4 / 51
第二章
聖女じゃなかった件
しおりを挟むぬるっとしたものが、体に纏わりつく。
なんだろう。ぬるま湯のような中に、私は浮いている。体を丸めてプカプカ、プカプカ……。
羊水?
そうか、ここは胎内なんだ。え、こんな状態から始まるの?
聖女アレクシアとして歩んできた人生の記憶は、彼女が物心ついたころからである。
そりゃ、普通でしょ。胎児や乳児の時の話なんて、物語に不要だし、第一、私の元の人生だってそんなものだわ。
母の胎内から記憶がある人なんて、なかなかいないんじゃないの?
でも、外の音は聞こえてくる。なんだか騒がしい。
言い争いをしているような声がする。
うるさいなぁ。
意識がはっきりしてきた。
それに、窮屈。もうやだぁ。
思い切り伸びをする。指先が何かに引っかかった。
薄い膜が破れる。バシャ、という音とともに、外気が入ってくる。私は何か言おうとして、口からガパッと水を吐きだしていた。
ゲホゲホゲホ。
え、なんだ? 生まれたの?
「皆の者、卵が孵化したぞ! お生まれになった!」
歓声が、耳に流れ込む。え? 何? 目をこすり、ぼやけた視界をはっきりさせた。
トカゲ人間が、こちらを見ていた。
ふう……へんな夢、で済ませる。
トカゲが人間みたいに服を着て直立してるとか、まだ夢の中だよね。
「力は出ますか? 外気から上手く精力を取り入れられますか?」
……しゃべった。
私が無言でトカゲ人間を見ていると、でっかい口が再び開いた。
「空腹感があるようでしたら、生肉でもご用意いたしますが」
……やっぱりしゃべってる。
あとトカゲじゃない。どうせなら正しく現実を直視しよう。
ワニだ。
だって頭も口もでっかいし。
そして、私の頭が正気なら、蝶ネクタイのモーニングコートを着ている……ように見える。
私はワニ人間の背後に視線を移した。
ワニ人間だけじゃない。あきらかに虫っぽい複眼の、昔の映画に出てくる蠅男みたいなヤツまでいる。
嘴付きの目がまんまるなフクロウ──の顔をしながら、体はカンガルーだったり、ヤギやらトナカイみたいな立派な角はあるのに、それ以外は人間だったり。
可愛くデフォルメされた、メルヘンな感じでは無く、ドン引きするくらいリアルな謎生物が、いっぱい私を囲んでいる。
息を吸い込んだ。
「ぎゃぁあああああああああああああああ」
私は絶叫していた。
「落ち着いてください、魔王様」
背中にコウモリの羽をつけた青年がやってくる。顔立ちは人間と変わらない。てか、むしろイケメン。でも耳がちょこっと尖っている? あとやっぱ背中の羽が主張しすぎ。
──な、何? デビル?
腰を抜かして後ずさると、背後から羽交い絞めにされた。
振り返ると、鱗に覆われた顔。シュルルと口から細長いベロが出てくる。
「へへへ、へび」
蛇が私の体に巻き付いている。アナコンダくらいのやつ。ヘビが笑った。
「大魔王様、卵の薄い膜を通したシルエットからして、ある程度予想はしてましたニョロ──しかし、本当に女性だったとは。嬉しいニョロ! ご安心ください、私めの脱皮した皮で、素敵な魔王ファッションを提供いたしますニョロ。女物は得意なんですニョロ」
ニョロニョロうるせえええっ!
蛇はベロをチロチロ出しつつ、何事か唱える。すると、何かが体に張り付いた。
「さて、イメージぴったりですニョロ、魔王様。その方ども、鏡を用意するニョロ!」
大型の鏡が、私の目の前に立てられる。私は、ゆっくり立ち上がった。
そう、生まれたばかりなのに、立ち上がれるのだ。
鏡に映っていたのは、うるきゅん美少女アイドル風聖女アレクシアの私ではなかった。もちろん転生前の日本人でもないのだけど、どちらかと言うとそっち属性に近い。
くっきりした顔立ちの、色気むんむん、いかにもビッチなパイオツカイデー女。
しかも蛇男が提供した──脱皮したやつ?──真っ黒な蛇革のボンテージを身にまとっている。
どう見ても、SMの女王だ。
「魔王さま。いや、大魔王ゴルゴンドロン・ジョー様、よく復活してくださいました」
ざざっと謎生物たちに跪かれた。
顔まで完全に動物なのと、ほぼ人間のような姿の者、さまざまだけど、とりあえずあなた達なんなの!? 頭がおかしくなりそうだわ!
百日後にどうにかなりそうなワニ人間が、感激しながら告げる。
「お待ちしておりました。さあ、人間を殲滅しに行きましょう」
私はその場から逃げ出していた。
それからどうやら大魔王の棲家らしい城のある、岩山のてっぺんに上り神に叫んでいた。
「グーグラ神! おかしいじゃない! 聖女でやりなおすはずだったのに、なんで魔王になってるのよぉおおおおお!! 約束が違うわよぉおおおおおおおおおおおお!!」
こうして、私の二度目のいや、三度目の人生が始まった。
10
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売しています!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
※お待たせしました!! アルファポリスさんでも、いよいよ続編の第二章連載開始予定です。
2025年二月後半には開始予定ですが、第一章の主な登場人物紹介を先頭に追加しましたので、
予め思い出しておいていただければうれしいです。
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくという
チートもざまあも無い、ちょいエロ異世界恋愛ファンタジーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(カクヨムではR-15版としてリニューアル掲載中ですので、性的描写が苦手な方や
青少年の方はそちらをどうぞ)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる