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第八章
くじびき
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けっきょく、希望者でくじ引きすることになった。
トンボールが一番に引いて落選し、またカメムシを投げつけて泣きながら去っていく。
「ファッビオは無理ね」
私は部屋の隅の檻に目をやる。そこには、鎖を引っ張り、必死で格子を噛み千切ろうとしている獣人がいた。
「こらだめよ、歯を痛めるわよ」
発情期である。ちなみに今は人型だが、それでもずっと興奮しているので、拘束しているのだ。
「はぁ……はぁ……お願い……大魔王さま……はぁ……はぁっ……僕を連れて行ってください……はぁはぁ……何もしないから……大人しくしてるから……ちょっと貴女の○○○をぺろぺろして×××を××するくらいで……うっ!」
しごきながら言うなぁぁあああ!
だめだこりゃ、発情期が終わるまで可哀そうだけど近づけないわ。こわっ。
「リュディガー! お前今、ズルしただろ!? 一人一回しか引いちゃダメなんだよ!」
触手の一本を、電光石火の勢いで掴んだローザが怒鳴る。
「いたいたたた! ローザさん、あんた可愛げなくなったけど!?」
必要以上に怪力マッチョにされた新生ローザ(♂)に掴まれている触手は、うっ血して白くなっている。
「ねぇ、おやめなさいよ」
私が宥めているその間に、アッサールが無表情でくじの箱に手を入れた。それから手を抜くと、赤いボールを握っていた。
「あ、当たった」
ボソッと言うアッサールに、リュディガーと新生ローザはガクッと膝をつく。
「あーあ」
「お土産持って戻ってくるから、待っててね」
笑いかけると、二人とも私を見てうっとりとなった。ほんとうに大魔王が好きなんだな、と申し訳なくなる。本当は、中身はただの人間なんだけどね。
ヘビオとヘビ子が指をポキポキ鳴らしながら近づいてきた。あ、ちなみに今は人型だから手があるのね。
「さて、二人とも。とびっきり素敵に着飾ってあげますニョロ」
※ ※ ※ ※ ※
神聖グーグラリア王国に転移した私たちは、まず罠が張ってないか調べた。神殿は破壊されて半分が無くなっている。
王宮は無防備で、なんの結界も張られていなかった。どうやら聖王の気は変わってないらしい。
「大丈夫そうね」
ほっとしつつ後ろを振り返ると、アッサールが渋い顔をしている。
「羽織り物をちゃんと着てください」
私はアッサールからショールを渡されて、首を傾げた。
「寒くないよ?」
「目のやり場に困るんです」
ヘビオとヘビ子はがんばりすぎて、また破廉恥なドレスを仕上げてしまっていた。体の線に沿って流れ落ちる黒のシルクは、光沢があり見るからに高級そうだが、めっちゃエロい。
「黒レザーじゃないだけマシだわ。ちゃんと下着もつけてるし」
アッサールはふぅと息をつき、首を振る。
「聖王の目を引きたくない。それに──」
ふっ、と王宮広場に入って来た馬車に目をやった。私もその馬車に気を取られる。
……なんだあれ、シンデレラも真っ青な、カボチャ型の派手なやつだ。
ガチャと扉が開いて、懐かしい顔ぶれが覗く。
「テオフィル」
私の胸に湧き上がるのは、どんな感情だったろう。
少なくとも、彼の顔を見ても辛くはなってない。驚くほど心は穏やかだった。ただ、じんわり温かい物に満たされていく。
「ジーク、それにメルヒオール」
三人とも、私を見てちょっと緊張した面持ちだ。
彼らの記憶もアッサールと同じく、聖王が始祖ゴルゴンゾーラと分かる前に戻されている。
けっきょく、私たちは神殿での戦いに決着がつけられず、あの場を撤収した……ことになっている。その後、聖王から和睦を申し込まれた……ことになっている。だからこの緊張感は、当然と言えば当然なのだ。
