逆ハー小説の聖女に転生するはずが、作者の都合で大魔王でした……

世界のボボ誤字王

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第四章

戻ってきた大魔王様(作者の都合で三人称)

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 気づくと、大魔王ゴルゴンドロン・ジョーは元の森の中だった。

 再び自分が魔物である意識が強まる。そして過去の記憶は、転生前より前世──聖女の時のそれの方が、強くなっていた。

「吉田……エリザベス……?」

 ベスと呼べっちゃ、という抗議の声も、まるで夢だったかのようだ。

 大魔王ゴルゴンドロン・ジョーが呆然と立ち竦んでいた、その時だ。

「──いっ!」

 何かが跳んできて、大魔王ゴルゴンドロン・ジョーの鳩尾にめり込む。たまらず地面に蹲った彼女の視界の先に、重りの付いた投擲器が転がった。

「ファッビオ捕まえろ」

 冷めた声がして、背中にトンッと何かが乗った。大魔王ゴルゴンドロン・ジョーは、次の瞬間、前のめりに草むらに押し付けられていた。

「また会ったね、お姉さん」

 覗き込んだのは、ジークバルトだ。掠れた声は、彼の荒れた心を表していた。

「ちょっと今、機嫌が悪いんだよね、尋問に付き合ってくれる?」

 すると、別の方向から足音が近づいてきた。

「念のため、水の糸で縛らせてください。ロランは引き続き、アレクシアたちの周囲を警戒していてください。結界も張ってあるから大丈夫だと思いますが」

 足音の主はメルヒオールだった。

「先ほど一瞬、魔物に侵入された気配を感じたんです……消えましたがね」

 眼鏡はまだ光っていて、その奥にあるはずの切れ長の瞳が見えない。彼もそうとう苛ついているようだ。

「警戒していたおかげで、代わりに怪しい人物を見つけました」
「尋問するなら、ボク人型になるね」

 ファッビオがそう言って、ぐぐっと人型に変化した。メルヒが腰布を渡す。

 三人の敵意むき出しのイケメンに囲まれ、大魔王ゴルゴンドロン・ジョーは、ごくりと唾を飲み込んだ。ジークバルトがそんな彼女の青ざめた顔を見下ろした。

「さて、俺たちは今、非常に機嫌が悪い」

 そうか、と大魔王ゴルゴンドロン・ジョーは気づく。彼らもテオフィルとアレクシアの状況を知っているのだ。

「テオの神力が、呪文の詠唱だけではなかなか回復しなかった。あのローザとかいう女の魔物は、相当な手練れだったんだな」

 そりゃあ魔王軍三本の矢、中ボスですからね、と大魔王ゴルゴンドロン・ジョーは思った。

「格好つけて、村人の治癒を先にするからです──だから……」

 メルヒオールが沈黙する。

「だから、アレクシアはテオと寝ることにしたんだ」

 場の雰囲気は、ジークが引き継いだ一言でどんよりとなる。

 聖女は、それが仕事である。勇者パーティは、分かっていたはず。だから、どれだけ嫌でも我慢している。勇者を失う訳にもいかないのだから。

「なにもせずに待ってるのは辛い。そこに、しばしば消えたり現れたりする、怪しい旅の女が来たってわけ」

 ジークが口角をあげた。

「さて、どうすると思う?」

 ファッビオが大魔王ゴルゴンドロン・ジョーの細腕をねじりあげた。メルヒオールが肉眼では見えない糸で、後ろ手に縛る。

「爪の二、三枚でも剥がせば吐きませんかね?」

 メルヒは眼鏡を押し上げて言う。

「あなた、どちらの手の者ですか?」

 うつ伏せに押さえられていた体勢から、大魔王ゴルゴンドロン・ジョーの身体がふわりと浮いた。

 ファッビオに軽々と持ち上げられたのだ。

 ヒト型のファッビオは、童顔のくせにデカい。騎士ロランの次くらいにデカいのである。

「ヤッフル公国? エッジー共和国? 聖女を攫ったところで、神力は一代で終わりですよ。神殿の怒りを買ってまで彼女を手に入れようとするのは、愚かだ」

 他にも聖なる力を持つ神官や、聖女候補が神殿にはいるが、目覚めたアレクシアの足元にも及ばない。だからこそ、聖女なのである。

 ただし聖女と呼ばれるほどの者が生まれるのは、魔王が復活する時だけだと言う。聖女は魔王復活の予兆、そう思われていて、そしてその通りだったと言うことだ。

 結局、魔王とは全世界の脅威。小さな国が聖女を攫って独り占めにしたところで、自分の首をしめるだけ。神殿を敵に回していいことなど何もない。

 それでも目先の欲に囚われて、聖女を拐かそうとする者は絶えなかった。

(そして今は拐かす側に疑われてるっつうね。悲しみ……)

 そう思い、大魔王ゴルゴンド──長いっ、読者諸君、大魔王でもういいだっちゃか──大魔王はげっそりする。

「まさか、神聖グーグラリア王国──聖王が送ってきた監視じゃないだろうな」

 ちょうど、見回りから戻ってきたロランがそれを聞いて首を振った。

「意味が分からない。神殿からの監視なら、俺が既にいるだろう?」
「そうか。聖騎士様は、俺らがバックレないように見張ってるんだっけか」
「人聞きの悪い。見張りも兼ねているが、立派な戦力だろ」

 憮然とした顔で、無骨な騎士は村の方を指差す。

「行こう。聖女様の治療が終わった。今は休んでる」



 ローザの襲撃した村は、まだ煙の臭いが取れていなかった。しかしそれは一部で、村としては機能しているようだ。

 どちらかと言うと、魔物よりもロランの一撃による被害の方が大きかったように見える。大魔王はそう思ったが、賢明にも黙っていた。

 モーホー村の人々は日が暮れる前にと、せっせと後片付けしている。

 聖女たちの休んでいる場所は、一番大きな民家だった。勇者治療中だけ、モーホー村の村長の家を借りているらしい。

 魔力を封じたままの大魔王にも、その建物だけは結界で光って見えた。先程は、あのど真ん中に転移してしまった。そして衝撃のにゃんにゃんシーンを目撃し……。

 ちなみに家を乗っ取られた村長は今、懇意にしている別の村人の家に間借りしている。そこで、なにをしているかあまり考えたくないが。

 他のメンバーは納屋を借りているようで、大魔王は引きずられるようにそこに連れていかれた。

「明日にはこの村を出発できる」

 納屋の中に押し込まれ、土間に敷かれた藁の上に突き飛ばされる大魔王。
 
「あんたは連れていけねえ。さんざん我々に付きまといやがって、怪しいヤツめ。ほら、早くどこの手の者か言え」

 騎士ロランに詰問され、大魔王は困ってしまった。切り出し方も難しいが、聖王のように問答無用で魔物殲滅という考え方なら、何を言ってもダメなのかもしれない。

(やはり、戦うしかないの?)

 大魔王の心が、身体が、二つの種族の間で引き裂かれそうだった。
  
(ううん、それは絶対嫌。正直に言うって……それで分かってもらうって、決めたじゃない)

 大魔王は意を決し顔を上げた。

「私は、大魔王。ゴルゴンドロン・ジョーであります」


 
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