逆ハー小説の聖女に転生するはずが、作者の都合で大魔王でした……

世界のボボ誤字王

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第七章

聖女アレクシア

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「だめだめだめだめだめぇええええええ」

 私はドンッと突き飛ばされた。アレクシアだ。

「テオフィルは私のなの! そう決まっているの!」

 興味深げにゴルゴンゾーラが彼女を見つめた。

「この世界ではおぬし、脇役ぞ」
「それでもいいもん!」

 アレクシアがわっと泣き出す。

「だって、だって、やっぱりダメ、テオフィルはわたしの推しを全部詰め込んだヒーローだっちゃ! なんでしゃしゃり出てきたアバズレ女に取られなきゃならないんだっちゃ!」

 ……だっちゃ?

 私は目が点になる。ゴルゴンゾーラも、グーグラもだ。

「おぬし、もう聖女に入ったのか? いつじゃ?」

 グーグラが呆れる。ピンときた。そうか、吉田エリザベス八世! お前か!

「聖王と大魔王が戦ってる時だっちゃ。あんたが大画面見ながら『おいおいゴルゴンゾーラよ、二人もキャラ殺すのはやりすぎだぞ!』って焦って、上の空だった時だっちゃ!」

 混乱しきっているテオフィルにすがりつき、うぉんうぉん泣いている。

「渡さないっちゃ、彼だけは渡さないっちゃ」
「しかし、おぬしが望んだ結末ぞ。そういう契約で、権利を買い取ったろう」

 グーグラが困り果てている。

 え、権利!?

「この世界を、ある意味創世神とも言えるおぬしの望み通りに完成させて、その代わりおぬしをその後の聖女に転生させ、また違う物語を紡ぐ。そういう条件だろう?」
「だって、やっぱ無理だっちゃ! テオフィル以外と恋なんてできないっちゃ!!」

 私は、その時ふと、ずっと気にかかっていたことを言った。

 実はずっとずっと頭の隅にあったことだ。

「あのね、吉田さん」
「ベスだっちゃぁあああ」
「いや、アレクシアだろ」

 突っ込んでからそっとテオフィルを窺い見た。彼自身困惑はしているようだけど、それでもアレクシアの背中を撫でている。

 胸に痛みが走った。

 だめ、でも言わなくちゃいけない。でなければ、前に進めない。

「私、初めのお話で、彼と恋してないわね」

 はた、とテオフィルがこちらを見る。

「なんのこと?」

 うん、分からないよね。

「いや、分かるよ。人類滅亡後、グーグラにより俺たちはやり直し人生を歩んでいた。あの時大魔王はここにいなかったけど」

 最初に集められた記憶が戻ってる! なら話は早い。

「いたわ、聖女アレクシアとしてね。中身だけだけど」

 できるかな、と思って、空中に手を伸ばした。

『転生したら美少女聖女でした。パーティのイケメンズにモテモテで困ってます♪』

 お、できたできた。文字を浮かび上がらせる魔法、私にもできたわ。

 この話は、逆ハーの末にテオフィルと聖女がくっつく──はずの──話だった。

 でもこの時の聖女は私ではない。私は小説を読んで、聖女としての記憶を刷り込まれていただけなの。

 まるきり私がとった行動のように記憶が鮮明だけれど、実はそうじゃない。私が転生したのは、あの亜空間のアレクシアからだ。

 もし中身が私だったら、もしかしたら違う人を選んでいたのかもしれない。
 
「私だったらヒーローは、もしかしたら、無口で真面目な筋肉騎士ロランだったかもしれない」

 え、とロランが目を見開く。

「ちょうどボディビルダーのやってる、筋肉喫茶にはまってたから」

 そうなの!? とグーグラとゴルゴンゾーラが突っ込む。

「それに、もふもふ大好きだからファッビオだったのかも」

 ファッビオは発情期のせいか、ギラギラした目でこちらを見ている。ヨダレぼたぼた落ちてるけど!?

「読んでいる時は、ジークバルトとメルヒオールも推しだったもん」

 ジークはまだいいが、メルヒは理解不能の状況に脳がオーバーヒートしているようだった。魔術を構築するための数式とか化学式みたいなやつをブツブツ繰り返し、話を聞いてない。この人ギリギリやな。

