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第六章
勇者パーティの動揺(作者の都合で三人称)
しおりを挟む「ねぇねぇ、ジークどうしたのぉ?」
アレクシアが唇に指をあて、首をかしげている。
「荷物なんてまとめてぇ。先遣隊は聖王様の転移魔法陣を使って先に来るんでしょう? サポートしなきゃぁ」
直で見ていないから恐怖が伝わらないのだろう。後から駆けつけたロランとメルヒもだ。二人ともバザールの残骸は見ているが、豹変したあの女の真の力を目の当たりにはしていない。
ジークバルトはそう思った。
「ここにいても、意味がない」
ジークバルトは自らの肩を抱きしめてそう言った。討伐軍はもちろん、自分たちの力がなんの役に立つというのか。それに──。
「おそらく、やつらはここにはもういない」
「転移したか?」
ロランも周囲の気配を探りながらそう言った。
「確かに、魔物の気配がまったくないな……え、でもまったくないって逆におかしくないか??」
そこへ、ファッビオが宿の部屋に飛び込んで来た。
「この国から、いっさいの魔物がいなくなってるよ。人間の奴隷やっていたヤツや魔獣まで」
「やっぱりか」
ジークバルトはうすら寒くなった。一瞬にしてその数ごと転移させるなんて。神殿の転移魔法ですら、何人もの神官の力を以てして大規模な魔法陣を敷き、せいぜい一度に十数名だ。
やはりあそこにいた魔族たちは、桁違いの能力を持っている。
「どうします? 何もいないと、討伐軍の名を借りた神聖グーグラリアの侵略になりますよ」
ロランはメルヒオールに頷いた。
「カラスを呼んでくれ。引き返すよう連絡する」
小型な使い魔は、補助してやれば単体で転移できる魔力を秘めている。転移魔法陣発動前に神殿に連絡することはできるだろう。
「聖下のことだ。遠征費を無駄にかき集めていそうですね。神殿に反発するやつらが騒ぎそうだ」
「まあ各国との調整は聖王がどうにかするだろ。俺たちもまた、魔王を地道に探すしかない」
ロランはそう答えてから、まだ青い顔のメルヒオールを気遣う。
「少しでも、休んでいくか。もうこの都市に危険はなさそうだし。どちらにしろ、情報不足だな。一度聖都に戻って仕切り直しするのも有りじゃ──」
「何言ってるのぉ!?」
アレクシアがそれを聞いて、甲高い声をあげた。
「わたしたち、魔王を倒すためにいるのよ、のこのこ戻れるはずないじゃない! 追うのよ~」
ロランは困り果てる。追うにしたって、どこに行けば……。聖都に戻れば賢者たちに占わせ、方角くらい定まりそうだが。
それに、この都市での力の爆発。その場にいなかったロランですら、規格外過ぎて戦意喪失してしまった。
あれが魔王の力なら、伝承されてきた神殿側の常識すら覆されてしまう。しかもジーク達の言う通りあの女が魔王なら、自分たちだけ向かったところで、討伐軍到着まで引き止めておくことすらできない気がする。
勇者パーティーの面が、魔王にバレているのだから。
「聖女様、無謀な犬死には避けなければ──」
「あんた、クビ!」
アレクシアはゴミを見るような目で、ロランをねめつける。
ええ!? いったいどうしたんだ、と全員ポカンとなる。聖女はこんな娘ではない。
「アレクシア──」
メルヒが窘めようとする。
「あんたもよ、ひ弱な役立たず」
うっ、と黙り込むメルヒオール。
「チキンは私を守る資格無し」
ジークバルトが首を振る。
「そういう問題じゃないぜ、アレクシア。一度対策を立て直そうと言ってるんだ。あの魔力を君も感じただろう? とにかく神殿と王の指示を──」
「うるさいうるさいうるさい~!」
アレクシアは駄々っ子のように足を踏み鳴らす。尻尾を垂らし、アレクシアを宥めようと近づいてきたファッビオに、腹立ち紛れに蹴りを入れる。
キャンッとファッビオは、普通の犬のような悲鳴をあげた。
「薄汚い魔物も要らないの~っ」
騎士、魔導士、賢者、獣人はぶちきれた聖女に言葉もない。
アレクシアってこんなだった!?
聖女はひとしきり彼らを罵倒し、それからスッキリしたのか、テオフィルに笑顔を向ける。
「テオフィルは違うわよね?」
猫なで声でまとわりつく。
「魔王を負いましょ、私にはテオだけでいいもの」
テオフィルは息を呑んでそんな彼女を見つめた。
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