上 下
29 / 57

血痕(ユベール視点)

しおりを挟む
 俺は、ちょっとだけ悲しかった。

 アリスという人間を分かっていたはずなのに。

 まあ最初はな、どうせ家から何かちょろまかして逃げていくんだろ、くらいに思っていた。

 使用人らに貴重品に注意しておくよう言いおいて。

 多少被害を受けても、アイツを追い払えるならいいかな、くらい思っていた。

 それが、多少サボりはしていたが、意外にも真面目に働いてたからさ……。

 心を入れ替えたのかと思ったんだ。


「に、しても……あいつに貴金属を漁る時間なんてあったか?」

 ティーパーティーの間はトレイを持って、行ったりきたりしてたし、紳士淑女がボチボチ夜会服への着替えに移る時間は、貴公子が俺に勧めた酒をかっくらい、執事につまみ出されたところだ。

 あの後薬が効いていたなら、盗む暇無くね?

 念の為、俺はアリスが寝ていた空き部屋を探してみた。

 ここに隠したのかもしれない。

 しかし部屋に入ると、まだ濃密な性の香りが漂っているような気がして、俺は赤面した。

 あいつ、エロかったな。

 ……。

 いやいやいや!

 後で性病の検査しなきゃ! 梅毒とか持っていたら洒落にならないぞ。

 俺はソワソワしながら、アリスに被せたキルトを剥いだ。

 ビッグダイヤと言うくらいだから、鶏の卵くらいでかいのだろう。

 子供用ベッドのマットレスを剥ごうとしたその時、手が止まった。

 点々と、白いシーツに赤い斑点が散っている。

 俺は目を見開いてシーツを握りしめ、棒立ちになる。

 あれ?

 ……あれれ?


 俺は処女とはやったことがない。

 だって素人童貞だから。

 ノエルとやることしか考えておらず、ひたすら彼女のために腕を(?)磨いていたから、玄人しか──娼館でくらいしか、経験がないんだ。

 でもこれって、あれじゃないのか?

 破瓜の血ってやつじゃないのか?

 アリスが?

 まさか。

 アリスだぜ?

 金づると見たらベタベタしてくる、分かりやすいカマトト淫乱女だぜ?

 俺は必死で否定した。

「いやいや、鼻血だろう。それか、吹き出物の瘡蓋でも剥がれたんだ。うん、そうに違いない」

 
 ただ……。


 俺はちょっと先入観に囚われすぎてないか?

 アリスと言う学園時代の悪党を、色眼鏡を通して見てなかったか?

 俺はしばらく考え込み、やがて拳を握りしめて、その部屋を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落令嬢は旦那様のメス犬になりたい

世界のボボ誤字王
恋愛
突然の政変。 生活一変の令嬢クラリス。 領民の暴動で襲われかけたところを、軍人の夫に助け出される。 しかし、多忙故に結婚後も妻を顧みなかった夫は、クラリスの顔すら忘れてしまっていた。 しかも、心に誰か別の女性が居座っているようだ。 「ラブラブな新婚生活も無かったのに、離婚なんてイヤよぉ」 クラリスは旦那様を振り向かせることができるのか。 ※「断罪の皇女は~」に出てきた四艦長の一人がヒーローですが、単体でいけるはず(σ゚∀゚)σ 今度は輪姦無いYO 、ほんとだYO !(焦)

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

身代わり王女の受難~死に損なったら、イケメン屋敷のメイドになりました~

茂栖 もす
恋愛
とある世界のとある国……じゃなかった、アスラリア国でお城のメイドとして働いていた私スラリスは、幼少の頃、王女様に少しだけ似ているという理由だけで、身代わりの王女にされてしまった。 しかも、身代わりになったのは、国が滅亡する直前。そして餞別にと手渡されたのは、短剣と毒。……え?これのどちらかで自害しろってことですか!? 誰もいなくなった王城で狼狽する私だったけど、一人の騎士に救い出されたのだ。 あー良かった、これでハッピーエンド……とはいかず、これがこの物語の始まりだった。 身代わりの王女として救い出された私はそれから色々受難が続くことに。それでも、めげずに頑張るのは、それなりの理由がありました。

その声は媚薬

江上蒼羽
恋愛
27歳、彼氏ナシ。 仕事と家を往復するだけの退屈な日常を潤してくれるのは、低くて甘い癒しのボイス。 短編の予定。 途中15禁のような表現があるかもしれません。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

バグ発見~モブキャラの私にレベルキャップが存在しなかった~

リコピン
恋愛
前世の記憶を持ちながら、「愛と冒険」の乙女ゲームの世界に転生したミア。モブキャラなことを自覚して一人ダンジョンに挑む日々。そこで出会ったのは、ゲーム主人公でも攻略対象者達でもなく、一番馴染み深いキャラ、ブレンだった。 ひたすら強さを求めるブレンの姿にミアの中に生まれた感情。溢れる衝動が、彼女を突き動かす。 彼女が彼に求めたもの。彼が彼女に求めるもの。 歪な形で始まった二人の関係は、歪なままに育っていく― ※序章、前編6話、後編5話、終章くらいの予定です  (1話は書けた分からアップするので、1-1,1-2のように分割になります) ※R15は残酷描写(人を奴隷扱いする)が含まれるためです ※結果的に「ざまぁ」になる人が居るので大団円ではありません。お気をつけ下さい。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

処理中です...