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第八章

アッサール、モテる(作者? の都合で三人称)

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 シャンデリアの光が、広間の艶やかな床に影を落とす。

 人々は、仲良さげにお喋りを楽しむ聖女と大魔王の姿に驚き、あれこれ噂していた。

「まるで旧知の仲だ」 
「聖女様があれほど心を開いて話しておられる」
「大魔王って随分親しみやすいのね」
「和睦も悪くはないのかもしれない」

 そんな前向きな囁きが、アッサールの耳に入りだした時、彼を取り囲む状況も変わってきた。

 会場で魔族一人佇んでいる浮いた状態が、一転したと言っていい。

「あの~、お酒とかお料理とか、召し上がらないのですか?」

 貴婦人たちが連れ立ってアッサールを取り囲み、話しかけてきたのだ。これでは先程の魔導士状態である。

(一体なんだ??)

 アッサールは金の瞳を細め、彼女らを睥睨した。

「やだぁ~怖い~」
「でも、危険な魅力だわ」
「目が合っただけで妊娠しそう」

 そんなわけあるか。

 気を利かせたつもりか、一人が飲み物を差し出してきた。アッサールは手でそれを止め、首を振る。

「デザートもございますわよ?」
「カメムシやイナゴの方がよろしいかしら?」
「なんなら私、今から採りに行ってきますわ!」

 なぜカメムシなら食うと思うのか。

「飲み食いしなくても生きていけるので、大丈夫です」

 追い払いたかったが、和睦の場で人間に無礼な態度も良くないな、と思い、ギギッと固まった笑顔で礼を言う。

「お気遣いありがとう、美しいお嬢さんがた」

 きゃあああああ素敵~っ、と黄色い声と共に何人か崩れ落ちる。

(なんだ? なんで失神したんだ!?)

 困惑しているアッサールの目が、こちらに来ようとしている主人を見つけた。

「大魔王さま」

 失礼、と貴婦人たちの包囲をすり抜け、主人のところに行こうとするも、今度はあちらが囲まれてしまう。

 男どもに……。

「大魔王、私と一曲踊ってください」
「少しお時間をいただけませんか、麗しき大魔王」
「お腹がすいているようなら、ぜひ私めの精力をお試しください」

 アッサールの体が怒りと嫉妬で燃え上がる。

 人間どもが調子に乗りおって!

 本来なら目にすることも叶わぬ存在ぞ! ジロジロいやらしい目で──目玉を全てえぐりだしてくれる!

 彼の主人は男たちを掻き分け、アッサールの方へ来ようと苦戦している。揉みくちゃにされながら、自分の方へ必死に来ようとしているその姿に、アッサールの胸がじんわり温まる。

「あ、パイオツが当たった! ラッキー」
「いい匂いだなぁ」
「美しすぎる。背徳的な恋がしたい!」

 男たちの囁きをスーパー聴力が聞き取ってしまうまでは。

(そうか、今日が人類滅亡のハルマゲドンなのだな!)

 と、人間どもを魔力で肉片にしようとした瞬間、目の前に大魔王がいた。

 転移してきたのだ。

 勇者パーティーにいたデカい騎士が、さらに大魔王を追ってこようとする男たちを追い払ってくれる。

「国賓であられるぞ、礼を持って接して頂きたい!」

 大魔王は彼に親指を立てた。騎士ロランは肩をすくめる。

「ふう、やっと抜け出せたわね。アッサールも囲まれて大変そうだったじゃない。なんか勇者たちや聖女としゃべっていたら、みんな警戒を解いてくれたみたい」

 大魔王はそう言うと、アッサールの腕に手を添え、そして人間たちにきちんと向き直る。

「皆さん、我々はこれで失礼します。ですが、お約束いたします。私は魔物の王としての責務を全うする所存でございます。人間に危害を加えることを魔物たちに許しません」

 さらに真顔でキッパリ宣言した。

「同時に、魔物の保護者として、人間が魔物に害を為すことも許しません」

 シーンとその場が静まり返る。

「魔物と人が共存する世界を創るために、尽力することをここに誓います」

 言い終わると、誰もが見とれるような慈愛に満ちた柔らかい微笑みを浮かべ、ウィンクしてみせた。

「じゃあね、人間」

 言うが否や、大魔王はアッサールを連れて転移していた。
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