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第五章

砂漠の荒くれ者(作者の都合で三人称)

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 勇者パーティは魔物を倒すための魔術の特訓をするが、もちろん剣や弓、体術も死ぬほど鍛えられる。

 そのため、目の前に現れたいかにも悪そうな男たちを見ても、彼らはまったく動じなかった。

 現れた男たちは肌の色や服装から、この辺りのオアシスを巡り、クラダを育てる遊牧民などではないことが見て取れた。荷も少ない。商人や旅する者でもなさそうだ。

 トゲトゲが付いた肩パット、鋲打ちブーツ、モヒカンという、古いのか新しいのか分かりかねるファッションの、見るからに悪そうな集団である。

 そんな男たちが短剣をベロで舐めまわしながら、へっへっへっと笑って近づいてきたのだ。

 勇者たちは身構えもしなかったが、なぜか娼婦──または間諜──は頭を抱え込み「今って世紀末なんですか? なにあの核戦争後みたいな服装……吉田さんのセンスを本気で疑うわ」と意味不明なことを呻いていた。

「盗賊か?」

 ジークが眠そうに目を擦り、欠伸をした。

 実は、娼婦の思いがけなく優しい子守唄に、眠気を誘われてしまった。アレクシアが神殿での修行中、よく歌ってくれたやつだ。……最近やってくれないが。

「だったらロラン一人で大丈夫だろ」

 縄張りを侵され怒り狂った魔獣や野生動物より、よほど楽にあしらえる。

 サラッと砂が流れた。風が吹き出したようだ。

 ロランが剣を担ぎ、面倒くさそうに一歩踏み出したその時、

「きゃああああ」

 アレクシアが悲鳴をあげた。驚いて勇者たちが振り返ると、砂が盛り上がり、アレクシアを飲み込むところだった。

「アレクシア!!」

 テオフィルが叫ぶ。ファッビオがすぐに砂の中に潜って、引きずり込まれた聖女を掴まえようとしたが、そこにはもう何もなかった。

「ちっ。魔物じゃないが、能力持ちらしいな」

 ジークが顎をしゃくる。すると盗賊の前で砂が渦巻き、盛り上がる。そこから聖女の小柄な身体が吐き出された。

 リーダーらしき髭だるまが、アレクシアを抱き止める。

「可愛い子ちゃんゲット~!」

 メルヒオールが起き上がりざま、娼婦に突き付けていた剣を投げようとするも、

「やめとけ」

 と、アレクシアの首に刃物を突き付けられ、躊躇した。

 ロランがその男を一目見て舌打ちする。

「やつは、腕が立つぞ。テオ、落ち着けよ」

 わなわな震える勇者を宥めた。テオフィルはアレクシアのことになると頭に血が上り、冷静ではいられなくなる。それは勇者としての欠点でもあった。

「金ならやる。アレクシアを返せ」

 ジークが相手の気を引くため、話しかけながら魔法の気配を読む。術者が誰か見極め、速やかに倒すのだ。敵は十人いる。……どれが術者だ?

「結構強いな。神官落ちか?」

 ジークの言葉に、盗賊たちは動揺する。聖別後、力あるものはパーティーに選ばれずとも修行に入る。

 討伐軍などに同行し、魔法で補助するためだ。しかし修行は勇者でなくとも辛く厳しい。逃亡する者も絶えなかった。

「おまえら、なぜそう思う?」

 盗賊の首領らしき男に聞かれ、テオフィルたちは黙した。砂を自在に操る魔法使いなら、ある程度修行している、そう判断しただけだ。

 だが、こちらは自分たちが勇者一行であること──アレクシアが聖女であることを悟られてはいけない。

「彼女を放せ」

 ジークバルトがもう一度言う。

「だめだね。女に飢えてんだよ」

 リーダーらしき髭が笑った。

 ジリジリとファッビオが回り込んだ。しかし、やはり腕がたつのか、すぐそれに気づかれてしまう。

「動くと死ぬぜ」

 すっとアレクシアの喉を傷つける髭だるま。アレクシアは声にならない声をあげ、気絶してしまった。

「アレクシア!」
「荷物置いていけよ、この女の顔、傷つけられたくないだろ?」

 盗賊のリーダーらしき男は、見せつけるようにアレクシアの頬を舐める。途端、気絶していたはずのアレクシアが起きた。

「汚いっ、息臭い! 不細工!! はなせっ!」
「アレクシア、挑発するな!」

 テオフィルが叱った。無駄に刺激しては、逆上して何をするか分からない。

 いつも優しいテオの厳しい声に、アレクシアは泣きそうになる。

「テオは、私がレロレロされたのに平気なの?」

 ついでに他のパーティーメンバーも睨み付ける聖女。

「ファッビオ、ロラン、早く助けなさいよ! 何のために一緒にいるのよ!」

 喚いてからアレクシアは、目を瞑り集中しているジークを見つける。そして嬉しそうに言った。

「術の詠唱をしているのね! ジーク好き!」

 相手に悟らせてどうする、とテオは内心苦々しく舌打ちする。案の定、砂の塊がジークバルトを襲った。

「おっと、そちらにも魔導士がいたか。危ない危ない」

 リーダーは笑い、アレクシアの乳房を鷲掴みにした。

「きゃあああっ! この私を誰だと思ってるの!」
「よせ、言うなアレクシア!」

 テオの制止を無視し、アレクシアはリーダーに吐き捨てようとする。

「私は魔王を倒すパーティーの紅一点、聖──」
「私を代わりに連れていきなさいよ」

 娼婦が立ち上がり、フードを払って盗賊に顔を見せた。

「もう一人……女がいたか。ほうっ、いい女だ」

 リーダーが舌なめずりする。

「二人ともゲットだぜ!」
「ポ○モンじゃないのよ、私だけにしなさい」
「こっちに主導権があるのにか?」

 盗賊が汚い歯を剥き出しにして笑い、アレクシアの頬に剣を当てた。

「俺の刃はよく切れるぜ?」

 娼婦が砂避けのローブを脱ぎ捨てた。

 むしゃぶりつきたくなるような身体の線は、月明かりと焚き火でよけい想像を掻き立てるシルエットを作り出している。

 盗賊たちが絶句し、その後ひゅーっと口笛が鳴った。娼婦がやけに赤い唇をぺろりと舐める。

「なんなら十人まとめて相手してあげるわよ」

 それからアレクシアを顎でしゃくった。

「そんなペチャパイカマトト、いても邪魔なだけだし──」

 さらに背後の勇者たちをチラッと見て宣う。

「私なら、彼らは気にしない。無駄な戦闘は無くなるわ」

 誰がペチャパイカマトトですって~と、刃物があるのも忘れ、大暴れするアレクシア。

 盗賊の首領は鬱陶しくなったようだ。

「よし、お前、ゆっくり来い」

 娼婦が髭首領の元に行き、手前で止まる。

「その娘を放して」
「かまわんさ」

 アレクシアを突き飛ばす。

「もうっ、乱暴ね!」

 アレクシアは怒りながらも、解放された嬉しさでテオフィルに向かって走っていく。テオが抱き止めたのを尻目に、娼婦は声をあげた。

「早く先に行って!」

 叫んだ瞬間、ウエストに毛むくじゃらの太い手が回り、娼婦は引き寄せられていた。

 







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