逆ハー小説の聖女に転生するはずが、作者の都合で大魔王でした……

世界のボボ誤字王

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第四章

アッサール据え膳食う

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「あり得ない」

 瓦礫となった王宮の一角を見下ろし、私は呟く。聖王は瓦礫の真ん中に立ち、こちらを見上げている。

 無傷なのだ。

 しかもそのちょい悪風の顔に、ふてぶてしい笑みまで浮かべて、ウィンクしてきた。

「残念~逃げられた」

 マントですっぽりくるまれた私を見て、聖王は楽しげに言う。

「次に会ったら、最後までだ。余の聖なるマラで清き乙女にしてやろう」

 矛盾してないか!?

 しかしそれを聞いて激怒したのは、空中で私を抱きかかえ羽ばたいていたアッサールだ。ズズッと険悪な魔力が彼の身体から這い出る。

「殺します」
「アッサール! やめなさい!」

 私は彼にしがみついて言う。

「あれは危険よ。人とは思えない。力の底が見えないの。早くこの場を離れましょう」

 アッサールは金の瞳を憎悪で染めて聖王を睨みつけると、その場から転移した。

 聖王の神力を片鱗も感じられないほど遠くに転移できて、ほっとしていた。追ってこられたら終わりだ。それくらい、あの男ならできそうだと思った。

 人間のはずなのに……? 一体はなんなのだろう。

「けっきょく、また……助けられたわね」

 アッサールが傍にいてくれる事の安心感ったら半端ない。

「よくぞ、持ちこたえてくださいました。傷は塞がってはいますが、お怪我もされていたようだし」

 アッサールの綺麗な顔は、青ざめていた。

 傷? 私はマントから腕を出して見る。

 ああ、これは聖王じゃなくて手負いのローザがつけた傷ね。応急処置したから大丈夫なんだけど……ね。

「ご無事で良かった」

 アッサールの語尾が震える。

 私はそれを聞いて目を見開いた。……ごめんね、聖王があんなに強いなんて、思わなかったの。

 ところが今の私には、声に出して謝る余裕がなかった。

 アッサールが心配そうにのぞき込む。

 だって、そうとう具合が悪そうに見えるはずだもの。事実その通りなのだった。体の震えが止まらない。寒いわけでも、怖いわけでもない。

 私は、もじもじしながらなんとか声を絞り出す。

「アッ……サール、聖王に……媚薬をね」

 そう、あの媚薬は未だに有効で、体が疼いてどうしようもなかったのだ。

 私は荒い息を吐きながら、部下の上着を握りしめた。

 ハッとなったアッサールの顔が、歪んだ。

「分かってます。でも──」

 アッサールの仏頂面は、泣きそうに見えた。

「私は、もう一人の矢、リュディガーを探しておりました。貴女から目を離してしまった。こんな私が──」

 まさか私が聖王に会いにいくなんて、思わなかったのね。でもそんなこと、今はどうでもいいの。

 ──早く。

「大魔王様」

 アッサールは躊躇っていた。しかし苦しそうな私を見て、決意したように眉をあげる。

「少しお待ちください」

 アッサールは、マントでくるんだままの私を地に寝かせ、しゅっと両手を動かした。

 空間が四角く裂ける。

 瞬間移動とは違う、不思議な魔法だ。私にはまだこういう細かい技は使えない。

「亜空間です」

 聖王の毒が回ってきて、もだえ苦しんでいたから、よく聞こえなかった。でもふわっと持ち上げられたのを感じた。

 薄く開いた目が見たのは、その空間の周囲の光景。グーグラ神に会った空間のような、まっ白な場所だった。果てがないような、何もない所だ。

「ここなら誰にも見られない。トンボールの千里眼球ですらも。──あなたの尊厳を守れます」

 アッサールは再び躊躇し、聞いてきた。

「ご自分で、されますか?」

 私は眉を吊り上げた。ポロリと眦から涙がこぼれる。

「そんなので、満足できるわけないじゃないっ!」

 ごおっと魔力が出そうになる。空間にヒビが入り、アッサールは慌てて跪き、首を垂れた。

「申し訳ございません──では」

 アッサールはコウモリの羽を引っ込めた。完全に人型だ。

 それから、着ていた黒い革のジャケットを脱ぎ捨てる。これもヘビオプロデュースだろうか。やけにビジュアル系だなと思っていたが、彼にはすごくよく似合っていたから気にならなかった。

