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第二章

海水で洗ってもベタベタは取れません

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 目を覚ますと、果物が置いてあった。

 喉の渇きもあって、貪るように食べる。南国の新鮮な物だ。

 この島で採れるのだろう。

 雑に切り取られたような窓から外を見ると、森から海岸沿いに丸太を運んでいく者たちが見えた。



「オマエ一緒、オマエ船乗る」

 掘っ立て小屋に入るなりそう言ったザッカーニャ。

 昨夜は本当にマリアを休ませてくれた。水浴びはさせてくれなかったが。

 巻いた葉煙草を咥えた彼の、やや気だるげで横柄な喋り方に、再び誰かを思い出してしまった。

 唇を噛む。

 思わず、殺気すらこもった視線を向けてしまう。

……あの人に似ているなんて、気のせいだ。

「アレ? オコテル?」

 一瞬怯んだザッカーニャに、マリアはもう一度、自分の髪の毛を摘み、要求を突きつける。

「臭いっ、汚いっ、体を洗いたい」

 ザッカーニャは肩をすくめると、いきなりマリアを抱き上げた。マリアは浮き上がった体に驚いて、思わず彼のチリチリの頭にしがみついた。

「放せ、自分で歩ける」

 ジタバタ暴れるマリアを担いだまま砂浜を進むと、海の中に投げ飛ばす。

 飛沫を上げてひっくり返るマリアを見て、くわえタバコのまま満足そうにうなずく。

「新しい服……タパ、モテくる。逃げたらコロス。マッパで逆さま海しずめる。故郷では、スケッキーヨの刑いう」

 縛っていたロープを放し、彼は去って行った。マリアは呆然とその背中を見送った。

 前にもこうやって川で水浴びしたことがあるな、と感慨にふける。

 まあ、ここは海だけれど。

 あの時は、中将──いや、元帥──はロープの端っこを持って、しっかり監視していたけれど。

 あのあと強姦されて……。うふふ。

 はっ、いや、いけないいけない。妄想にふけってしまうところだった。

 海水でも洗わないよりマシか。

 マリアは引きちぎられて見事にボロボロのシャツを脱ぎ、ワークズボンを砂浜に放った。

 全裸になると、ミケーレ諸島を思い出すような青い海に入っていく。

 このあたりの海も綺麗で良かった。

 後で日焼け止めの塗り薬をもらおう。火脹れしてしまう。

 髪を濯ぎながら、これから自分はどうなるのだろう、と未来の自分に思いを馳せた。

 もちろん、どんなことをしてでも、逃げるつもりだった。

 もう一度、あの人に会うために。
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