「ファッビオは、元気ですか?」
テオフィルが固い表情でそう聞いてきた。ファッビオが魔物側に寝返ったことはそのままの設定だ。
「うん、元気に発情してる」
ジークがプッと吹きだした。
「なんだよそれ」
ふっと、緊張感が解けた。
「ロランとアレクシアが、王宮の出入り口まで出迎えてくれている、行きましょう」
メルヒに促されて、私たちは丘の上の王宮に向かった。階段でのぼるときっついわ。
「ようこそ!」
アレクシアが飛び出してきた。ロランが慌ててその後を追ってくる。
「テオフィル、届けた服着てくれたのね!」
思い切りテオに抱き着きに行くアレクシア。それから私をふふん、と見る。ああ、牽制ね、攻めてるわね。うん。
「お久しぶりだこと、相変わらずクソみたいにケバいわね、このビッチ」
「アレクシア!?」
勇者一行が仰天した。私はイラッとして言い返す。
「テオフィルのこの金色のジュストコール、あなたの趣味なの? ぷっ、ダッサ」
「何言ってるだっちゃ! ジュストコールと言えば、世の異世界恋愛好きにはたまらないチョイスだっちゃ!」
「バカ言うんじゃないわよ! 詰襟軍服マントの騎士スタイルにサーベルでしょうが!」
「そんなの、騎士とはもう言わないっちゃ! 軍人だっちゃ! 騎士は中世に滅びたっちゃ!」
ロランがうっと顔をひきつらせるが、お互いディスりあっている私たちは気づかない。
「いつの時代設定なのよ! あと金色ってどこの成金なのよ!」
「テオフィルなら何着ても似合うっちゃ!」
「披露宴で新郎がチョイスしたら演歌歌手に間違われるアレと一緒じゃないの!」
「ぐぬおおおおお!」
ついには殴りかかってきたアレクシアの頭を手で押える。寸足らずの聖女は腕を振り回してもがいた。
「届かないでやんの、バーカバーカ!」
取っ組み合いに発展しそうな私たちを、唖然と見ている勇者一行&アッサール。
私たちはやっとそれに気づき、やっと離れた。おほんと咳払いする。
「さて、行きましょうか」
トンボールが一番に引いて落選し、またカメムシを投げつけて泣きながら去っていく。
「ファッビオは無理ね」
私は部屋の隅の檻に目をやる。そこには、鎖を引っ張り、必死で格子を噛み千切ろうとしている獣人がいた。
「こらだめよ、歯を痛めるわよ」
発情期である。ちなみに今は人型だが、それでもずっと興奮しているので、拘束しているのだ。
「はぁ……はぁ……お願い……大魔王さま……はぁ……はぁっ……僕を連れて行ってください……はぁはぁ……何もしないから……大人しくしてるから……ちょっと貴女の○○○をぺろぺろして×××を××するくらいで……うっ!」
しごきながら言うなぁぁあああ!
だめだこりゃ、発情期が終わるまで可哀そうだけど近づけないわ。こわっ。
「リュディガー! お前今、ズルしただろ!? 一人一回しか引いちゃダメなんだよ!」
触手の一本を、電光石火の勢いで掴んだローザが怒鳴る。
「いたいたたた! ローザさん、あんた可愛げなくなったけど!?」
必要以上に怪力マッチョにされた新生ローザ(♂)に掴まれている触手は、うっ血して白くなっている。
「ねぇ、おやめなさいよ」
私が宥めているその間に、アッサールが無表情でくじの箱に手を入れた。それから手を抜くと、赤いボールを握っていた。
「あ、当たった」
ボソッと言うアッサールに、リュディガーと新生ローザはガクッと膝をつく。
「あーあ」
「お土産持って戻ってくるから、待っててね」
笑いかけると、二人とも私を見てうっとりとなった。ほんとうに大魔王が好きなんだな、と申し訳なくなる。本当は、中身はただの人間なんだけどね。
ヘビオとヘビ子が指をポキポキ鳴らしながら近づいてきた。あ、ちなみに今は人型だから手があるのね。
「さて、二人とも。とびっきり素敵に着飾ってあげますニョロ」