 シャツの襟をはだけ、躊躇してから、黒いレザーのズボンも腰まで下げた。そして、繊細なモノでも扱うように私を抱き上げる。

 失礼しますと断ってから、私に被せていたマントを剥いだけど、微妙に視線をずらし、裸を見ないようにしていた。

 一方で、私はガン見だ。

「裸、綺麗ね」

 私と違い、褐色の肌のアッサール。ローザもそうだけど、三矢はみんなそうなのかな? と思った。さらに、お腹が八ブロックに割れているのに気づいた。ああ、モロ作者好みの細マッチョだわ。

「めっそうもない」

 アッサールの動揺が伝わってきた。

「魔王様に比べれば……」
「はやく」

 私はおねだりした。この疼く体を慰めてくれるなら、もう誰でもよかった。それくらい頭がどうかなっていた。

「早く抱いて──」

 アッサールには、さぞ迷惑だろう。彼は絶食系だから。

 優しく抱きしめられ、オズオズと口付けされた。温かい肌の感触。でもそんなのじゃ足りない。夢中でその舌を吸おうとすると、彼がビクッと身を放した。

「あっ、イヤ! もっとちょうだいっ」
「っ……あなたって人は」

 困り果てているのだろうか。顔を見ると、どこかイラついた表情。

「私がどれほど我慢しているか、知らないんだ」

 アッサールの金の瞳がきゅうぅと細まる。獲物を狙う猛禽の目だった。

「けして、手に入れることができない唯一無二の存在。そんな貴女に、お手を触れる機会など生涯無いと──」

 アッサールの声が不穏さを増していく。

「それでもいいと思っていたのに。貴女が存在するだけでいいと思っていたのに!」

 私はそれでも彼の唇を求め、必死に首を持ち上げていた。顎に噛みついてキスをねだる。欲しくて仕方がなかった。

「遠慮はしませんよ」

 イかないと治らない聖王の媚薬。

 その治療のはずなのに、熱烈な愛を告白された気がする。

 私はそれをまったく不快に思わなかった。テオフィルを想っているはずなのに、むしろ嬉しかった。これも媚薬のせいなのだろうか。

 本当に、抱いてくれるなら誰でもいいのだろうか。分からない。でも、今テオフィルのところに飛んでも、彼は抱いてくれない。聖女じゃない私なんて──

「ひっ」

 野いちごのように赤く充血していた乳首を摘ままれていた。

 彼の目は、先ほどまでの遠慮がちな配下のものではなくなっていた。

「もう駄目ですよ、今さら誰かのことを考えても」
「あっ、まって、乳首コリコリしちゃいやぁああ」
「止めますか?」
「──っ」

 私は物欲しげにアッサールを見る。

「そんなの……だめよ」
「どっちなんですか」

 アッサールの膝が、太ももをこじ開ける。ぐりっと肉の芯に膝が押し付けられ、かき回された。

「ふぁぁっふぁああ」
「こんなに尖っているし、びちゃびちゃに濡らしてるんだ。嫌なわけないですよね」

 かすれた声でそういうと、乳房に顔を埋める。微かな髭の感触に、こんなきれいな顔でも男なんだな、と思ってしまった。

 谷間を舐められながら、乳首に頬を擦り付けられ、私は体中の水分が無くなるくらい愛液を垂れ流す。

「ひぅひぅひぃ」
「魔王様、威厳が無い」

 そう呟くと、歯で乳首を噛まれた。びくんっと腰が跳ね上がる。歯の間から熱い舌がチロチロと乳首の先端をいたぶっている。

 ちゅうっと吸われ、それだけで達しそうになる。

「──! っんんっ」
「威厳が無いが、それも可愛い」

 はぁっと息をつくアッサール。痣の付いた私の体をねっとり眺める。

「全部私のものだ」

 狂気だろうか。いつものアッサールからは考えられないような激しいオーラが噴きあがる。

「貴女が誰を想ってようが、貴女は私のものだ」

 思い詰めたような眼差しで告げられ、全身を舐め上げられる。

