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第一章
創作の中の神様って薄っぺらっ!
しおりを挟む「テオ! みんなぁああ!!」
巨大な闇が、崩れた神殿からあふれ出た。世界を包まんとする漆黒の悪意。それはアレクシアのところまで容赦なくやってきた。
真っ黒なおどろおどろしい悪意は、煙となって一帯を覆いつくした。
「な、なにが起きたの」
アレクシアは咳き込みながら目を凝らすと、なんの前触れもなくそこに人影が現れた。
真の恐怖を目にすると、声など出ないのだと、アレクシアは知った。闇が形をとったような邪悪なオーラ。それをまとった人物は──。
いや、人では無い。
──大魔王ゴルゴンドロン・ジョー……
すべてが終わりを告げた。
完
ご愛読ありがとうございました。
頭の中に映像が入り込む。
眼鏡姿の吉田エリザベス八世が、パソコンに向かって打ち出した文章に叫んでいる。
「終わらせてやんよ! ああ終わらせてやんよ!」
吉田エリザベス八世は頭を掻きむしり、キッ! とマンションらしき窓の外を睨んだ。そして突然走り出し、ベランダの外に身を投げたではないか。
「まさかの身投げ──下の人大丈夫だったかしら」
迷惑考えようよ、と思った瞬間、私は吉田さんと初めに会った場所と同じような、真っ白な空間に放り出されていた。
いや、私だけじゃなかった。
「ようこそ勇者ご一行」
白い髭のお爺さんが出てくる。これぞ神様のイメージまんまだ。
その時、膨大な情報が記憶となって私の頭に流れ込んできた。頭を抱え思わずその場にしゃがみこむ。
あ、頭が痛いっ。
何かが書き換えられていく。上書きされていく。
痛っいたいいたいこわい。
頭を掴んで目をカッと見開いたまま、息を短く何度か吐き、また吸い込む。そうして破裂しそうな圧迫感と、衝撃を逃そうとした。
──徐々に、それは収まっていった。
あ……ああ、そうだ。
私は聖女アレクシア──つまり今自分は、ゆるふわうるうる清楚な美少女だった。
「やだ、ここどこ?」
記憶の奔流から立ち直り、やっと顔をあげた。まだ混乱している。
その時、差しのべられた手が視界に入った。その場に居たのは、私と爺さんだけではなかったのだ。
この手は知っている。剣ダコだらけの温かい手。懐かしさで、ぶわっと涙が盛り上がる。
会えた。
「大丈夫?」
えくぼのある穏やかな笑顔。生きている。最後に丘の上で抱き合って、私たちは──。
辺りを見渡した。
魔王討伐のパーティーが、全員その場に居た。
私はテオフィルの手を取る。思い出した。というか、知っていた。
私たちは全滅したんだ。そして、世界が滅びた。
どさくさに紛れて、勇者テオフィルに抱き着く。
吉田エリザベス八世は、大枚をはたいて超人気有名絵師にイラストを頼んでいた。
そのイメージがまんま生身になったような、イケメンである。
ぴとっと顔を付けると、テオフィルは優しく私を抱きしめてくれた。
体中から好きがあふれてくる。好き好き、大好き。
転生した私には、この世界の記憶がまるで経験してきたかのように、頭に、体に刻み込まれていた。
私、聖女アレクシアは、神殿で生まれ育ち、王に命じられ、パーティー編成の要となった。
しらっとした目でこちらを見ている、他のパーティーメンバーを見渡す。全員知っている。
勇者テオフィルをはじめ、騎士ロラン、魔導士ジークバルト、賢者メルヒオール、獣人ファッビオというイケメンズに助けられながら、そして様々な求愛を受けながら、なんとか魔王城まで来た……という記憶は生々しい。
Web小説そのまんまの物語を、自分の歩んできた人生として体感したんだから、あのバッドエンドで完全に打ちのめされていた──。
SNSや掲示板上の情報によると、元々作者の吉田エリザベス八世はゲーム廃人でもある。小説自体もどこかゲームっぽさを孕んでいた。
だから戦って倒れても、私が回復呪文を唱える、あるいはうっふんR18要素の技を用いれば、復活してまた戦えるはず──なんだけど……。
今回だってねぇ? もっかいチャレンジできるよね? ラスボス戦。
「残念ながら、君たちは完全に死んでしまったわけじゃ。死んだものは回復できぬ。もう一度やり直したいなら、この生まれ変わりの実を授けよう」
髭の爺さんが赤い実を差し出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は聖女アレクシアらしからぬ大声をあげていた。
他のパーティーメンバーが、ぎょっとしたように私を見つめる。
あら、いやですわ。聖女はこんな大声出さない。ふわふわとした綿菓子のようなキャラなんだから。
「あの? 神様、どういうことでしょう。わたくしたち、完全に死にましたの?」
「そうじゃ、バッドエンドじゃ。物語で言うと、エタったから作者が嫌になってめちゃくちゃな終わり方にさせたエンドじゃ」
いや、そこはさ、俺たたで良くね? 最後全員死ぬくらいなら、冒険永遠に続けたって良くね? いや、その前に大魔王倒すだけで完結できたんじゃないの、吉田エリザベス?
