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ハッピーエンド&ハッピーニューイヤー
しおりを挟む「子供が、欲しいんだ」
目元を拭っていたマリアが、その青い目を見開いた。
「俺と、お前のだ」
「で、でも──」
「おい」
恫喝するような低い声。マリアの肩がビクッとなり、アーヴァインは己の額を抑えた。
「ったく、俺はダメなオッサンだな」
マリアを怖がらせたくないのに、なんですぐこうやって脅してしまうのか。これではモラハラ夫じゃないか。
「前も言ったよな。お前との子が欲しいと」
マリアは俯く。彼女自身が一番疎ましく思っているのだ。己の血筋を。
二人はしばらく沈黙した。やがてアーヴァインは、ため息とともにゆっくり話し出した。
「皇帝の黄金の血など関係ない。お前の父親は、宰相も置かず議会も不要のワンマン独裁者だった。その魂は孤独だったんだ」
擁護するつもりはない。アーヴァインの家族や国民にだけじゃない。マリアにしてきたことを考えても、殺しても殺し足りない男であった。
だが──。
「お前の母である王妃オフィリアだけが、やつの心に触れられる唯一だった。彼女を失い気が触れたが、元は過激ではあっても賢帝だったんだ」
ミシェルとフランソルは激怒するかもしれないが、幼少時は若き皇帝の即位に熱狂したものだ。
「やつのやったことは許せることじゃない。だが、功績全てを否定はしない。だから──その血は恥じなくていい」
口を両手で覆うマリア。アーヴァインの目元が和む。
「それに、関係ねえな。マリアは、マリアだ」
窓の外が光った。ハッと二人とも外を見る。
ドン! という音。
「お、年が明けたな」
アーヴァインはレースのカーテンも開く。それから少し考えて立ち上がった。
自分のジャケットを、マリアのガウンの上からさらに羽織らせる。
「湯冷めするといかんから、ちょっとだけ」
呟いて、マリアをバルコニーに連れ出した。冬の澄んだ空気が肌を刺す。
だがマリアは目の前の光景に言葉を失っていた。
ちょうど巨大な花火が、連発で打ち上がったからだ。
「きれい」
圧巻だった。手すりに掴まり、身を乗り出す。
「本土のより打ち上げ数は少ないが。これもヘンリー・アターソンの置土産らしい。奴も西部から戻って来てるかもな、この東海岸に」
アリビア帝国きっての天才開発者及びアターソングループの総帥は、元々花火師になりたかったただのオタクである。だが天才をあの皇帝ニコロスが放っておくはずもなく──数奇な人生を送っていた。
やっと軍の力で亡命させたのだ。もちろん、今後は自分が利用させてもらうつもりだが。
ヘンリー・アターソンの妻は殺し屋で、皇帝の手先だったが、こちらも手駒にすることに成功した。
新大陸の開拓には、まだまだ彼らの力が必要だ。
しかし今日くらいは、家族水入らずで花火を楽しんでいるかもしれない。今の自分たちのように。
二人は、目線を花火から港町に下げる。港の中にまで人が溢れているのが上から見えた。今夜は夜通し騒ぐのだろうか。
「やっと、家族を呼び寄せることができた者たちも……居るでしょうね」
「東海岸に進出してきた資本家は、生活基盤が整ってきたからな。でもよ、西部にこれから向かう入植者たちは、一人の年越しで寂しかろう」
妻子を故郷の地に置いて、新天地に挑みにきた男たちも多い。
アーヴァインは、背後から華奢な体を抱きしめた。やはり冬の夜は冷える。清浄な空気に白い息が広がった。そう長くは外に居られない。
マリアの美しい顔を、打ちあがった花火の光が照らす。湯上りの頬は、まだほんのり赤い。
花火の合間に、教会の鐘の音が響いてきた。これも異国の文化の真似で除夜のナントカとか……。
「俺も寂しかった」
アーヴァインが不意に耳元でそう言い、マリアが驚いて振り仰ぐ。
