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第九章

明け方の夢

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 部屋の扉を叩かれ、マリアは目を覚ました。

 外は真っ暗だ。

 椅子にかけた上着に手を伸ばし、レオナールから拝借した懐中時計を取り出す。

 まだ未明、夜明けまでには少しかかる。

(誰だ?)

 警戒して、壁に吊ったホルスターから短銃を取り出す。

 慎重に戸口に近づいた。

 再び強めのノックが響く。

 防犯用の小窓を開けて来訪者を見ると、ジョルジェ・ランバルトが怖い顔で立っている。

 何か不足の事態があったのか!?

 マリアは慌てて扉を開けた。

「どうした曹長! ルチニア軍が追いついたか?」

 青い顔のマリア。その姿を目にしたジョルジェは、目を見開いて棒立ちなり、マリアとは真逆に顔を赤面させる。

 しかし、酔っているわけでは無い。

 思いつめた表情でうつむき、黙り込んだままだ。

 特に悪い知らせを持ってきたわけでもなさそうである。

 マリアは少しだけほっとして、ジョルジェの顔を覗きこむ。

「驚かすな。何のよう――っ!?」

 突然の激しい抱擁と口づけに、マリアは言葉を失った。

 しかしすぐに我に返ると、思い切りジョルジェを突き飛ばす。

 バスローブ一枚という無防備な姿で扉を開けた自分がバカだった。

 息をきらせながら、手に持っていた短銃を突きつける。

「まったく、おまえはなんで懲りないんだっ! 動物か?」

 しかしジョルジェは、銃が見えないかのように上官に近づいた。

 その思い詰めた表情に、マリアは怯む。

 いつものジョルジェでは無い。やはり酔っているのだろうか?

「止まれ」

 マリアは自分の声に、怯えが含まれていたことにショックを受けた。

 ジョルジェもそれに気づいたかのように勢いづく。

 銃を持った腕を掴むと、再び腕の中に引きずり込んだ。

「あんたは撃たないよ。俺に借りがある」

 マリアはもがいて、なんとか男臭いジョルジェの胸から顔をあげた。

「借りを取り立てに来たのか?」

 声が震えそうになるのを何とか堪え、気丈にジョルジェを睨みつけた。

 自分は治安警備艦隊の司令官だ。部下を恐れることはない。けして。

 ジョルジェは真摯な目でマリアを見下ろす。

「いや、実は借りなんて無いんだよ、大佐。あんたがそう思ってるだけで。上官として部下に仕事を命じただけだろ?」
「じゃあ何で――」
「俺はそんなんじゃ満足できないんだよっ! あんたに、俺を男として見て欲しい。特別な男としてだ」

 マリアは驚いたように目を見張る。暴れるのを止め、そっとジョルジェの様子を伺った。

「国に帰れば、もう大佐の近くに居られない」

 ジョルジェは苦しそうにそう吐き出した。

「大佐はもう俺たちの司令官じゃなくなるだろうし、俺もどの部隊にまわされるか分からない。そしたら、あんたとはもう……」
「別にこのまま治安警備艦隊に居たところで、おまえとどうなるわけでもない」

 マリアはぴしゃりと突き放した。

「私を上官として慕っているなら嬉しいが、おまえの目当ては私の身体だろ?」
「そうじゃないっ!」

 ジョルジェはカッとなって否定する。

「そりゃあ最初はそうだったけどよ。大佐、あんたは美人だし、いい身体をしてる。見てるだけでむらむらしてくるんだ。腰のくびれもいいし、ケツや足の形も完璧。おっぱいは俺の手にちょうどいい大きさだ。乳首は桜色で、肌なんて吸いつくようなもち肌――ああ、ちきしょう抱きてぇ……ってあれ? 何の話だっけ?」
「ほら見ろっ! 男なんてやりたいだけの生き物だろっ。このケダモノっ」
「ち、違うっ、そんなことが言いたかったんじゃないっ。いいから話を聞いてくれっ」

 真っ赤になったマリアに、部屋の外へ追い出されそうになってジョルジェが必死になってしがみつく。

「そうじゃなくて、俺はつまりあんたの芯の強さとか、潔癖さとか、凛としたところに惚れたんだよ。確かに大佐はいい女だけど、中身にも惚れてるんだ。俺は大佐を上官として、それに女としても好きなんだよ」

