孤独な美少女剣士は暴君の刺客となる~私を孕ませようなんて百年早いわ!~

世界のボボ誤字王

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研究特区編

リンファオ左遷される

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 神剣とわずかな荷物、そして簡単な地図だけで指示された施設に向かうリンファオ。

 案内一人つけてくれなかった。

 帝都の市門を出て、皇帝の狩場の森も出る。

 丘を登って降りて、降りたと思ったらまた登る。

 案内役ぐらいつけろ、と何度も立ち往生しながらリンファオは愚痴った。

 ついには馬では入れないような森林地帯になり、仕方なく馬を置いて徒歩で向かっている。

 急ぎということなので一応走ってはいるが、なぜ急がなければならないのか、理由は聞かされていない。

 そして、自分一人だけが行かされる理由も謎だ。まあ……じっさいは一人ではないのだけれど。

「いいのか?」

 馬を降りてから、森の木々の枝を足場にしてついてくる死神に、リンファオはボソボソと問いかけた。

 息切れもなく話すことは、土蜘蛛の剣士ならば神剣遣いでなくてもできる。

「皇帝の警護が、土蜘蛛の任務なのだろう?」

 ザザッと音がしたかと思うと、リンファオのそれよりさらに奇怪な面の男が、目の前に立ちはだかった。

 リンファオは立ち止まる。

 危険な死の臭いをさせた男。ロウコはいつでも厄の子を見張っている。

 もちろん、最初からつけられているのは気づいていた。

 けっきょくリンファオは、この男と組んでいるようなものなのかもしれない。

 だからいちいち身を隠さなくてもいいのに、と思う。

 ロウコも、見つかっていることを気にした様子もなく応えた。

「帝国の要人の警護は契約に入っている。皇帝自らに依頼された時だけだが──。自分の息子たちや、重大な使命をおびた将軍の護衛を土蜘蛛に命じることは、今までもあった。武の者の護衛は一番死亡率が高い。土蜘蛛がいるからと、無茶して敵陣に飛び込むからな。今回北で死んだ二名の剣士もそうだ。……だから、わざわざ里に断りをいれる必要の無い類だ」

 要人……とリンファオは呟く。

「だけどニコロスは、あまり私の力を買ってないように思える。私を充てるくらいなら、他の神剣遣いにすればいいのに」

 それとも、気味の悪い下賎の人種が自分の娘と関わったことに、腹を立てたのだろうか。

 宮殿からずいぶん離れたところに飛ばされてしまった。シショウにも会えない……。

 いっそ、里に戻してくれるなら別にそれでもいい。メイルンにも会いたいし……。

 ロウコはリンファオの愚痴を黙って聞いていたが、やがて低い声で告げる。

「おまえの腕は里長が保証している。若い剣士の中では、シショウか……リンファオ。実戦経験はほとんど無い奴らを、里一番の剣士だとな」

 どこか不満そうだ。リンファオも唇を尖らせた。

「じゃあなんで、こんな郊外に飛ばされるんだ」

 ロウコは呆れたように、リンファオの面を見つめた。

「厄の子よ、ウィリアム・アターソンという名を聞いたことが無いのか?」

 こくりと頷くリンファオ。

 しばしロウコは固まっていた。

 厄の子が村八分になっていたこの二年より前は、巫女見習いだった。

 剣士が仕入れていなければならない情報も、入る余地が無かったのだ。

 ロウコは軽く息をつくと、仕方無さそうに話した。

「アターソンの一族は、多くの技術会社を作った開発者の集団。ウィリアム・アターソンは現在その一族の当主だ」

 開発者と聞いてもピンと来ないリンファオは、彼が続けるのを待った。

「皇帝は貴様のことを軽んじているわけではない。その証が今回の任務だ」

 怪訝そうにするリンファオに向かって、ロウコはきっぱり言い切った。

「アリビア帝国の繁栄の立役者であるアターソンの一族。その中でも昨今の軍事技術は全て、そのウィリアム・アターソンという男が構築したと言われている。ある意味、皇帝よりも需要人物だ」

 リンファオは息を呑んだ。そこに至急赴けとは、いったい何があるのか。しかも都から近いくせに、うっそうとした山の上にあるという。

「で、その開発研究特区ってどこよ?」

 問いかけると、ロウコはまた目の前で姿を消した。どこからか声が降ってくる。

「知らん。貴様が迷ったらそれまでだ」


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