貴方が? そう言おうとした時、唇に吸いつかれた。スープパスタの味がした。マリアは、たぶん自分もそうだろうとうろたえる。
歯磨きしてからキスをしたいのに──。
「もがくな」
アーヴァインは唇を離してそう命じた。彼の手が、ガウンごとシュミーズドレスを持ち上げる。
ひんやりした空気がすっと足元から入って来て、マリアは震えた。だが不思議と忍び込んできたアーヴァインの手は温かい。
「閣下……」
お尻まで剥き出しにされる。先ほどとは違い、白いレースの華奢な下着を用意されていたのだが、するっと降ろされた。
「手すりにつかまってろ」
ぬるり。背後からアーヴァインのジュニアが押し付けられる。ここでやるつもりなのか。マリアは思わず周囲を見渡した。
「大丈夫だ。この辺りじゃ一番高い建物だし、隣のフランソルは留守だ。真下は情報部の連中の部屋だが、ライカヴァージニア州に置いてきた。俺の代わりに」
「あ、あのでも、右下の部屋と左下の部屋が──」
花火の音と鐘の音の合間に、はしゃぐ声が聞こえてきた。
「知らん奴だろ、気にするな」
「あんっ──ちがっ」
ぬちゅぬちゅ太い物で擦られ、マリアの体が火照ってくる。
実は、同じ商船の部下たちに部屋を取ってやったのだ。花火が見えやすいように、ポケットマネーで一番いいホテルを奮発した。
しかし背後から回り込んだ無骨な手が胸を揉みしだいてきて、そんな説明をする余裕が無くなってしまう。
「ぁ……くっぁ……ぁっ」
柔らかい膨らみをごつごつした感触が撫でまわす。外気の冷たさも手伝って、すぐに布地を押し上げんばかりに乳首が尖ってしまった。自分でも分かるほど、甘い匂いが撒き散らされる。
「花火の音で聞こえねぇ、叫べよ」
尻の割れ目に押し付けられていた硬い物が、襞をかき分けてクンッと潜り込んだ。
(こんなに、大きかった?)
マリアは一瞬恐怖する。あまりに久々で、立ったまま受け入れられるか自信が無い。
ぬぷっ──亀頭が埋まった。圧迫されて、それだけでつま先立ちになりそうだ。
「おねがい、閣下、優しくはぁうぁぁぁあああ!」
ズンッと押し込められた。
「閣下じゃねーだろ?」
「あ、旦那さま──ぅぁあああっ」
ぞわぞわと鳥肌が立つ。これは寒さのせいではないだろう。
「まだ半分だぞ。ついでに名前で呼んでみろ」
マリアは涙目で首を振った。呼びたいのはやまやまだが。もう気持ち良すぎて──。
ずりりゅ……とせっかく埋まっていた部分が抜かれる。膣壁が擦れるたったそれだけの動きが脳天に直撃し、随喜の涙がハタハタとこぼれ落ちた。
「呼べ」
「あ、アーヴァインさ……ま」
ずぶずぶっ
「きゅぅううう」
ふっと逝きかけた。しかし気絶は許されない。すぐに引き抜かれ、また埋め込まれる。息が……止まりそう。
「なんだよ、きついな。ずっと入れておかないとすぐ締まっちゃうんだな」
さっき自分で出したので、アーヴァインは少しだけ余裕である。マリアは腰をガクガクさせている。
「もっとケツ突き出せよ」
ぐりぐりっとかき混ぜるようにして、マリアの内部を楽しむ。こんな締め上げ具合の女は、どこにもいなかった。ああ、たしか一人いたな。妻ナターリアと同じく、気の強い目をした女海賊が。
確かに自分は、元々は従順な女より気の強い女が好きだったのだろう。だけど、自分にだけはデレていて欲しい。
マリアは気高いと見せかけて卑屈で、毅然として強そうに見えながら、実は弱い。そのギャップが面白い。
何よりも、ちょっと病んでいるんじゃないか、と思えるくらいアーヴァインにベタ惚れだったのだ。
グイッと引っこ抜き、思い切り叩きつける。一度抜いていてもやはりだめだった。狂暴になってしまう。もっと貫きたくて、頭がおかしくなりそうだ。
ガツガツと飢えたようにマリアに穿ち続ける。尻を打つ音が、花火と共に冬の空に吸い込まれていく。
普通、殺そうとしていた男を愛し続けることなんて、できないだろう?
