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第七章

しょせん小説の中

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「ここは別世界の神の子が作った、仮想世界。我々はその世界を借り、物質化したんじゃよ」

 グーグラは続けた。

「だから、なるべくその者の願い通りの世界にしたい。つまりこれじゃ」

 グーグラが手をあげ、空中に何か書いた。

『逆ハー小説の聖女に転生するはずが、作者の都合で大魔王でした……』

 それから、おっと、と呟き、さらに何か付け足す。

【R18】『逆ハー小説の聖女に転生するはずが、作者の都合で大魔王でした……』

 えぇぇええええ!?

 ポカンとするしかない。

 吉田エリザベスのクソ小説に合わせて、演じ続けろって言うの?

「だって、初めからそういう約束だったはずだぞ。おぬしはヒロインとして、恋愛しなければならなかったのだろう?」

 そうだけど、今さら……そんな気になれないよ。

 私にとって何もかも本物としか思えないこの世界だけど、神様が介入しているなら、私の意志なんて関係ないんじゃないの?

「それは違うぞ、ゴルゴンドロン・ジョーよ」

 聖王が──いや、ゴルゴンゾーラが言う。ていうか、心読むな!

「ぬしの行動が物語を紡ぐのじゃ」

 好き勝手に動いたら怒られるじゃないの!

 ゴルゴンゾーラは呆れたように嘆息する。

「いつだって、どんな箱庭の子らも、勝手に動く。神々の予想など裏切ってな。これはお前が転生する前の世界とて同じ。創世の神は、だから神の子らを愛しむのだ」

 殺したくせにぃいいいい! 怒りのオーラで空間がギシギシ音を立てた。

 なのに、神は残酷だ。何の罪悪感もその顔には浮かんでいない。

 ゴルゴンゾーラはテヘペロと舌を出す。

「うん、ごめん。本当は構築時に計画的に組み込まれた死以外、介入しちゃいけないんだけど、どうしてもおぬしをモノにしたくなったんだ。たまに神々も創造物に惚れこんでしまうものなのだよ、ほれ、ぬしらの世界にも居るだろ、フィギュア集めてるやつ」

 そう言って、また甘い笑みで私を誘惑しようとする。

「やめい! この者の元の世界は、神が介入しすぎて大変な時代があったのだぞ」

 グーグラがうんざりした声で、ゴルゴンゾーラを窘める。

「おかげで記憶を消しても創造神話やら創世記やら、微妙に痕跡が残ってしまったと、かの世界にいた神々は嘆いておった。ゼウスなどやたら浮気を繰り返しとったからな、人間にまで子を産ませよって」

 ゼウス本当にいたの!?

「惜しい、ゼウ・スーじゃ。神々同士大喧嘩するだけならまだよい。人間というお気に入りの玩具を取り合ったあげく、ゲーム盤にして戦争を起こしたりのう。ぬしの生まれた地域でも、ほれアマテラスなんちゃらやら、神々がチラ見せしてるじゃろ?」

 アマテラス本当にいたの!?

「惜しい、アマテラ・スーじゃ」

 本当だろうな!? え、スー族なの? オリュンポ・スー族とか!? イエ・スーは関係無い?

 そういや……神話の神様って我儘だし、鬼畜多いよね。ジロッとゴルゴンゾーラを見る。彼は片眉を上げた。

「なにかね? 余は品行方正、さらに人には寛大な神ぞ」

 天界から追放されてるじゃないの!

「寛大なら、早く二人を生き返らせて!」

 人じゃないけど、貴方が作ったんでしょ!?

 ゴルゴンゾーラはそらっとぼける。

「まあ聞け……とにかく、各神が各々の次元で好きなように世界を作り、神の世界でチャンネル変えながら見守っているのよ。ビールと裂きイカ片手にな!」

 グーグラが嬉しそうに同意する。

「わしゃ、ポテチとオレンジジュースじゃ。あとティッシュ」

 野球中継か! え、そのティッシュってあれだよね? 涙を拭く方だよね?

「というわけで、それぞれの箱庭は覗くのはOKだが、神の存在をはっきり認識させてはいかんのじゃ。ちなみにこの世界は、ゴルゴンゾーラとこのグーグラの共同制作だ。なかなかどうして評判が良くてな」
「勇者の冒険譚は男神に、聖女のラブストーリーは女神にウケておる」

 ゴルゴンゾーラは付け足した。

「余はもっとどエロいやつがいい。やっぱエロい方が多くの神々が覗きに来て、たくさんイイネ! がもらえると思うのだ。できればバズってほしい」

 ほんとうに神様なの!?

「神々は基本干渉NGだが、おぬしは神ではないからのう。さあ、自由に恋愛したまえ! おぬしが恋をする相手を選ぶのじゃ。さすればお前の仲間の再生をしよう」

 それとこれとは違うっての! わなわなしている私を見て、ゴルゴンゾーラとグーグラが顔を見合わせる。

「分かった、まず再生しよう。そうすれば、その者たちからも選べるし、ね?」

 グーグラがホクホクしながら、パチンと指を鳴らした。

 リュディガーとローザが現れた。

「あれ、ここどこです?」
「なんか、夢を見ていたような」

 こんなに簡単に!? 私は口を押さえて立ち尽くし、すぐに弾かれたように駆け出した。

 飛びついて二人を抱きしめる。夢ではないと、信じられるように。二度と二人が消えないように。

「だ、大魔王さま!?」
「いったいどうしたの?」

 泣きじゃくってる私に、戸惑う二人。

 でも、あれ? なんか、ローザが固い。ローザもそれに気づいたようだ。

 自分の体を見下ろした瞬間、絶叫する。

「きゃああああああ豊満バディが無い!!!!」

 ほんとだ、私よりデカかったけしからんパイオツが無いわよ!? しかもあれ? 雄っぱいしか無いわよ!? っていうか、胸筋すごっ。

「そいつらからも選びたまえ。さすがに女と恋愛だとジャンルがおかしくなるのでな、百合は神々の世界でワンパターン化してしもうてな、ここ数百年、ウケぬのだ。だからちょっと改造した」
「おいおい、よく見てないではないか。リュディガーとやらの泣き黒子、反対だぞ」

 ゴルゴンゾーラが突っ込むが──その辺りはどうでもいいんだよ! ローザどうしてくれるのよ! 性転換みたいになってるじゃん。

「あ、ほんとだ、ちゃんとチ〇コついてる。大魔王様と道具無しでやれるわ」

 不穏な言葉をつぶやいて大人しくなったローザ。違う、そうじゃない!

「さあ、選べ。ぬしにフォーカスを当てているのじゃ」

 私は、取り敢えず二人が生き返ったことで、力が抜けてしまった。

 ポツリと呟く。

「私の使命は、恋をして、ハッピーエンドに導くこと」

 それ以外、たぶん深く考えてはいけないんだ。

 でも……やはり魔物と人間のハッピーエンドにもっていくならば、この二人から選んではいけない。

 私は二人から離れ、テオフィルを振り返って凝視した。

 魔王と勇者がくっつき、魔物と人間の共存を謀る。きっとこれがトゥルーエンドのはず。

 私は一歩テオフィルに近づいた。

 その時だ。
 
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