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第七章
ナーフィウ悩む
しおりを挟む「まさか、NTRが趣味だったとはな……」
ゲルクが、ふん縛ったサルヴァトーレを連行しながら、ボソッと呟いた。
カティラはカンカンに怒っている。
幼なじみの壮大な野望──思い出のレトローシア島で最愛のカティラを色んな男に姦させる──のせいで、さんざんアカリア人奴隷に、あんなことやこんなことをされてしまった。
「まあ、多感な時期に、性奴にされたんだ。性癖が変なことになるのも仕方ないんじゃないかな……ごめんなさい嘘ですこいつサイテーの変態です」
カティラに視線で殺されるほど睨まれて、ジョルジェは慌てて謝った。
「ところで、こいつは帝国……じゃねえ、共和制? アリビア軍に任せるとして、うちの船長はどうなってんだ?」
ゲルクの言葉に、ジョルジェは渋い顔をした。
「治療中だけど、命は取り留めたってミシュターロ少将が……。少し、時間をくれって言ってた」
ハサンが寂しげに呟く。
「処刑はされないって言ってやしたけどね。もう白波の船長としては、戻ってこないかもしれやせん」
「冗談じゃないわっ」
カティラが毒づく。
「まだ何の仕事もしてないのよ。そんな無責任なこと許されない」
ゲルクが片眉をあげる。
「おまえが船長に名乗りをあげると思ったけど」
「嫌よ、そんなの。船を寝取るような真似したくないわ」
寝取るという言葉に、オルセーヌ伯がピクっと顔を上げた。鼻に詰めたティシュが痛々しい。
「つまり、寝取られたカティラにさらに寝取られる女が居るってことですか!?」
「あんたは黙ってなっ!!」
カティラが怒鳴りつける。
しかしサルヴァトーレは、愛する女に怒鳴られゴミを見るような目で見られるのもツボに入るオールマイティな変態だったようだ。
目をつぶって、また天井に顔を向けた。
「ああ……いいっ」
※ ※ ※ ※ ※ ※
ちょうどその頃ウォルト・マリアッチは、ナーフィウを連れて神殿に向かい、やっと売り物である少女たちを見つけ出すことが出来た。
あの風の唸り声のようなものが一段と高くなっていて、最初は警戒しながら探索をしていたのだが……。
唸り声の正体はすぐに分かった。
喘ぎ声だったのだ。
「まあ……その……元気出したら?」
ナーフィウがウォルトを慰める。
嬌声を上げながら、バカでかい男の上に跨り、腰を振っていたアンリエッタを見つけたからだ。
灰のように真っ白になるウォルトと、気遣わしげに彼を支えるナーフィウを見つけ、ジェシカ以下少女たちが泣きながら走り寄ってきた。
「あの巨人、総督府の関係者だったみたいなの。でも、ずっと閉じ込められていて……。ここから出してって。外に出してって。だから、出してあげようとしたら──」
「その先は言わなくていい」
ウォルトは、こちらも涙目で首を振りながら言った。
「アンリエッタが外に出してあげると言ったら、それはその──ザーメンのこと以外有り得ないんだ」
ジェシカがやはり、彼を気遣った言葉を口にする。
「でもね、アンリエッタさん、巨人の割に小さい。馬並みなんて嘘だわ、って言ってました。これならウォルトとやってやったっていいかもって」
「それで俺を慰めたつもりか?」
ついにむせび泣きしだしたウォルトを放っておいて、ナーフィウが少女たちを遺跡の出口に導いた。
アンリエッタはとりあえず満足するまで止めないだろう。
粗チンの巨人は特に害が無さそうだし、とりあえず、ウラジーミルが心配しているから早く合流しなければ。
外に出ると、陽は沈みかけていた。しかし暗闇から出た一同には眩しいくらいだった。
「殿下」
港に降りていく階段で声をかけられる。振り返ると、ナーフィウのすぐ右後ろに、ファティマが居た。
「大丈夫かよ? 色々その……酷いことされたんだろ?」
ところどころ破かれた服を目にして、歩みを止めることなく低い声で言う。
ファティマはちょっと胸元を直しながら、恥ずかしそうに俯いた。それからまたパッと顔をあげた。
「こんなこと、故郷の民のことを思えば平気です。──殿下」
「なんだよ……ていうか、殿下じゃないってば」
強く言われて、渋々足を止めた。
「国にお戻りください」
ナーフィウが目を見張る。
「冗談だろ? 何で俺が」
「義務があります。王家に生まれた義務です」
ナーフィウが笑う。
「王家じゃない。俺は奴隷だ」
「殿下」
ファティマは縋るように続けた。
「内乱を平定できるのは貴方だけです。お願いします」
ナーフィウは黙った。
これ以上、ごまかすのは卑怯な気がしたからだ。
父王亡き後、政が乱れ、族長や大臣同士で足の引っ張り合いをしているというが……。
あの国の民は家臣から奴隷まで、完全にウル王家の血筋を、神からの授かりものだと信じ込んでいる。
ちょうど、リガルドたち国教会騎士団の連中がそうであったように。
胸に痛みが走った。
王家の一員としては扱われなかったが、父や兄、あの者たちの尻拭いをすべきなのではないか。
民に罪はない。何か、自分にできることがあるのではないか?
「俺は……」
「タンマーム殿下瓜二つの貴方であれば、国民はひれ伏します。あの強欲な者たちが、唯一無条件に認めるのが、王家の血統なのです」
血筋……そんなもの、神とその教えと、いっさい何の関係もない。
それは本人が一番わかっている。王家は──あいつらは、クズで外道のただの人間。
だけど……。
国民が信じているのなら、それを利用して国を治めるのも、国の安寧のためなのではないか。
ナーフィウは拳をグッと握り締めた。
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