※ ※ ※ ※ ※
神聖グーグラリア王国に転移した私たちは、まず罠が張ってないか調べた。神殿は破壊されて半分が無くなっている。
王宮は無防備で、なんの結界も張られていなかった。どうやら聖王の気は変わってないらしい。
「大丈夫そうね」
ほっとしつつ後ろを振り返ると、アッサールが渋い顔をしている。
「羽織り物をちゃんと着てください」
私はアッサールからショールを渡されて、首を傾げた。
「寒くないよ?」
「目のやり場に困るんです」
ヘビオとヘビ子はがんばりすぎて、また破廉恥なドレスを仕上げてしまっていた。体の線に沿って流れ落ちる黒のシルクは、光沢があり見るからに高級そうだが、めっちゃエロい。
「黒レザーじゃないだけマシだわ。ちゃんと下着もつけてるし」
アッサールはふぅと息をつき、首を振る。
「聖王の目を引きたくない。それに──」
ふっ、と王宮広場に入って来た馬車に目をやった。私もその馬車に気を取られる。
……なんだあれ、シンデレラも真っ青な、カボチャ型の派手なやつだ。
ガチャと扉が開いて、懐かしい顔ぶれが覗く。
「テオフィル」
私の胸に湧き上がるのは、どんな感情だったろう。
少なくとも、彼の顔を見ても辛くはなってない。驚くほど心は穏やかだった。ただ、じんわり温かい物に満たされていく。
「ジーク、それにメルヒオール」
三人とも、私を見てちょっと緊張した面持ちだ。
彼らの記憶もアッサールと同じく、聖王が始祖ゴルゴンゾーラと分かる前に戻されている。
けっきょく、私たちは神殿での戦いに決着がつけられず、あの場を撤収した……ことになっている。その後、聖王から和睦を申し込まれた……ことになっている。だからこの緊張感は、当然と言えば当然なのだ。
「ファッビオは、元気ですか?」
テオフィルが固い表情でそう聞いてきた。ファッビオが魔物側に寝返ったことはそのままの設定だ。
「うん、元気に発情してる」
ジークがプッと吹きだした。
「なんだよそれ」
ふっと、緊張感が解けた。
「ロランとアレクシアが、王宮の出入り口まで出迎えてくれている、行きましょう」
メルヒに促されて、私たちは丘の上の王宮に向かった。階段でのぼるときっついわ。
「ようこそ!」
アレクシアが飛び出してきた。ロランが慌ててその後を追ってくる。
「テオフィル、届けた服着てくれたのね!」
思い切りテオに抱き着きに行くアレクシア。それから私をふふん、と見る。ああ、牽制ね、攻めてるわね。うん。
「お久しぶりだこと、相変わらずクソみたいにケバいわね、このビッチ」
「アレクシア!?」
勇者一行が仰天した。私はイラッとして言い返す。
「テオフィルのこの金色のジュストコール、あなたの趣味なの? ぷっ、ダッサ」
「何言ってるだっちゃ! ジュストコールと言えば、世の異世界恋愛好きにはたまらないチョイスだっちゃ!」
「バカ言うんじゃないわよ! 詰襟軍服マントの騎士スタイルにサーベルでしょうが!」
「そんなの、騎士とはもう言わないっちゃ! 軍人だっちゃ! 騎士は中世に滅びたっちゃ!」
ロランがうっと顔をひきつらせるが、お互いディスりあっている私たちは気づかない。
「いつの時代設定なのよ! あと金色ってどこの成金なのよ!」
「テオフィルなら何着ても似合うっちゃ!」
「披露宴で新郎がチョイスしたら演歌歌手に間違われるアレと一緒じゃないの!」
「ぐぬおおおおお!」
ついには殴りかかってきたアレクシアの頭を手で押える。寸足らずの聖女は腕を振り回してもがいた。
「届かないでやんの、バーカバーカ!」
取っ組み合いに発展しそうな私たちを、唖然と見ている勇者一行&アッサール。
私たちはやっとそれに気づき、やっと離れた。おほんと咳払いする。
「さて、行きましょうか」
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