 ジョルジェはためらった後に、突き刺すようにマリアの目を見つめた。

「アーヴァイン・ヘルツとあんたは相思相愛ってわけじゃねーんだろ?」

 マリアの肩が大きく波打つ。甲板での話を聞かれていたのだ。

「だからそれは――」
「俺じゃ駄目かな? そりゃー海の英雄に敵うとは思ってないけど。つまりその、俺も視野に入れてくれないか、ってことを言いたいわけで……」

 ジョルジェは次第にしどろもどろになっていく。

「ああっ、くそっ! 女を真剣に口説くのがこんなに難しいなんて」

 マリアは固まったまま何も言えなかった。それを否定と捉えたのか、ジョルジェは矢継ぎ早にマリアを説得する。

「もちろん身分違いだってのはよく分かってるぜ? 別に結婚してくれとかそういうレベルの話をしてるわけじゃない。いや、かと言って軽い気持ちなわけでもないんだけど……だからなんつーかなぁ、女ってのは愛されてなんぼっていうか。愛するより愛されるほうがいいんだよっ」

 ジョルジェはついにはパニックに陥ったかのように叫ぶと、力をこめてマリアを掻き抱いた。

 そうすることで落ち着きを取り戻すと、形のいい耳元にそっと囁く。

「だからな……。黙って、俺に抱かれろ。俺が愛情を注ぎ込むから、あんたはそれを受け取ってくれればいいんだ」

 マリアは途方にくれた。

 こんな風に気持ちをぶつけられたのは初めてだった。

 ジョルジェはマリアの返事を待った。

 恐ろしいほどの沈黙が続いた。

 ただ、マリアはジョルジェの腕から逃れようとはしなかった。

「私には分からないんだ」

 やっと、ポツリとした呟きが粗末な部屋に響いた。

「え?」
「男に抱かれれば、たとえそれが強引な暴力であろうとも、身体が反応してしまう。絶頂を味わってしまう。私は相手が誰であろうとそうなる淫らな女なのだ。皇帝に……実の父に、そういう女に作り変えられてしまった」

 固く閉じたマリアのまぶたから、涙が滑り落ちる。

 ある時期から、虐待しかなかった幼少期。

 それが当たり前の境遇で育ってきたマリアにとって、普通の恋愛など、到底わかるものではなかった。

 彼女の脳裏に、威風堂々としたアーヴァイン・ヘルツの姿が浮かぶ。

「だから私は、ある人への気持ちだけを信じるしか無かった」

 ジョルジェがかすれた声で確認する。

「それが、ヘルツ中将か?」

 マリアは頷いた。

「中将は、私が身体ではなく心で、人を愛することができるという証。唯一の存在なんだ。だから――」
「もういい」

 ジョルジェは、深々とため息をついた。名残惜しげに、マリアを放す。

 泣かれると、これ以上どうすることもできない。

「完膚なきまでにふられちまったか」

 後ろを振り返ると、扉の取っ手に手をかける。

「邪魔したな」

 意気消沈して出て行こうとした時、軍服の裾をマリアが掴んだ。

「人の話は最後まで聞け」

 マリアは少し顔を背けながら、ふてくされたように言う。

「もしおまえが良ければ、私を抱いてくれないか?」

 ジョルジェは耳を疑った。

「だってあんた……」
「たとえ気持ちの無い相手からでも、愛を受ければ、少しは変われるのかもしれない」

 マリアは子供のように無垢な表情をしていた。

「試してみたいんだ。過去の呪縛に囚われたくない。でもその呪縛を解く鍵である中将は、私を愛してはくれない……永遠に。だから――」

 マリアは、申し訳無さそうにジョルジェを見上げた。

「勝手なのは分かってる。でも他の男でも心から愛せるのか、試してみたい」

 直後、ジョルジェはマリアの両足を掬い上げるようにして抱きかかえていた。

 わき目も振らずベッドに運ぶ。

 そしてシーツの上にマリアを寝かせ、その上に覆いかぶさった。

「俺が教えてやる。愛されるってことがどういうことか、俺が情熱を叩き込んで、大佐を満たしてやる」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ジョルジェは震えていた。