「どうも作者ぐぇほっ──創造神は、ありがちなハッピーエンドが嫌になったようじゃ。それからもう作しゃ……ぐほぇっ創造神と連絡が取れんようになった。さて、どうしたものか分からぬので、この世界の中の神グーグラとしては、このままお亡くなりになるか、もう一度やり直してもらうしかないのう」
なんだ、この爺──グーグラ神ってこっちの世界の神なのか。なんとなくホッとした。
え? え? どういうこと? 書いたところまでは直せないから、つまり、書き直されるわけじゃなく、完結の後、あのまま続きに突入するってこと!?
周囲を見渡すと、勇者以下パーティーのメンバーはすっかり困り果てている。
やがて勇者テオフィルが、私をぎゅっと抱きしめながら言った。
「グーグラ神よ、我々は失敗したのか?」
「そうだ。大魔王は強すぎたようじゃ」
賢者メルヒオールが進み出た。
「神よ、つまり世界は滅びた……と?」
グーグラはいかめしく頷く。その場が重々しい空気に包まれた。
騎士ロランの板金鎧が、カチャカチャと音を立てた。屈辱か、怒りで震えているようだ。
「無駄死にかよ」
魔導士ジークバルトがハァッと息をつき、前髪をかきあげながらそう言った。
作者が投票箱を設置したところ、実は一番人気はヒーローである勇者ではなく、この魔導士だったりする。
素朴で真面目なヒーローのテオフィルより、ちょっと危険な香りがするところがいいとかなんとか。イラストも主人公を食うほどかっこいい。
旅の途中、色気むんむんに言い寄られたが、おぼこい聖女アレクシアには刺激が強すぎたようだ。けっきょく振られてしまう可哀そうな当て馬である。
「力が、足りなかったのですね」
賢者メルヒオールが眼鏡を押し上げて冷静に言った。しかしその眼鏡の中には、やはり屈辱の色を漂わせている。
同じ眼鏡でも、作者吉田エリザベスとはぜんぜん違う知的眼鏡。この硬そうで冷たそうな知的眼鏡は、一部のマニアにウケて、作者許可のもと二次創作のBLなんかが出来ている。
でもメルヒは、プライドが高すぎて聖女に告白できなかった当て馬その二だ。
「魔王の成長が早すぎたんだね」
わんこ系獣人ファッビオが尻尾を垂らす。獣化すると背中に乗れそうなバカでかい白狼になるの。この子だけ魔物の仲間である。
「それか、僕らが未熟だった」
舌なめずりしながら、私をチラチラ見てくる。ああ、この子もあからさまにアレクシアに発情していたっけ。当て馬三。
スッと、テオフィルが私をかばうように立ち、ファッビオの視線から遮る。それから神様に向かって言った。
「このまま死ぬなんてごめんだ。もう一度大魔王を倒す」
そりゃそーだよ! 転生したら転生先でいきなり死んじゃってどうするの、吉田エリザベス!
「コンティニューではなくニューゲーム。一からやりなおす、生まれ変わるということになるぞ? つまり今の記憶は失う」
「コンティヌ……??」
聞きなれない言葉に一瞬たじろぐテオフィル。しかし、ニュアンスは伝わったようだ。
「同じ人間に生まれるなら、俺は何度だって勇者となるだろう。今度は必ず魔王を倒す。そしてアレクシア……記憶がなくたって、また君と恋に落ちるよ。断言する」
真剣な瞳のテオフィル。
ひゅぅううううう! さすが物語の主人公だけあるわね! くさい台詞が決まる決まる。
もう私はメロメロだった。
「ああ、テオ、私もよ。私もテオフィルをまた愛するわ」
好き好き好き鋤! ヒロインの気持ちに引きずられ、膨れ上がる恋心。可視化できるなら、おそらくその場にはハートマークが飛び交っていただろう。
周囲の白々とした視線──とくに神様の視線が酷かったけれど、彼はふむ、とうなずき、海も引き裂けそうなネジくれた杖を宙に掲げた。
「よろしい、諸君。準備はいいか」
──暗転……二度目の。
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