上 下
22 / 57
第四章

ロウコ、わがままを言う

しおりを挟む


 パッチラ族の酋長からの伝言で、引き続き、ミンチはこのまま中部と南部の境界──漠然としてはいるが──まで偵察に行くこととなった。

 東部と協定を結んだところで、南部の様子を探る使命は変らない。

 会談に臨んだナシュカ族の働きで、東部と南部の白人は別の部族である、という認識がやっと森林部族にもできたくらいだ。

 白人どもが南海岸から上陸し、原住民の殺戮とともに北上してきていることは、東部の白人と協定を結んだ今も変わらない。

 ミンチがジャイアン族の件でも確信したように、確実に、部族の移動が起こっていて、それは今も森林部族の脅威であった。

「少なくとも、七つの植民地の代表であるライカヴァージニア総督は、原住民との共存を望んでいる。よそ者が何をいうか、と笑うなミンチ。ナシュカ族を初め、東部部族の扱いを見たら分かるだろう。お互い尊重しあっている。文化の融和もしかり。もちろん、互いに譲れぬところはあるだろうけどね」

 リンファオはチチンカの言葉を、このパッチラの先住民に伝えた。

「あとね、南に入り込んでいる白人の進みは、東部の連中も調べてきてほしいんだって。特に南海岸から上陸して来ているコロンディア勢力の。何でも、人口が増え続けていて、バカっ広い農園を作るのに土地を開墾しまくってるらしいよ。先住民や零細農家の白人を迫害しながら」
「ココ、コロンディア?」

 リンファオは、ミンチの混乱した顔を見て気づく。

「まあ、あなたにとっては、白人なんてみんな一緒に見えるか。大丈夫、こっちの軍からも南部に諜報員を送ってあるから。ミンチは南部の先住民の様子を探ってきて。どれくらい減っているか気になるんだって」

 と、すまなそうに呟き、ナシュカ族から預かった地図をミンチに手渡すと、砦に帰ろうとした。──ロウコを促して。

「森の開拓は諦めて、もうナシュカ族の戦士たちは中西部に向かう。あの悪路を軍隊はまだ移動できないから、身軽なお前もいけってさ、ロウコ。流通経路を確保することは、森林部族に認めてもらった。荒野のトレイル上に、次の砦を築くんだ。ロウコ、パッチラを含む森のやつらとは和睦が結べたが、怖いのはパッチラだけじゃないんだ。西部に行くにつれ、どんな部族が居るか分からない。砦の警護に戻るか、チチンカたちに同行して開拓者たちを守れ」
「嫌だ」

 即答して断るロウコ。

「はぁ?」

 自分の周りにはわがままばっかりか!

「俺はマンチラに会いにいく。案内しろ、パッチラの女」

 今度はミンチが目を丸くする。

「マッチラでし。──残念デシが、住処はワカラぬでし。デシが、南西部のドコカにあると聞いていマシ」

 そして少し考え込む。

 ……ロウコともっと一緒にいたい。

「でも、まあ大体どのあたりか目星はついてるデシ。一緒についてくるデシ」

 ロウコは頷いた。リンファオが動揺する。

「おい、勝手に決めないでって。開拓者たちの用心棒で連れてこられたんだよ? 船上で、海賊化した逃亡奴隷が襲ってきた時だってぜんぜん手伝わなかったし、いいかげんにしなよ。それにパッチラが森の砦を見守るって申し出てくれたけれど、まだ信用出来ないじゃないか」
「パッチラ嘘つかない」

 ミンチは片手を向けて、ハオと言った。

「酋長が白人どもの砦守ると言ったら、それ本当デシね」
「だけど──」
「南部は、確かにキナ臭い」

 ミンチは南に目を向ける。リンファオとロウコもだ。しかし、そこにはマーブル状の赤茶の起伏の岩山と渓谷が広がるだけで、何も見えなかった。

 ただ、なんとなく、不穏なものを感じるのは確かだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界

レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。 毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、 お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。 そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。 お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。 でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。 でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...