 白いシーツの上に無防備に横たわった上官の姿を見て、息が詰まりそうになる。

 感情が高ぶりすぎて、頭に心臓があるかのような動悸の音に、眩暈がした。

 脳卒中とかおこしちゃいそうだ。

(なんて綺麗なんだ)

 ジョルジェは震える手を伸ばし、こちらを見上げるマリアの頬にかかった金髪をどけた。

 怖いほど透き通った青い瞳。

 テーブルランプの灯りだけの薄闇に映える白い肌は、蜜を塗ったように輝いている。

 ふっくらとした唇が緊張のためか少し開いていて、まるでジョルジェを誘っているようだった。

 吸い寄せられるように、口づけをした。

 舌を入れると、マリアは少しためらった後、唇を開けてそれを受け入れ、柔らかい舌を絡めた。

(甘い……)

 熱く潤ったマリアの口腔内は、下の口の感触も連想させた。

 ジョルジェは極限まで反り返った股間を意識した。

 キスだけでこれほど固くなってしまった。

 凶暴なほどたけり狂った逸る気持ちを、無理に押さえつける。

 ベッドサイドの短銃にちらりと目をやる。

 下手なことをして、眉間に風穴を開けられたくはない。

 いや、マリアを怒らせて撃ち殺されるより、上官の気が変わってこれ以上先に進ませてくれなくなることが怖かった。

 そんなことになったら、気が狂ってしまうだろう。

 ジョルジェは首筋に這わせた手を、じょじょに胸元へ下ろしていった。ローブの合わせに手をかけた時、マリアがびくっとなる。

「大丈夫、じっとして」

 ゆっくりと、布地をはがした。何度か見たことのある、完璧な形の乳房が露になる。

 見られているせいか、どんどん大きく膨らんでくる乳首にうっとりした。

「吸い付きたくなる」

 マリアは顔を赤く染め、顔を背けた。

「あまり見るな……んっ」

 ジョルジェは口で言った欲望を実行した。

 薄い唇がマリアの乳首を咥え、優しくねぶる。

 マリアはシーツを掴んで身体を反らした。

 その反応の色っぽさにたまらなくなり、ローブを剥がして、もう片方の乳房も露にする。そして片手で掴んだ。

 たっぷりとした張りのある肉感と、しっとりとした肌の感触。

 ゆっくり揉みしだきながら、指で先端を転がす。

 指に攻め立てられて固く尖った先端は、ピンク色で可愛らしい。

 マリアはさらに激しく身体をよじった。

 ジョルジェのせいで濡れた唇から、必死にこらえていたあえぎ声が漏れる。

 マリアは慌てて口を閉じた。

「声、出しちまえよ」
「でも……隣の部屋には士官が――あぁあっ」
「そうだ、聞かせるつもりで出せよ」

 ジョルジェはにんまり笑った。耳元で聞く上官の声は、柔らかくて深みがあり、男心を焚きつける音色だった。

「もっと聞かせてくれ、あんたの歌声を」

 ジョルジェは荒い息でそう言うと、乱暴にマリアのバスローブを全て引っぺがした。

 気持ちを抑える枷に、限界が近づいてきていた。

 長い足を割るように自分の膝を入れる。

 一瞬抵抗したマリアだが、ジョルジェが乳首を摘むと可愛らしい声を上げながら、足の力を抜いた。

 ここぞとばかりに強引に足を開かせた。

「待って、ランプを消して」

 マリアは顔を背けながら懇願する。

 ジョルジェは両方の乳房をすくいあげるようにはさむと、その先端に交互に口付けしながら首を振った。

「駄目だ。あんたの顔が見えないじゃないか」

 マリアは、乳房に与えられる快感のために潤んだ目を、自分の部下に向けた。

「だって、は、恥ずかしいから」

 ジョルジェの顔に邪な笑みが浮かぶ。

 腕の中で身を震わせている上官を、もっと辱めたいと思った。

「あっ――いやっ!?」

 突然ジョルジェに尻を掴まれ、腰を持ち上げられる。

 ジョルジェの目の前に、濡れた秘所がむき出しになった。

 ジョルジェはマリアのしっとりした柔らかい尻の感触を楽しみながら、視覚では目前にさらされた肉の薔薇を楽しむ。

「綺麗だ。花びらが夜露で濡れてるよ」
「やめてっ、見ないで――」

 うろたえたマリアに、今度は嗅覚を働かせたジョルジェが言う。

「それに、甘い、いい香りがする」

 マリアはその言葉にさらに頬を染め、身をよじった。

 そのせいで滴るように蜜が落ち、割れ目を伝って尻を掴んだジョルジェの手を濡らした。

(なんて感度の良さだ。言葉だけでこんなに濡れちまうなんて)

