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第二章

チチンカの屈辱

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 ロウコは呆然とした。

 あの一瞬で何があった?

 野営地には、ナシュカ族の男たちが血まみれで倒れていた。あちこち切り刻まれ服を裂かれている。

 チチンカ・パイパイを見つけると、その身を起こして揺すぶった。

「何があった?」
「う……」

 チチンカが目を開けた。

 ロウコの底光りする紫の瞳から、辛そうに目をそらす。

「こんな無様な私を見ないでください。腰を……覆ってください」

 そう言えば、衣服の中でもズボンの損傷が一番酷い。ビリビリに裂かれ、乱暴に剥ぎ取られている。

 筋肉質の太腿から尻までが、むき出しだ。

「パンチラ族か!?」

 チチンカは、目を閉じた。その目尻から涙が滑り落ちる。

「辱められた。こんな無様な我々を見ないで欲しい。あの者たちは見境がない。だが、貴方は特に美しいから……気をつけて」

 ……ケツ処女を奪われたということか。

 大して興味もないが、一応形だけでも同情はしてやった。

「大丈夫だ。貴様は無様などではない」

 なるほど、そう言えば砦から妻を連れ去られた開拓者たちも、皆屈辱に打ち震えていた。

 妻を奪われたことに対する憤りではなく、おそらくケツを奪われたことへの──。

「ケツなどくれてやれ、男の尊厳はそんなことでは奪えぬ」

 この男、性格のわりにけっこういいことを言う。チチンカが目を見開く。

「俺が復讐してきてやる。パンチラ族のケツの穴に神剣をぶっ刺してくる。だから安らかに眠れ」

 チチンカは何か小さく囁く。ロウコが口元に耳を近づけた。

「なんだ? もっと大きい声で言え」
「…パッ…パッチラ族で……す。あと、致命傷では無いので勝手に殺さないで──」

 ガクッと意識を失うチチンカ。

 他の戦士たちも昏倒させられている。殴り倒されたのだろうか。全員生気はあり、殺されてはいないようだった。

 それにしても、皆が皆、ズボンを剥ぎ取られたり破き取られたり──。

 やたら服装を気にする男たちだったので、これは激怒するのではないか? そんなどうでもいいことがふと浮かんだが、すぐに首を振り、リンファオを探した。

 しかし、彼女はいなかった。

 と、いうか、土蜘蛛の『気』の気配もまったく感じられない。奴らを追ったのだろうか……。

 しかし、焚き火の光に照らされた地面の上に、ある物を見つけ凍りつく。

「拐われたのか? あの小娘が?」

 地に打ち捨てられるように転がっていたのは、土蜘蛛の面と、ひと振りの神剣。

 ──血まみれの『不死鳥』だった。


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