「もちろん、テオのことも大好き。けっきょくアレクシアがテオフィルを選んだのが納得できたほど、すごく好きだった」

 それからアレクシアに扮する吉田さんを見る。

「でもそれは、読者としてヒロインである聖女アレクシアに共感していたからよ。私が本当に好きになったのかは分からない。それに──」

 テオフィルに微笑んでみせた。

「アレクシアの中身が私だったら、テオフィルだって私を好きになったか分からないわ」
「俺は……」

 彼の表情は困惑気味だ。当然だ、私があの時いた聖女の中身だなんて思えないだろう。

 でも彼は、なんとか答えてくれた。

「アレクシアが、変わったと思った」
「え?」

 聖女に扮する吉田さんが顔をあげる。

「記憶の中のアレクシアと、一緒に旅しているアレクシアがまるで違って、どうしていいか分からなかった」

 ああ、やり直しの部分からはライバル当て馬キャラだからね、アレクシア。吉田エリザベスなりにめいっぱい嫌な女に書いたって言ってたっけ。

「だけど神殿で体を張って守ってくれた時、昔のアレクシアが戻って来たと思った。型破りで、無謀で、一生懸命で……」

 優しい笑顔を、アレクシアに向ける。

「ああこれは……一緒に修行した時のアレクシアだって……そう思った」

 アレクシアに扮する吉田さんはタジタジしている。

「どちらかと言うと、にわか読者よりも、ヒロインは作者に似てるんじゃないかしら」

 私はそう言った。自分の性格と正反対のキャラでも、好きな人のタイプはもちろん、その人にとる態度は、作者の方があてはまるんじゃない? 少なくとも、共感しているだけの読者よりはさ。

 私は提案していた。

「吉田さん、もう一度やり直しましょうよ」

 アレクシアに扮する吉田エリザベスは眼鏡をあげようとして、眼鏡が無いことに気づきさらにオロオロしている。

「ベスだっちゃ。あとYOU、何言ってるっちゃ! やり直すって──」
「あなたは、このまま聖女として生きるんでしょ?」

 グーグラとゴルゴンゾーラが顔を見合わせる。

「Wヒロイン的なあれか? それとも同じ想い人──勇者を取り合って、ドロドロ泥仕合続行か?」
「余はオッケーだがな。面白ければそれでいい。でも他の神々にウケるかな?」

 二人がこそこそ話しているのを無視して、私はビシッと吉田さんに指を差す。

「あなた、聖女としてテオフィルをモノにできるかやってみなさいよ」
「ええぇぇぇえ、む、無理だっちゃ、ベスは干物女で喪女だっちゃYO!?」
「今は?」

 私は魔法で鏡を出してやる。ああ、魔王って便利。

 吉田さんは自分の姿をじっと見つめた。

「あ……これぞベスがなりたかった、ゆるふわうるるん聖女だっちゃ」
「自信を持ちなさいよ。でないと取っちゃうわよ」

 テオフィルが目を丸くした。吉田さんがキッと顔をあげる。

「ベスの推しは渡さないっちゃ!」
「決まりね。もう一度、やり直すわよ。その時私がテオとくっついても文句は言わせない」

 ゴルゴンゾーラが口を挟む。

「じゃあ余はまた聖王として接しよう、安心せいグーグラ、脇役に徹するよう努力するわ」

 グーグラは渋い顔だ。

「やり直しはさせんぞ、同じ場面は視聴者──神々が飽きる」

 それから、少し悩んだあと言った。

「だがエンディングは、お前が相手を決めたらじゃ。後は神々の興味も薄れよう。好きに生きよ、ただし──」

 ふと、男性陣を見渡す。

「ここから相手を選び、期限までにくっつきたまえ。あまりにロマンスが無いと、コメント欄が炎上するからな。男神らは、愛だの恋だの無くてもエロスさえあればキャッキャするが、女神たちがな……。上手くいかなきゃ、ヒロイン交代もありうる」

 交代上等だわ! フォーカスが私から外れるなら、のびのびできる。

「と、言うと思ったので制約を設ける」

 心読まれた!

「期限までに相手を選ばなければ、一人ずつ男性キャラを消していく」

 私は息を呑んだ。リュディガーもローザも生き返ったから油断していた。人も魔物も、神々にとっては玩具なのだ。

「干渉しちゃダメなんでしょ?」
「不自然にはな」

 ぐぬぬぬ、グーグラめ、ゴルゴンゾーラよりは話せるやつだと思っていたのに!

「分かっただっちゃ」

 アレクシアに扮する吉田さんが自信満々に頷いた。いやいやいや、あんたが約束してどうすんの! 私の気持ちの問題じゃん!

「こちとら元祖この世界の神だっちゃ」

 好戦的に笑う吉田エリザベス。

「完璧なハッピーエンドになったら、ちゃんとベスの世界でウェブ小説を更新するって約束するっちゃ!」
「良かろう」

 グーグラが重々しく頷く。

 いやあのー。そこはもう正直どうでもいいって言うか……えー……やっぱ心根は腐っても作者やなあ。

「お前も覚悟を決めるっちゃ」

 ぐぬぬぬ、分かったわよ! 元々定められていた相手ではなく、自分で選べるんだもん、条件的には良くなった、と思うことにするわ。時限爆弾付きだけどね。

 私と聖女吉田ベスは、顔を見合わせて頷く。そして、二人そろってグーグラ神に叫んだ。

「オーケイグーグラ!」
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