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第四章

怖い思いをした……ような?

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 変態に襲われた夢を見た割に、後味は悪くなかった。

 目が覚めた時、すぐそばにアッサールがいて、ホッとしたからかもしれない。

「なんか、変態爺が絶倫に変身する夢が、すっごく怖かった」

 むにゃむにゃしながら、跪いているアッサールに手を伸ばす。体の節々が痛い。

「聖王がご飯食べてるところに乗り込んだんだけど。どうなったんだっけ? なんかすごい筋肉痛なんだけど」

 心なしか、アッサールの仏頂面が赤い気がする。

「もう二度と、一人でそのように危険な場所に行かれませんよう、お願いします」

 アッサールが不愛想な声でそう告げた。私はピンときた。

「やっぱり、アッサールが助けてくれたのね」

 ということは、あの聖王の罠は夢じゃなかったんだ。壁が一瞬にして縮まって、圧死するかと思った。

 その後……エロいことされた気がする。たぶん貞操の危機。媚薬の粉を飲まされて、それから……あれ? 覚えてないな。

 私は、どうやって助かったの? 全力で戦って、死にかけたのかもしれない。そうか、そこをアッサールが助けてくれたんだ。

 自分の体を見下ろすと、浄化魔法だろうか、やたらつやつやに磨きあげられている。石鹸のいい匂い。

 筋肉痛もそこまで不快なものでは無く、運動の後に、入浴剤入りのお風呂に入ったような爽快な気分だ。

 でも、二の腕の内側や、新しいブラウスから覗く胸元に、たくさん打ち身のような痣があった。あれ、ローザにやられた傷は、だいたい塞いだんだけどな。

 ──!!

 あの爺、何をしやがった!?

 私が青い顔で自分の痣を見ていると、アッサールが耐えられなくなったように、顔をあげた。

「それは消したくなくて……」

 なんで!?

「あの爺に私、犯されそうにならなかった?」
「大丈夫です、そうなる前に救出しました」

 やっぱアッサール最高! なんて有能な部下なのかしら! ありがと~う!

 しかしアッサールは憂いのある目でじっと私を見つめ、疲れきったような深い息をついた。

「……大魔王様、お願いです。もう人と共存などという夢物語は考えないでください」

 私がやたら人間に近づこうとするものだから、アッサールの心労はピークらしかった。さすが、良くできた部下だ。ツンデレだけどね!

 でもね、私は本物の魔王じゃない。だから、たぶんすごく弱いと思う。力の使い方云々ではなく、おそらく人間を抹殺する気持ちも、覚悟もないから。

「たとえ戦ったとしても、私じゃ聖王どころか、勇者ご一行様にも勝てないわ。ていうか、あっちのラスボス、聖王じゃないの?? めっちゃ強そうだった!」

 あと、変態だった!

「そんなことはございません! 大魔王様の魔力は本来とても高く、もっと修行すればきっと──」

 それからアッサールは口をつぐむ。

「リュディガーをもう一度、説得してまいります」

 リュディガー? ああ、魔王軍三本の矢だかなんだかそんなやつ?

「もう一度ってことは、一度会ってきたってことよね?」
「魔王様を見失った時、私は彼の元にいました。彼の力があれば、勇者に勝てるかと」

 えー、だって離反したんでしょ?

「はい。しかし、彼は第一の矢。私やローザより実力は上です」

 そうすると、アッサールは第二かな? ローザより強い気がする。推測だけど。

「矢は一本では脆弱ですが、束になれば折れません」

 ナーロッパに毛利家出すなや。しかも最初から矢、バラバラだったよね?

「そう言えばローザは?」

 アッサールが頷く。

「大魔王様がお休みの間、ワニオから呼び掛けがあり、一度城に戻りました。あれからローザは、すっかり大魔王様に傾倒しているようでした」

 傾倒って……え? 

「ローザは先代の魔王ゴルゴンドロン・ローンにもそうでした。恋愛脳なんです。あの方以外に仕えるつもりがない、しかも女の魔王なんて萌えない、と去っていきましたが──」

 前の魔王、イケメンだったのかしら?

「百合もいいかもと騒ぎ、大魔王様の帰りを今か今かとお待ちしております」

 いや、よくないわ。私そっちの気は無いからね!

「あやつ、邪な理由ではありますが、非を認め、大魔王様のために命をかけると。ですから、あと一人。リュディガーが揃えば、三本の矢は復活します。貴女を完璧に守り通すことができる」

 私はいつになく饒舌なアッサールを見て、思わず笑ってしまった。アッサールがムッとなる。

「あははは、ごめんごめん」
「……何か、おかしなことを言いましたか?」

 いやだってさ……。

 私は跪いたままのアッサールに近づき、傍らにしゃがみこむ。

「だって、逆でしょ。私が魔王なんだから、私が配下の者を護るの」

 アッサールは金の瞳を見開いて私を見た後、私の頬に手を伸ばそうとした。そして伸ばしかけた手を引っ込め、顔をそむける。

「なんなんだ、貴女は」

 かすれた声でそう吐き捨てたのが、微かに聞こえた。


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