「あれ、花弁の中に、芯が――」

 ジョルジェは口を近づけて、肉の突起を噛んだ。マリアの身体に電流が走ったかのようなショックが襲う。

「いっ――ぁぁあ! ――んっ!」

 弓なりに身体を反らせて悲鳴をあげ、直後自分の腕に噛み付いて声を殺す。

 ジョルジェはさらに舌の先端で花芯を転がした。

 マリアは狂ったように首を振りながら、ジョルジェの与える快感から逃れようとした。

 ジョルジェは突起の下の、満ち潮のように蜜を湛えた窪みに舌を差し入れた。

 マリアの身体が凍りつく。

 ジョルジェは口の周りをマリアの汁で濡らしながら、何度も舌を出し入れし始めた。

「ああっお願いっ、お願いっそんなに動かしたら、あぁあぁぁああ~っ!!」

 ついに堪えきれなくなり、マリアは宿中の人間が起きてきそうな悲鳴をあげながら、痙攣した。

 シュッと何かが飛び、ジョルジェの顔面にかかる。潮を吹いたマリアに驚きながらも、おどけたように言った。

「鯨かよ。さすが海の女」

 しかしマリアは、そのままぐったりすることはなく、ずっと腰を震わせている。

 今や体中をピンク色に染め、視線は夢の世界をさ迷っている。

 燃え上がった官能の火を持て余し、狂う寸前の姿をさらしたマリアの美しさは壮絶だった。

(まるでイキっぱなしだ)

 これほどまでに反応してくれる身体と出会ったのは、初めてだった。

「お願い……」

 マリアに呼びかけられ、ジョルジェは我に返った。マリアのうっとりした視線が、いつの間にか自分を見ている。

「頭がおかしくなりそう。早く――ね?」

 おねだりする上官の姿なんて、もう二度と見られないだろう。

 ジョルジェは嬉々としてマリアの足をさらに大きく広げた。

 それで一瞬理性が戻ったのか、マリアは恥ずかしそうに視線をそらした。

「自分で足を広げるんだ。さあ、足首を持って、俺によく見えるようにしろよ」

 マリアはためらった。

「ご褒美をやるからさ。言うことをきくんだ」

 マリアはおずおずと頷くと、命令通りに細い足首を掴み、自分で両足を開いた。

「いい姿だな」

 ジョルジェは感激して呟くと、自慢のイチモツを取り出し、先端を濡れそぼったマリアの秘所の入り口にあてがった。

 それは、数々の男を試してきたアンリエッタでさえ、夢中になるほどの大きさだった。 

 お互いの大きさなど知らないが、リッツ・マルソーに匹敵するほどかもしれない。

 それがゆっくりとマリアの入り口をこすり、やがて先端が入り込む。

 マリアは息を呑んだ。

「うおっ」

 ジョルジェは驚愕の声をあげた。

 初め、入るか疑問に思ったほどの狭い入り口は、素直にジョルジェの分身を咥え込んだ。

 先端が入ると、あとは驚くほど滑らかに、熱く、潤った中にどんどん飲み込まれていく。

 まるで補食されていくようだ。

 理性の飛ぶ寸前の頭にぼんやりと『名器』という言葉が浮かんだ。

 入り口はザラッとしていて、奥に行けば行くほど、肉壁がうごめく。ミミズが千匹入っているようだ。

 こんな中に突入したら、すぐにでもイッてしまいそうだ。それでももう、抑えようが無かった。

「あんたを満足させられるか分からないが……行くぜ?」

 マリアの返事を待たずに、ジョルジェは一気に奥まで貫いた。

 絶叫が再び狭い部屋に響き渡った。

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