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第二章

誤算

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 艦長たちは、はじめマリアを怖がらせるだけのつもりだった。

 軍人としてのプロ意識を持っている彼らは、任務に支障が出る行為は好まない。

 たとえ、相手が皇室からのスパイでも、上層部が決めたことなら上官として仰ぐつもりでいる。


 むしろルチニア王国に到着するまでは、司令官として、大使として、それなりに役に立ってもらわなければ困る。

 ただし、それはあくまでも肩書き、立場のこと。

 作戦に彼女の意見を取り入れる気は無いし、実戦で彼女の命令を仰ぐつもりもない。

 少し脅しておけば、彼らの言いなりのお飾り人形になってくれるだろう、四人の将校はそう思っていた。


 銀のボタンがはじけとび、上品な下着に包まれた半身があらわになる。

 ほっそりとした身体からは想像できないほど大きな胸が、下着を押し上げている。

 最近貴族の令嬢の間で大人気の下着「悪魔のブラ」で押し上げてるわけでも、上げ底でもない。

 本物の張りのある肉の塊。

 リッツは生唾を飲み込んだ。

 脅すだけのつもりだったのに。

 カッチリした生地で作られた無骨な軍服の下に隠れていたのは、素晴らしく女らしい体つきだった。

 女好きのリッツの思考から、任務などすぐに頭の隅に追いやられた。

 そして何でもいいからとにかく、マリアの身体を全て見てみたいと思った。


 揺れにうまく対応してある、大きな接待用の円形テーブル。

 その上に仰向けにされた上官はうろたえ、何とか身を起こそうともがいている。

 リッツは卓上に身を乗り出し、彼女の両腕を押さえつけているアルフォンソの顔色を伺った。

 ここではマリアと同じ階級で、一番年長だし、神風艦隊の副司令官でもある。

 彼の意見に従おう。

 髭面の戦友は「さすがに提督を犯っちまうのはまずいんじゃないか?」という顔をフランソルの方に向けた。

「西艦」の艦長であり、頭脳派のミシュターロ中佐が目線で肯定した。

 どうやらここまでだ。

 リッツはがっかりしつつも、大事にならなかったことに安堵する。押さえつけていた足を放そうとしたその時、横からカイトの手がのびた。

 泥酔状態の東艦の艦長カイトは、理性が利かなかった。

 マリアの胸を覆っている機能的な下着に手をかけると、一気にそれをずり上げた。途端に真っ白な張りのある果実が弾け出る。


「すごい」

 今までに見たことがないほど完璧な形をした肉の半球を見て、フランソルが素直に賞賛のつぶやきを漏らす。

 副司令官であるアルフォンソまでも、目が離せなくなった。

「ヴェルヘルム提督」

 マリアは恥辱に顔をゆがめながらも、自分の名前を呼んだアルフォンソ・ヴァンダーノ大佐の顔を見た。

 マリアの青い瞳は萎縮し、恐怖に染まっている。あのお高くとまったクソ女が、ただの小娘のように怯えている。

 それを見て根っからの武人であり、戦場で猛者と呼ばれてきたアルフォンソは、もう我慢できなくなった。

 弱っている女は守るものだが、弱っている敵には追い打ちをかける。軍人とはそういうものだ。

「司令官……すまん。今から我々がすることは、忘れてくれ」

 言ったが早いか、リッツを押しのけ大きな身体が卓上に上がる。

 マリアに馬乗りになると、彼のごつい手がその上半身を起こした。

 身体の線が外に響かないように配慮されていた厚手の下着を、震える手で引きちぎった。

 そして暴れるマリアをけん制するように、片手でそのたわわな右の乳房を掴み上げる。

 マリアはひゅっと息を吸い込んだ。過去の記憶が蘇ったのだ。

 恐怖に震えながら部下に訴える。

「やめろっ大佐、こんなことしてただですむと――」
「貴女が黙っていればすむことです」

 アルフォンソは言うや否や、彼女の唇にヒゲで覆われた唇を重ねる。ぬるりとした感触が、マリアの小さな口の中に侵入した。

 リッツは嬉々として、マリアの制服のズボンのベルトに手をかけた。必死になって抑えようとする女の華奢な手を、今度はフランソルが押さえ込む。

「みなさん、酒が入りすぎてますよ」

 フランソルは呆れながらも、頭の中でどう収集させようか考えていた。

 もう、彼らには火がついてしまっている。

 こうなると、自分が言って止められるような男たちではない。

 そしてフランソル自身も、若かりし頃の血が騒いでいる。

 国家統一戦争のさなかでは、捕虜になった女兵士の口を割らせるため、こんな方法をとったものだ。

 もっともこの女は捕虜では無く、上官だが。

(上官……ね)

 フランソルは鼻で笑った。

「すみません、すぐ済みますから」

 軽い調子で言ってみたフランソルだが、すぐに済むとは思えなかった。

 四人が彼女を一巡するにはだいぶかかる。四人とも、アーヴァインの部下だけあって、一巡で満足するとも思えなかったし。

 ついには下穿きまでも膝まで下げられ、マリアの食いしばっていた歯の間から、嗚咽が漏れる。

 マリアには、彼らの情欲がしたたりそうな瞳の奥にある、侮蔑の色に覚えがあった。






(こんなこともう終わりだと思っていたのに)


 十二歳で全寮制の士官学校幼年部に入校してすぐ、同じ部屋の女性徒たちにはめられた。

 マリアが蔑まれるべき存在だったからだ。

 その五年前に、失敗に終わったクーデターがあった。

 議会に赴いた皇帝が、陸軍の一部の人間に襲撃され一時拘束状態になるも、水軍の力で革命は阻止されたのだ。

 が、その出来事は水軍の権力を増長させるに充分な事件だった。

 

 マリアは曰くつきの皇族だった。皇帝の弟である公爵家の娘と言うだけでなく、実の父親は皇帝ニコロス四世なのである。

 しかしクーデターの際、ニコロス四世の二番目の妃でありマリアの母親であるオフィリアが、軍を手引きした裏切り者として処刑されている。

 マリアはその三年後、ミハイロヴィッチ家から王弟夫妻のヴェルヘルム公爵家に、養女に出されていた。


 そんな陰のある生い立ちで、皇帝の後ろ盾も持たずして軍属に入ったマリアは、士官候補生たちから残酷な洗礼を受けた。

 女子寮の彼女の部屋になだれ込んだ少年たちは、一晩中マリアを犯したのである。

 王妃オフィリアに似て美しい少女だったマリアを、辱めたいと願う生徒はたくさんいた。

 そこには今まで圧政を強いてきた皇帝への、不満や恨みがこめられていた。むしろ皇帝の威光は、彼女を害するものだった。

 マリアの母親の罪は重く、娘も一緒に処刑されるであろうという噂が一時流れたからだ。

 それほど皇帝から憎まれ、ミハイロヴィッチの一族から籍を外されたことを、皆知っていた。

――この娘には何をしても許される。

 マリアはスケープゴートだった。

 大っぴらに皇族に怒りをぶつけることは、まだ時勢が許さない。人々はニコロスを敬うふりをしながらも、その血を憎んでいた。

 一晩で何人上に乗られたか分からない。まるで地獄だった。

 たいしたことじゃない。

 今まで、もっとひどい目にあってきたじゃない。

 それに士官学校を出れば、もう二度とこんなことは起きない。こんな目には遭わない。そう言い聞かせて、マリアは矜持と正気を保った。


――いいか、自分に芯があれば、どんな状況にだって耐えられるはずだ――


(そうよ、私にはやるべきことがある。こんなことは何でもない)


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