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こわっ(ユベール視点)
しおりを挟む俺はムカムカしていた。親父め、むかしの同級生とか呼ぶなよ。
げっそりしてしまう。
いや、女子はいいんだぜ? 言ってないから事情を知らないんだよな。しょうがないんだけどさ。
元々食が細かったからさ、俺、中等科はほっそりしていたわけよ。さらにはこの母親似の顔がえらく男子校で受けて、アイドル扱いだった。
女ってなんでボーイズラブに萌えるの? 俺は百合なんて萌えないけどな。
まー、人によるのか。
この傲慢不遜な俺が唯一後悔してること。ノエルに強引にチューしたことだ。
自分がされて嫌だったことを、他人にやるのは間違ってるよな……。
え? チューされたのかって?
言いたくなかったけど、そうだよ! 男ってのはなー、イケメンに見えても、割とヒゲがざりざりしてんだぜ?
……。
思い出したくない。
ノエルもこんな気持ちなんだろうな。俺は頬っぺツルツルだけどさ。
……俺、自分は男だって、思いたかったんだ。好きな子に、俺は男だって分からせたかった。
たくさん鍛えて、強引に迫って、男臭さをムンムンさせたかった。臭い男ではなく、男臭くなりたかったんだ。
分かってるさ、間違っていたよ。
あいつらが近づいてきた時、俺は女みたいに怯えた。
男の俺すら怖かったんだ、ノエルも、怖かったろうな。
俺が助けに入る前に、既にベルトラン様に迫られていたから。本当に怖かったろうな。
なのに攻撃魔法をぶっぱなさないなんて、なんて優しい娘なんだ。
だから今度は、ちゃんとした俺を見て欲しかった。それなのに……希望は潰えてしまった。
「久しぶり」
おずおず笑いかけてきたのは、バルテレミー侯爵家のマッスル。ガストンだ。フロックコートはパッツパツ、縦も横も俺より一回りデカい。
それからおっとりしたデュボワ伯爵家嫡男ガブリエル。こいつはたぶん、俺に掘って欲しかったんだ。
で、やっかいなのは、先の戦争で当主を無くしたマスカーキ準公爵家の若き当主、ジャコブだ。間違った、マスカール準公爵だった。
なんか学園時代で麻痺しちまったけど、王立学院の奴らの権力は基本的にめちゃ強い。そして気位の高さも段違い。
編入して、ベルトラン様が気さくだったから驚いた。嫡男じゃないにしても、公爵家の令息であれは有り得ない。
こいつら学院生は嫡男だから魔力も強い。さらに貴族の子息の務めで、もちろん鍛えられているわけ。
いやさ、そんなだから力ずくで犯られたらヤバい、っていう恐怖もあるよ。
それプラス序列があるわけよ。
王家がいい例だが、ずっと魔力持ちが続いている一族ってのは一定数いる。
だいたいそういう家門が今の高位貴族なわけだ。古ければ古いほど権力がある。
彼らには、今のところ魔力持ちが生まれている。
配偶者を選ぶのが上手いのか、はたまた遺伝的な強さなのか、卒論の研究議題にあげている者もいるくらい。
あの人たち、魔力が強すぎて後継者ができない、とか騒いでるけど、じっさい魔力持ちが生まれず、爵位や領地を引き継げなかった家門なんて、母数を見るとひと握りなんだ。
確かに生まれる子供の数は減っている。うちは多い方だった。そのせいで母は早世したんじゃないかな。
泣くから親父には言わないけどさ。
しかし少子化傾向でも、けっきょくノエルにも魔力持ちが生まれたし、たぶんベルトラン様の兄貴にだって、強力な後継者が生まれると思う。
……。
話が逸れたじゃねーか。
困ったことに高位貴族ってのは、ノエルやベルトラン様みたいな、?気持ちのいい奴ばかりじゃない。中にはクソもいる。
予算を強引に他に回そうと圧をかけてくる議員とかさ。
こいつらもだ。お前ら、男は子が産めないの分かってる!? 貴族にあるまじき趣味だよ!?
もう男色こじらせて、断絶しちまえ!
こいつらは、明らかに権力で下の人間を潰そうとする類だ。
分かるさ。俺もそういうところがあるからな。
さらに悪いのは、俺が男の沽券にかけて、おホモだちにされそうだってことをばらさないと知っているところだ。股間に何されても、沽券にかけて黙りを決め込むと。
すげー、股間と沽券、よく間違えないで言えたよな。
いや、今はそんなくだらない事で悦に入ってる場合じゃない。
目の前の薔薇族だ。どうにかして、彼らが気分を害さないよう逃れるのだ。
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