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痴態(ユベール視点)

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 扉を開けると、腰を抜かすかと思った。

 アリスがピンク色に上気した顔で、半分お仕着せを脱ぎ、悩ましげな喘ぎ声をあげながら、身をくねらせていたからだ。

「な、何やってるんだよ」

 アリスは俺の声に気づき、ハッと目を見開いた。

 しかし直ぐに目をつぶると、ビクビクと動く腰を押さえつけるように全身を抱きしめる。

 そして、掠れた声で何か必死に訴えている。

「なに?」

 目のやり場に困って顔を逸らしながら、耳を近づける。すると、ガシッとクラバットを掴まれ、引きずり寄せられた。

 激しく口を吸われる。思考がフリーズした。

 柔らかく、甘い唇に思わず応えそうになってから、我に返る。

「よせ!」

 とっさに突き飛ばしていた。

 「俺は、お前がどんな女か知ってるんだぜ? そんなことしたって──」

 アリスは一瞬、絶望の響きのある苦鳴を喉の奥から絞り出した。

 モノ欲しげな潤んだ瞳が、俺を絡めとる。

 濡れた唇が開き、悩ましい息遣いを繰り返すアリス。俺はついついそれに見とれてしまう。

 エプロンからはみ出た白い肉。ピンクの尖端が尖りきっていて卑猥だ。吸い付いて欲しそうに誘ってくる。

 捲れ上がった黒のワンピースから伸びた、白のストッキングに包まれた脚は、生肌部分の太ももまで──いや、尻まで丸見えだ。

 パンツはどうした?

 ごくっと喉が鳴った。

「お前──」

 まだ誘惑しようってのか? 解雇されそうだから、色仕掛け? なんか、ぜんぜん学園時代と変わってないな。

 俺はアリスを軽蔑しつつ、股間がおっ勃つ自分のことも軽蔑した。

 まあ、遊びだし。相手が望んでいるし。変な要求は、はねのければいいんだ。

 だったら、別にのってやっても……。

「出ていって」
「……え?」

 予想に反して拒絶の言葉。

「見ないで!」

 怒りながら、エプロンからはみ出た二つの塊を揉みしだき始めた。

「あっち行きなさいよ! でないと、私──」

 ひんひん泣きだしたのを見て、どう考えても異常だと思った。

 俺はハッと思い当たる。

「あいつが勧めてきたカクテルか! やっぱあんちきしょう、変な薬盛ってやがったな!」

 スカートの中に手を入れて動かしていたアリス。

 クチャクチャと言う淫猥な水音に、むぜび泣く声が混じり、俺は哀れになってしまった。

 慌ててジャケットを脱ぎ、アリスを包んで抱き上げた。扉に鍵をかけ、部屋を見渡す。

 荷物が乗っていて、白いシーツが被せてある台を見つける。

 足で払い除けた。子供用のベッドだが小柄なアリスなら大丈夫だ。

「水持ってくる。胃袋を薄めろ」
「行かないで!」

 悲鳴混じりの涙声に、俺は足を止める。こんな声を出して懇願していたのは、俺だったかもしれないのか? あいつらに?

 改めて背筋が寒くなった。

「出てって、見ないで」

 どっちだよ。

 フワッと甘い匂いがした。

 目線を下げると、捲れ上がったスカートの太腿から垂れてくる愛液に気づいた。

 やっぱ異常だ。

 でも、たまらなく魅力的だった。

「どうにかして、ユベール君」
「え?」

 しがみついてきた。

「助けて」

 俺は首を振る。

 関わっちゃいけない気がした。

「む、無理だよ」
「謝るから! 今までのこと全部!」

 涙でグシャグシャだ。俺は別にそこまでのことされてないぞ?

「ごめんなさい、ハルくん、ごめんなさい」

 だれ?

「お願いします、おじ様、ぶち込んでください。楽にしてください、何でもします、叩かないで、気持ちよくして」

 熱に浮かされたように呟いている。おじ様???

 俺はゾッとした。一瞬彼女の身の上に思いを馳せそうになった。

 だめだ。闇を見たらだめだ。深淵をのぞく時深淵もナンチャラって聞いたことあるだろ?

 過去など知ったらまずい。同情などしてはだめだ。

 責任持てないのに、彼女をこちら側に入れてはいけない。

 俺には支えきれないって、そんな気がするんだ。

 でも、アルコールが入っている頭に、彼女の誘惑に耐えるだけの理性は残っていなかった。
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