 首筋は念入りで、痕が付くくらい吸われた。

 彼から感じるのは独占欲。むしゃぶりたおされ、このまま食べられてしまうのではないかというほどの、独占欲だった。

 だけど媚薬で満たされた私の頭は、彼の狂気に近い私への気持ちに気づかず、とにかくただ奪って欲しいとしか思えなかった。

「早くぅ早くぅイかせてぇえええ」

 それが彼の気に障ったのだろうか。ふっと眉をひそめられた。

「楽しくないですか?」

 違う、気持ちいいからもっと欲しいの。言おうとしたのに、口内を再び蹂躙され、しゃべれない。

 くちゅくちゅと舌を絡められ、吸われ、唇ももてあそばれる。たぶん私の唇は腫れ上がって真っ赤だろう。

 その間も彼は、片手で肉の芽を転がし続けるだけで、指一本入れてくれない。

「おねがいっ欲しいっ」
「大魔王様」

 駄々っ子を見るような目で見下ろされた。私はとろんと落ちそうになる目蓋をあげて彼を見ながら、プライドなどかき捨てて頼み込む。

「なんでもするからぁ、言うこと聞くからぁ、おねがい」

 アッサールが動揺するのを感じた。私のとろけきった頭では、その理由は分からない。でも微かに「聖王のやつ、大魔王になんてことを」と呟いたのが聞こえた。

「欲が出てしまうんですよ」

 ぼそっとアッサールは私に告げた。私には今、その意味をちゃんと考えられない。

「アッサール、入れてぇええ」
 
 アッサールは愛撫の手を止めたままだ。

「いやぁあああおねがぁああああい、早く貫いてぇえええ」

 いやいやするように首を振る私に、アッサールはポツリと呟く。

「愛していると言ってください」

 私は一瞬、正常な頭の部分がフリーズしたのを感じた。でもそれも一瞬。

「言う、分かったからぁ、愛してるぅううう、アッサール愛してる」

 アッサールは目をつぶって何かに堪えている。金色の瞳で、涙を流しながら懇願している私を見おろし、もう一度言った。

「私のモノだと誓ってください。私だけの大魔王様だと」
「うん、うん、言うから、入れてぇええ。私はアッサールのもの。アッサールだけのものぉお」

 彼は寂し気に微笑む。

「嘘つき」

 それから、己の腰を私の腿の奥に滑らせ、押し付けた。

「ワガママを言いました。忘れてください」

 ズプッと灼熱の楔に貫かれる。圧倒的な質量が、埋め込まれたのだ。飢えた体の奥に。

 大きくて、固くて、熱い。それは体の疼いていたところに届いた。

「あっあぁあああっあぁああ」

 アッサールがゆっくり腰を動かしだす。そのたびに、求めていた物を手に入れた喜びで、死にそうになる。こんな快感知らない。これが一発キメてやる状態なのか。

 ふわっふわっとイキッぱなしで、目からは随喜の涙、口からは涎。顔じゅうベトベトだった。

「っぁぁぁっぁあ゛ぐあああ」
「なんて、甘い声だ……くっ──まって、腰をそんなに動かさないでください」

 アッサールの焦った声。でも、だめ、もっと欲しくて、自分から彼の肉棒を迎えにいってしまう。

「魔王様っ──もっと貴女を味わいたいのに……もっとこの時が続いてほしいのに……」

 アッサールは汗びっしょりの額を拭うと、名残惜し気に私を見てから──。

 高速で腰を動かしだした。

 熱い剣が、突く、抜かれる、突く、抜かれる、突く突く奥まで届いて、私は……。

 達した瞬間、私の中に注がれる熱い液体を感じた。アッサールの金の瞳と視線が絡み合う。

「この無礼を、貴女は忘れる。いいですね?」

 空っぽの無防備な頭の中に強く魔力が流れ込み、私は意識を手放した。


 
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