ケツあご提督は専用肉便器を奪われる

世界のボボ誤字王

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第三章

ケガは呪い師が治しますが何か?

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──ドーォォンッ

 耳をつんざくような音が、夜の闇を引き裂いた。

 ザッカーニャが飛び起きて服を着ると、隣の女が寝ぼけていたのか、自分より先に何か叫びながら船長室を飛び出していった。

「待てっ」

 思わず故郷の言葉で叫んだが、もちろん女は止まらない。



「ジョルジェ、状況は?」

 近くの水夫に言ってから、相手の顔がよく見えないことに気づく。

「……誰だ、おまえ」
「マイアヒーノマイェーノマノマ」

 異国の言葉にうろたえ、マリアは目をこすった。夜の闇に溶けそうな黒い顔。

「オイ、勝手にウロウロするナ、あとパイオツ丸見えダゾ」

 カタコトの公用語で、背後から肩を掴まれる。

「あれ?」

 マリアはやっと自分が拉致されていたことを思い出した。慌ててタパを引き上げながら、周囲を見渡す。

 ザッカーニャの白目が、濃厚な夜の闇に光っていた。

 目をすがめて、遠くの闇の一点を見つめている。

「どこかで見つカッタ。昼からつけられていたラシイ」

 その直後、沖で微かに白い光がはぜた。

「伏せろっ」

 マリアは周囲に向かって叫んだ。その腰を抱くようにザッカーニャがマリアの上から覆いかぶさる。

 爆音と、木製のデッキが弾ける音。バラバラッと破片が降ってくる。

 辺りが静まり返った。

 マリアは衝撃が去ると起き上がって命じた。

「船の灯りを消せっ! 的になってるぞ」

 アカリア人水夫たちが、戸惑ったように顔を見合わせている。

 言葉が通じないのだ。

 ザッカーニャほど公用語に触れていないのか?

「コラックメーンチョボラギノル」

 ザッカーニャが、やけにのろのろ身を起こしながら周囲に言う。訳してくれたようだ。

 船尾灯を含め、ランタンが消される。

 その時、やっと聞き取れるくらいの細い笛の音が天空に響き、他の船も明かりを消した。

 マリアには聞こえるか聞こえないかのその小さな笛の音で、他の艦と連絡がついたことに驚いた。

 一角鮫を追い払うとかいう、あの笛だろうか?

 再び、微かな光と、遠くから空気を震わせるような発射音。

 上からまた押さえつけられたが、弾は直撃せず、近くに水柱があがった。

「コロンディアか? 夜間に攻撃してくるなんて、大胆だな。砲弾の無駄遣いもいいところだ」

 マリアが重そうに、大男の下から這い出る。普通は夜に撃ってこない。当たらないのだから。

 ところが、それに応えたのは呻き声だった。マリアがハッとなってザッカーニャを探す。

「おまえ、ケガしたのか? さっきの砲撃でか?」

 マリアは闇の中、血臭を嗅いだ。おそらく、酷く流血している。

 この辺りの海域は深く、座礁しそうな陸地も近くにはない。

 それでも仲間の船とぶつからないよう、夜間走行は帆を減らし、のろのろしたスピードを保っていた。

「今、どのあたりだ?」

 早朝、最大のウエスティア主要貿易航路にある、バタヴィア沖に着くはずだった。

 バファマ諸島にあるベラスケス島バタヴィア港は中立的立場にあり、港湾内部及び沿岸は戦闘禁止区域だ。

 しかしその沖ではこの航路の覇権と積荷をめぐって、各国の戦闘が絶えない。

 ザッカーニャの軍艦五隻もそれを狙うつもりで、隠れ家を出港したのだ。

「オレとしたことが、しくじったナ。朝のモヤに紛れて、オソウつもりだたノニ……」

 マリアは、苦しそうな声がする方に目を向け、思案する。

「他に、言葉が分かる奴を呼んでくれ」
「……?」

 ザッカーニャは困惑しながらも、痛みをこらえたような声で、しかし闇に響く大声をあげた。

「チンゲーニャ!」

 すぐ近くで応える声。

「ザッカーニャ、わが王よ、どうしゃれました?」

 滑らかな公用語。ザッカーニャより上手い。同じ奴隷でも、白人と深く関わるポジションにいたのだろうか。

 マリアは、近づいてきた人の気配に向かって告げる。

「おまえらのボスが負傷した。衛生兵──治療できる奴はいるか? それと、代わりに指揮を取れるやつはいるか?」

 黒い影が驚いたようにこちらを見る──気配がした。

「あんた何様でごじゃいますか」
「……お客様だ」

 チンゲーニャというちょっと白人からしたら卑猥に聞こえる名前の男が、他の乗組員を呼びつける。

「彼は悪魔祓い師でございます。彼に、今から治癒のウンボボダンスをさせますので、ドラの音を──」
「大きな音を立てるな。ザッカーニャを船の中に連れて行って、小さな灯りで傷を調べろ。可能な限り木片を取り除いて、清潔な布で抑えて血止めするんだ。消毒の瓶くらい置いてあると思うのだが、字は読めるか?」
「ご主人様のお仕事、おみょに会計を手伝ってマシタにょで」

 少し自慢げに聞こえる声。

「コロンディアでも石炭酸の瓶くらいあると思う。暗くて不便だろうが、探してくれ。それを煮沸した布に付けて、傷に当てろ。アヘンの痛み止めはくれぐれも少量。それと、施術中は外に灯りが漏れないようにしろ」
「しかしお客様、ウンボボダンスで悪霊を──」
「黙って言われた通りにしろ。他にさっきの砲撃で負傷者は?」
「わっかりませーん」
 
 イラッとした。

 アリビア水軍なら、ムチ打ちにしてくれるのに。

 マリアの不穏な気配に気づいたのか、チンゲーニャはオロオロしながら仲間に今の指示を伝えた。

「出来うる限り帆を張れ。灯りは絶対付けるなよ。他の船と距離を取り、ぶつからないように逃げるぞ。その変な笛で合図を決めているのだろう? すぐに旗艦に倣えと伝えろ」

 続けてそう命じると、暗闇に慣れてきた目で周囲を見渡す。

 彼の元上官であるアーヴァインの書いた著書『海戦必勝法』を頭の中でめくる。

 夜戦時の戦い方も載っていたはず。

 実際、奇抜すぎて使い物にならない戦略が多いと言うが……。

 なにか……なにか無いか? ハッと、記憶の断片を思い出す。

「短艇を一艇降ろして、ロープで繋げ。簡易マストを立て、船からうんと離れたら、できるだけマスト上部に大きな灯りをつけろ。点灯役は、泳ぎのうまい奴を選べ。点灯したら速攻で泳いで艦に戻れと伝えろ。でないと粉微塵にされるからな」

 チンゲーニャは、マリアの命じなれた口調に背筋を伸ばした。今は従うべき人物だと認識したのだ。

 正直、ご主人様を思い出していた。あの女主人のムチの味は良かった。

「はい、お客様」
「急げ、夜が明ける」
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