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第三章
勇者ご一行様に合流する
しおりを挟む時は満ちた。魔力は絶大。今度こそ、完璧に操ることができる。
封じ込めも完璧! さらに魔力量が増えたせいかしら、卵詰まらせたどころか、スイカ詰まらせたくらいキツかったけど平気!
何よりも私自身に、きちんと大魔王を演じる覚悟が生まれた。
鏡を見ると、強気な美女姿だった私は、輪をかけて綺麗になっていた。
魔力を鍛錬したせいで、妖しさに拍車がかかったようだ。
黒革のボンデージファッションも下品じゃなく、うまく着こなせているし、艶かしい。似合ってる!
どこからどうみても女王様だ。
……いや、それダメだろ。女王様じゃなくて大魔王。
とにかく、旅立つ時が来た。
「アッサール、魔力強化の特訓に付き合ってくれてありがとう」
アッサールは渋面を崩さず、しかし礼儀は重んじているようで、うやうやしく頭を下げた。
「ワニオ、皆をお願いね」
普通に良い奴だから、皆とまた会えるといいな。
「ヘビオ、ヘビコ、お洋服のワガママ聞いてくれてありがとう」
ボンデージじゃないやつお願い、と頼んでなんとか町娘の服を作ってもらった。でも 胸元が開いた、やっぱりちょっとセクシーなやつだけど。
「本当に、行かれるのですか?」
トンボールが馬を連れてきてそう言った。竜みたいなファンタジックな乗り物じゃなくて、普通の馬だ。
これなら、乗り方は聖女の記憶があるから余裕。
「うん、行ってくる。今度こそ、一人で大丈夫」
魔力はしばらく封じる。今度はジークバルトにもばれないくらい完璧に人間のはず。見た目は、気の強い美女程度に見えるだろう。
まあぶっちゃけ娼婦のように見えないでもないけど。それでもいい。
あと、この数年の血のにじむような努力は割愛されたけど……。五、六年経ってる? 時の経過、早いな!
とにかく!
魔王を倒すため、魔王城を探す旅に出た勇者一行に、私は合流する。
皆の心配そうな視線をよそに、私は掛け声をかけて馬を出発させた。
※ ※ ※ ※ ※
「助けてぇええええ」
馬にしがみついて勇者一行に突っ込んでいった私。
「馬が暴走してしまったの、誰か止めて」
真っ先にテオフィルが動いた。
そう、こういうところ大好き。ほんとに優しいのよね。メルヒオールなんてまず人を疑うからね。
あとジークバルトはもう魔法を唱えている。とりあえず殺そうとしないでよ!
ロランがテオフィルを手伝って、その自慢の筋肉で手綱を引いた。たぶん素手で馬を抱っこできるに違いない。
みんな、成長したなぁ。五人のパーティーを目を細めて見つめた。
そう、もうあどけなさを残した少年少女ではない。いや、アレクシアはまだあどけない美少女の容貌だけど。
──あれ? あの小説では美少女って設定だったけど、神殿で出会った頃からの年数考えたら、そろそろいい年齢だよな!? 永遠の美少女で通すのか聖女よ。
みんな私と同じく、大魔王討伐のために鍛えに鍛え、全てにおいて成長していた。
とくにアレクシアの聖なる力は、目を見張るほど。その華奢な身体に内包されているのが分かる。
「あの、あの、大丈夫ですか?」
ふわふわなホワイトブロンドの巻き毛をしたアレクシア。もう完全に見た目はあざとい。柔らかい水色の瞳のどんぐり目だ。
「ええ、ありがとう」
「そうですか。では、さっさと行ってください」
メルヒオールがまだ周囲を警戒しながら、私にそう言った。
「もうっ。なんてこと言うのぉ。ひどいじゃない、メルヒ。ぷんぷんっ」
アレクシアは頬を膨らませ、拳を握ってバカバカとメルヒを叩く。
「お姉さんは怖い目に遭ったのよ。か弱い女性の一人旅なんて、危ないと思わないの?」
……え、わたしこんなブリブリだったっけ?
メルヒオールは眼鏡を押し上げ、冷たい目で私を見据えた。
「か弱い女性にしては、胸の谷間くっきり見える開いたブラウス、太ももむき出しにになるくらいスカートを持ち上げて馬に跨がり、ガーターベルトまで丸見え。こんな襲ってくれって恰好で一人旅しますかね? あと荷物はどこに?」
ヘビオ、ヘビコ、もちょっとこう旅人みたいな恰好させてほしかった……。
「盗賊の仲間か、美人局的なやつなんじゃねえの?」
ジークバルトが、アレクシアを庇うように前に立つ。
殺気。
おかしい、魔物だと見破られてはいないはずだけれど。
「ファッビオ、こいつどう思う?」
木の上から、何かが飛び降りた。シュタッと立ったのは、白い犬──じゃない、狼だ。
良かった、無事に勇者パーティーに合流できたんだね。
「俺たちの目的を邪魔しに来た、魔物じゃねえの?」
まあ、その通りなんだけど!
白い狼はくんくん私の足を嗅ぐ。デカいから、一口で右足が無くなりそうだ。
いや、大丈夫。私の擬態は完璧なはず。ただ、一度ファッビオとは会っているから、そこが心配だった。
大丈夫かな。
「人間の……匂いだと思う」
どこか釈然としない顔。狼の顔だから、しゃべるとちょっとシュール。
「ね、こんな森の中で久々に人と遭遇できたのよ。次の町につくまで、一緒に行きましょうよ?」
アレクシアがジークバルトの腕に纏わりつく。魔導士の頬が微かに緩んだ。
「やめろ、胸が……お前、もう十八なんだから色々自覚したほうがいいぜ」
天然のビッチだな、アレクシア。……おかしいな、私こんなだったっけ?
