ。独り占めにしたい。
「その顔、俺以外の誰にも見られていないだろ?」
リンファオはギクリとなった。エドワードに見られた。だけど、見てないことにした方がいいのだろうか。
「見られてない」
迷った末にそう言った。
※ ※ ※ ※ ※
二人がその場所を去ったあと、木の上でやっと瞑想を解いた男がいた。
彼の最も得意とする技は、草木になりきること。
一部始終を見ていた蛟のケンは、気配を消す業を解くと、肩をほぐした。
思い出しただけで、身体が熱くなってくる。
危うく術中に、煩悩に取り付かれて勃起するところだった。
そうなったらいくら隠業の得意な自分でも、今頃は発見され、命は無かっただろう。
二人とも相当な手だれだ。
「やはり女だったか」
ケンは、面を取った二人の絡みを思い出し、ゾクゾクと身体を震わせた。
鳥肌がたっている。
あれほど耽美的な光景は、この世に二つと無いだろう。
「すごいお宝を見つけた」
ケンは耳まで裂けそうな笑みを浮かべる。
蛟にとっては、ヘンリー・アターソンなんていう金づるすら、どうでもよくなるほどの宝だった。
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