上 下
55 / 58
第七章

ナーフィウ悩む

しおりを挟む


「まさか、NTRが趣味だったとはな……」

 ゲルクが、ふん縛ったサルヴァトーレを連行しながら、ボソッと呟いた。

 カティラはカンカンに怒っている。

 幼なじみの壮大な野望──思い出のレトローシア島で最愛のカティラを色んな男に姦させる──のせいで、さんざんアカリア人奴隷に、あんなことやこんなことをされてしまった。

「まあ、多感な時期に、性奴にされたんだ。性癖が変なことになるのも仕方ないんじゃないかな……ごめんなさい嘘ですこいつサイテーの変態です」

 カティラに視線で殺されるほど睨まれて、ジョルジェは慌てて謝った。

「ところで、こいつは帝国……じゃねえ、共和制? アリビア軍に任せるとして、うちの船長はどうなってんだ?」

 ゲルクの言葉に、ジョルジェは渋い顔をした。

「治療中だけど、命は取り留めたってミシュターロ少将が……。少し、時間をくれって言ってた」

 ハサンが寂しげに呟く。

「処刑はされないって言ってやしたけどね。もう白波の船長としては、戻ってこないかもしれやせん」
「冗談じゃないわっ」

 カティラが毒づく。

「まだ何の仕事もしてないのよ。そんな無責任なこと許されない」

 ゲルクが片眉をあげる。

「おまえが船長に名乗りをあげると思ったけど」
「嫌よ、そんなの。船を寝取るような真似したくないわ」

 寝取るという言葉に、オルセーヌ伯がピクっと顔を上げた。鼻に詰めたティシュが痛々しい。

「つまり、寝取られたカティラにさらに寝取られる女が居るってことですか!?」
「あんたは黙ってなっ!!」

 カティラが怒鳴りつける。

 しかしサルヴァトーレは、愛する女に怒鳴られゴミを見るような目で見られるのもツボに入るオールマイティな変態だったようだ。

 目をつぶって、また天井に顔を向けた。

「ああ……いいっ」




※ ※ ※ ※ ※ ※



 ちょうどその頃ウォルト・マリアッチは、ナーフィウを連れて神殿に向かい、やっと売り物である少女たちを見つけ出すことが出来た。

 あの風の唸り声のようなものが一段と高くなっていて、最初は警戒しながら探索をしていたのだが……。

 唸り声の正体はすぐに分かった。

 喘ぎ声だったのだ。



「まあ……その……元気出したら?」

 ナーフィウがウォルトを慰める。

 嬌声を上げながら、バカでかい男の上に跨り、腰を振っていたアンリエッタを見つけたからだ。

 灰のように真っ白になるウォルトと、気遣わしげに彼を支えるナーフィウを見つけ、ジェシカ以下少女たちが泣きながら走り寄ってきた。

「あの巨人、総督府の関係者だったみたいなの。でも、ずっと閉じ込められていて……。ここから出してって。外に出してって。だから、出してあげようとしたら──」
「その先は言わなくていい」

 ウォルトは、こちらも涙目で首を振りながら言った。

「アンリエッタが外に出してあげると言ったら、それはその──ザーメンのこと以外有り得ないんだ」

 ジェシカがやはり、彼を気遣った言葉を口にする。

「でもね、アンリエッタさん、巨人の割に小さい。馬並みなんて嘘だわ、って言ってました。これならウォルトとやってやったっていいかもって」
「それで俺を慰めたつもりか?」

 ついにむせび泣きしだしたウォルトを放っておいて、ナーフィウが少女たちを遺跡の出口に導いた。

 アンリエッタはとりあえず満足するまで止めないだろう。

 粗チンの巨人は特に害が無さそうだし、とりあえず、ウラジーミルが心配しているから早く合流しなければ。

 外に出ると、陽は沈みかけていた。しかし暗闇から出た一同には眩しいくらいだった。


「殿下」

 港に降りていく階段で声をかけられる。振り返ると、ナーフィウのすぐ右後ろに、ファティマが居た。

「大丈夫かよ? 色々その……酷いことされたんだろ?」

 ところどころ破かれた服を目にして、歩みを止めることなく低い声で言う。

 ファティマはちょっと胸元を直しながら、恥ずかしそうに俯いた。それからまたパッと顔をあげた。

「こんなこと、故郷の民のことを思えば平気です。──殿下」
「なんだよ……ていうか、殿下じゃないってば」

 強く言われて、渋々足を止めた。

「国にお戻りください」

 ナーフィウが目を見張る。

「冗談だろ? 何で俺が」
「義務があります。王家に生まれた義務です」

 ナーフィウが笑う。

「王家じゃない。俺は奴隷だ」
「殿下」

 ファティマは縋るように続けた。

「内乱を平定できるのは貴方だけです。お願いします」

 ナーフィウは黙った。

 これ以上、ごまかすのは卑怯な気がしたからだ。

 父王亡き後、政が乱れ、族長や大臣同士で足の引っ張り合いをしているというが……。

 あの国の民は家臣から奴隷まで、完全にウル王家の血筋を、神からの授かりものだと信じ込んでいる。

 ちょうど、リガルドたち国教会騎士団の連中がそうであったように。

 胸に痛みが走った。

 王家の一員としては扱われなかったが、父や兄、あの者たちの尻拭いをすべきなのではないか。

 民に罪はない。何か、自分にできることがあるのではないか?

「俺は……」
「タンマーム殿下瓜二つの貴方であれば、国民はひれ伏します。あの強欲な者たちが、唯一無条件に認めるのが、王家の血統なのです」

 血筋……そんなもの、神とその教えと、いっさい何の関係もない。

 それは本人が一番わかっている。王家は──あいつらは、クズで外道のただの人間。

 だけど……。

 国民が信じているのなら、それを利用して国を治めるのも、国の安寧のためなのではないか。

 ナーフィウは拳をグッと握り締めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

涼子

詩織
恋愛
私の名前は涼子。高校3年生。 同じクラスには全く同じ字の涼子がいる。 もう1人の涼子は美人で成績優秀、みんなからの人気もの 彼女も私も同じ人を好きになってしまい…

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

処理中です...