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序章

とある不遇の少女

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「大声を出すなよ」


 暗闇の中、いくつも伸びる手が少女を押さえつける。

 大声を出すな、と言われるまでも無い。口どころか鼻まで手で覆われ、窒息しそうになっているのだから。

 十二歳になったばかりの小さな乳房。それを無慈悲にまさぐる手は冷たく、同じ人間のものとは思えなかった。荒い息が顔にかかり、少女に過去を思いださせる。


(もっとひどいことがあったわ)



――やっぱりおまえはあの女と同じ、淫売だ――



 大きく足を開かされ、一番年長の少年が硬いものを突き立てたとたん、少女はその痛みで現実に引き戻された。

 強張った身体を仰け反らせたが、泣くのは何とか我慢した。相手を喜ばせるだけだから。


(大丈夫。これくらい耐えられる。大丈夫)


 呪文のように心の中で繰り返す。

 自分に芯があれば、どんな状況にだって耐えられる。


 あの人・ ・ ・はそう言っていたじゃない。


「生意気な女め。そいつを起こせ。口を開けさせろ」


 別の少年の声が狭い部屋に響き、少女は硬く目をつぶった。

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