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第八章

お呼ばれ

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「絶対にダメです」

 アッサールが頑として首を縦に振らない。

「私の言うことが聞けないって言うの?」

 私は網タイツに包まれた長い足を必要以上に持ち上げて組み替えながら、側近を睨みつける。

「神聖グーグラリア王国での和睦の調印に一人で行くなんて、罠だったらどうするんですか」
「だって大丈夫なんだもん」
「なんで分かるんですか」

 それは言えないな。

「二度目の交渉でどんな目にあったかお忘れですか? また強姦されかけたあげく、三矢の二人を殺されて──あれ?」

 アッサールが頭痛を堪えるように、こめかみを押さえて目を細めた。

「じゃあ、ボクがついていきますよ!」

 張り付いた笑顔のセールスマン──じゃないリュディガーがやってくる。背中からガンガン触手が飛び出していて絶好調だ。

 アッサールは彼を見て、しきりに首をかしげている。

「抜け駆けはやめてよ!」

 リオのカーニバルのような恰好の筋肉ムチムチが、女言葉で怒鳴りながら駆け込んできた。

「ローザ……」

 これには私も困惑している。なんだ? バンコクに来た気分。

 けっきょく、私とアレクシア以外の記憶を消した二人の神。

 でも、ちょっと色々と無理がある。まずリュディガーには泣き黒子なんて無かったのに、グーグラの勘違いで今は三つに増えてる。ローザに至っては言うに及ばず。

 とりあえず、力の使いすぎと変形しすぎの後遺症だと言っておいた。まあ私の治癒力でも治せない後遺症なんだけどさ。

「聞いて三人とも。お膳立てはできてるのよ。トンボールの千里眼球から見守っていて」

 しかしすっかり脇役になってしまったトンボールは拗ねてやさぐれ、カメムシを我々に投げつけてから逃げていってしまった。

「ぞろぞろ連れていったらまたイベントが──うぉほん──警戒されそうじゃない?」

 物語はどう動くか分からないのだ。とくに聖王──ゴルゴンゾーラ──あいつ気まぐれそうだからな……。またムチャクチャやりそうな気がする。

 権利は吉田エリザベスの手を離れてしまっている。飽きられたら、約束なんて平気で破りそう。

 ハッピーエンドどころじゃない。

 そこでハッと思い出す。どちらにしろ、ロマンス小説的には、このままじゃハッピーエンドにならないだろう。だから期限付きなのだ。

「うーん、もう心は決まってるんだけどなぁ」
「大魔王様」

 私が艶々の髪の毛をかき回して悩んでいると、真横にいた剥製が突然しゃべりだした。

 おっと、剥製じゃない、ワニオだ。手に持った招待状をペラペラしている。

「調印式の後、王宮の舞踏会にお呼ばれしておりますぞ。花火もあがるとか」

 お、いいね。異世界恋愛物の醍醐味じゃない、舞踏会。誰とも婚約してないから、婚約破棄はされないだろうけど。

 平和を象徴したお祭りみたいになるのだろう。聖女はそこでテオフィルを落とすのかもしれない。

「大魔王さまも、エスコート役が必要ですぞ」

 ワニオの言葉に、はたとなる。
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