テオがドンッとジークバルトを押しのけた。いつもの優しい表情が無になっている。
お、これこれ。このギャップが萌えるのよね。
「なに? お前のモノじゃないだろ?」
魔導士がフードの中で冷笑を浮かべた。
「ジーク、テオ、どうしたの? 怖い顔」
きょとーん顔のアレクシア。うーん、まだテオが特別好きではなかった頃とは言え、無自覚って傍から見ると嫌な女だな……。
もう一度言わせて。
わたし、こんなだったかしら!?
アレクシアに酷い奴だと思われたくないのか──疑いながらも──森を抜けるまで一緒に連れていってくれることになった。
まあ、本来森は危険なところだ。小説内では、魔王の命令で勇者一行を襲いにきた、低級の魔物がたくさん出てきたし。
今回は私が禁止しているから安全……とはいえ、盗賊や獣はもちろん、知能の無いはぐれ魔物が出ることはある。
さて、このまま勇者一行を私の棲む城に行かせるわけにはいかない。あそこには結界が張ってあるが、船さえあれば普通に行けてしまうのだ。
捜索の際、神殿の軍隊は、国境の移動を易々とできるわけではない。まだ中央集権化が進んでいない設定があるようで、絶大な権力を持つ神殿の領地──神聖ナントカ王国がトップにありながらも、人間同士の領土争いは絶えないようだった。
各地の王は、神殿勢力を警戒している。魔物討伐のためとはいえ、簡単に国内に軍など踏み込ませない。
だから勇者ご一行様が、まず魔物がよく出没する場所などを探し、魔王のいる場所を特定しなければならないのね。
神殿の軍が来るのは、それからだ。
メルヒオールとテオが深刻な顔で話し合っていた。
「聖王は、我々が魔王を討伐した後、その土地に軍を居座らせる気でしょうか」
「たぶんね。いま分かっているいくつかの魔物の巣は、鉱山が豊富で土壌も肥沃だという噂があるし」
「大事なのはそこじゃない。神聖グーグラリア王国内には封土にできる土地が少なくなってますからね。国内の貴族に分け与え、そこから逆に、間にある国に攻め入るつもりかもしれません」
テオフィルは渋い顔をした。
「あー……神殿に税を納めない国ね。やりそうだなぁ、あの爺さん」
魔物討伐費用としての各国からの徴税。妥当だとは思うけれど、出動の際軍の兵站を整えるのも、ちょうど滞在している国が受け持つのだ。
莫大な金額がかかるなら、もう自力で退治しちゃえば? と思うかもしれないが、魔物は数が少ないと言え、魔力を持たない獣のような下級でも、皮膚が固く、爪や歯も鋭くて危険である。
神聖グーグラリア王国の領土では、そんな魔物を倒せる武器を作るための鉱物が、多く産出される。
もちろん独り占めである。魔物討伐軍はその素材でできた武器を使用できるので、各国は神殿に隷属するしかなかった。
「聖王ってほんっと食えないんだよな」
うんざりしているテオ。私は耳を大きくしながらこっそり聞いていたけれど、テオの整った顔が曇っているのが嫌だった。
メルヒが彼の不安をさらに指摘した。
「我々が魔王を討ち取ったら、たぶん褒賞として爵位をもらえますよ。そして魔王亡き後、そのまま封じられるでしょうね、その土地の領主として──」
「そんなのが目的で勇者になったわけじゃないよ」
テオフィルの低い声。政治的な理由で王に利用されたくないのだろう。テオはただ、魔王を倒したいだけなのだ。焼かれた村の復讐に。
しばらくすると、小川のせせらぎの音がした。森は美しく、木洩れ日が水面にはじけ、光の粒を躍らせている。
私は思わずほっと息をついた。魔境は人間に見つからぬよう、常に張ってある結界のせいで、どんよりしているからだ。
私はやっぱり、晴れ渡った空と、澄んだ世界の方が好きだ。
だって人間だもの。訂正、人間だったんだもの。
「なんか、汗かいちゃった」
アレクシアが突然、白のフリフリが付いたチュニックを脱ぎだした。全員がぎょっとなる。
「アレクシア。神殿育ちだから知らないかもしれませんが──」
慌てて自分のマントを被せるメルヒオール。
「貴女は少し嗜みを持ちなさい」
「じゃあ、メルヒ。水浴びしてるところを護ってね」
きゅるんっ、と賢者にどんぐり眼を向けるアレクシア。
メルヒオールの眼鏡が曇る。
あ、これ興奮して鼻息が荒くなったな。堅物そうに見えて、むっつりエロなのだろうか。
「俺が……」
テオが進み出たところを、ジークバルトが止めた。
「だからさー、お前のものだったっけ?」
殺気が渦巻く。メルヒオールが眼鏡を光らせた。
「いいでしょう。ジャンケンです」
「待ってよ、ぼくグーしか出せないよ」
ファッビオがわめく。お前までしゃしゃり出るのか!
ファッビオは、さらに大慌てで人型になったではないか。
「きゃあぁあああああ」
アレクシアが目を塞ぐ。全裸だった。
「汚い物をアレクシアに見せるな!」
ロランが激怒してファッビオの腰に布を巻く。それから筋肉隆々の片目の騎士は言った。
「よし、ではジャンケンだ」
おまえもか。
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