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第四章
ロウコ、わがままを言う
しおりを挟むパッチラ族の酋長からの伝言で、引き続き、ミンチはこのまま中部と南部の境界──漠然としてはいるが──まで偵察に行くこととなった。
東部と協定を結んだところで、南部の様子を探る使命は変らない。
会談に臨んだナシュカ族の働きで、東部と南部の白人は別の部族である、という認識がやっと森林部族にもできたくらいだ。
白人どもが南海岸から上陸し、原住民の殺戮とともに北上してきていることは、東部の白人と協定を結んだ今も変わらない。
ミンチがジャイアン族の件でも確信したように、確実に、部族の移動が起こっていて、それは今も森林部族の脅威であった。
「少なくとも、七つの植民地の代表であるライカヴァージニア総督は、原住民との共存を望んでいる。よそ者が何をいうか、と笑うなミンチ。ナシュカ族を初め、東部部族の扱いを見たら分かるだろう。お互い尊重しあっている。文化の融和もしかり。もちろん、互いに譲れぬところはあるだろうけどね」
リンファオはチチンカの言葉を、このパッチラの先住民に伝えた。
「あとね、南に入り込んでいる白人の進みは、東部の連中も調べてきてほしいんだって。特に南海岸から上陸して来ているコロンディア勢力の。何でも、人口が増え続けていて、バカっ広い農園を作るのに土地を開墾しまくってるらしいよ。先住民や零細農家の白人を迫害しながら」
「ココ、コロンディア?」
リンファオは、ミンチの混乱した顔を見て気づく。
「まあ、あなたにとっては、白人なんてみんな一緒に見えるか。大丈夫、こっちの軍からも南部に諜報員を送ってあるから。ミンチは南部の先住民の様子を探ってきて。どれくらい減っているか気になるんだって」
と、すまなそうに呟き、ナシュカ族から預かった地図をミンチに手渡すと、砦に帰ろうとした。──ロウコを促して。
「森の開拓は諦めて、もうナシュカ族の戦士たちは中西部に向かう。あの悪路を軍隊はまだ移動できないから、身軽なお前もいけってさ、ロウコ。流通経路を確保することは、森林部族に認めてもらった。荒野のトレイル上に、次の砦を築くんだ。ロウコ、パッチラを含む森のやつらとは和睦が結べたが、怖いのはパッチラだけじゃないんだ。西部に行くにつれ、どんな部族が居るか分からない。砦の警護に戻るか、チチンカたちに同行して開拓者たちを守れ」
「嫌だ」
即答して断るロウコ。
「はぁ?」
自分の周りにはわがままばっかりか!
「俺はマンチラに会いにいく。案内しろ、パッチラの女」
今度はミンチが目を丸くする。
「マッチラでし。──残念デシが、住処はワカラぬでし。デシが、南西部のドコカにあると聞いていマシ」
そして少し考え込む。
……ロウコともっと一緒にいたい。
「でも、まあ大体どのあたりか目星はついてるデシ。一緒についてくるデシ」
ロウコは頷いた。リンファオが動揺する。
「おい、勝手に決めないでって。開拓者たちの用心棒で連れてこられたんだよ? 船上で、海賊化した逃亡奴隷が襲ってきた時だってぜんぜん手伝わなかったし、いいかげんにしなよ。それにパッチラが森の砦を見守るって申し出てくれたけれど、まだ信用出来ないじゃないか」
「パッチラ嘘つかない」
ミンチは片手を向けて、ハオと言った。
「酋長が白人どもの砦守ると言ったら、それ本当デシね」
「だけど──」
「南部は、確かにキナ臭い」
ミンチは南に目を向ける。リンファオとロウコもだ。しかし、そこにはマーブル状の赤茶の起伏の岩山と渓谷が広がるだけで、何も見えなかった。
ただ、なんとなく、不穏なものを感じるのは確かだった。
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