ばちゅん
処刑しようとしたんだぞ。
ばちゅんばちゅん
しかも一度だって優しい言葉をかけたことがないのに。
ばちゅんばちゅんばちゅん
それなのに何でおれのことがこんなに好きなんだ。
ばちゅんばちゅんばちゅんばちゅん
「あふっあふうっあふうっあうっ」
イキっぱなしだ。かわいそうに。下に部下がいるだって? 仕方ない。声を出さないよう、口を塞いでやろう。蕩けてる顔も見たいしな。
マリアの片足と背中を支え、グリンと反転させた。柔らかい体だな。
ジャケットもガウンも下に落としたマリアは、白い綿のドレスだけだった。肩にプラチナの髪を散らせ、闇の中に浮かび上がるその姿は、幻想的で、どこか女神を思わせる。
だが、下半身は繋がっているのだ。なんと淫靡な姿なのだろう。
アーヴァインは手すりにマリアを押し付け、シュミーズドレスの肩口を思い切り広げて押し下げてやった。白い膨らみを目の前に晒す。
やはり……。服の上からでも分かった。コチコチに尖っている。むしゃぶりつき、歯で挟んで可愛がってやる。
マリアはとろけきった声で叫び続けた。もう周囲を気にするような声量ではない。誰もが腰砕けになりそうな、聞いただけで達してしまいそうな艶っぽい声だった。
「やっだぁ、ジョルジェたち男性陣、なんで勃ってるのぉ?」
「え、おかしいな。花火で興奮してるのかな」
そんな声が風に載ってかすかに聞こえてきた。
ちがう、お前らは気づいてないが、耳に入り込んでいるんだ。マリアのおそろしく甘ったるい嬌声がな。
マリアが首に手を回してきたので、その口をすぐに塞いだ。己の唇で。下々のシモに聞かせるには、あまりにもったいない声だ。吐息一つとってもエロい。
全部俺のものだ。
その間も、ずっと腰は動いていた。ヘルツだけに、ヘルニアになりそうだ。二人とも燃え上がり、寒さなど感じない。やっと口内を堪能して唇を離すと、唾液の糸が引いた。
マリアが下に落下しないよう、しっかり支えながら腰を打ち付ける。
落ちても二人とも気づかないかもしれない。それほど二人とも快楽におぼれていた。
アーヴァインはそれでも、大事なことを口にした。ずっと言いたかったことだ。
「マリア」
「はんっぁぁあん」
「──辞めろよな」
荒い息とともにそう吐きだす。
「んっんっんっんっ──え?」
虚ろに紗のかかった青い目が、こちらに向けられた。一瞬、わずかに正気が戻る。
「仕事だよ。あの部下──軍人海賊もどきどもに全部譲れ」
マリアの目が見開かれる。
「え……でも始めたばかりなのに無責──ひやぁああん!!」
肉の芽を弾かれた。パタパタと愛液の滴る音。
「お前にはもっと重要な仕事がある」
ピンッ
マリアはガクガク頷きながら首を傾げる。あの冷たい怜悧な瞳はとろんと蕩けきっている。再びぎゅるんと締め付ける魔性の膣。
「あああっ、引き絞るなっ! くそっ、何度でも言うぞ、くっ──だめた──気持ちよすぎて──俺の子を産め‼」
やっとそれだけ言い、全ての欲望を解き放っていた。
マリアは崩れ落ちそうになったところをすくい上げられた。ぺちぺち頬を叩かれ、気絶せずにすんだようだ。
瞼を開けると、まだ獲物を狙うような目のままのアーヴァインが言った。
「ちゃんと夫婦になりたい。一生。よぼよぼになっても、家族として傍に居て欲しい」
妻まで激務だったら、いつでも抱けないじゃないか、というセリフは飲み込んだ。マリアは自分をただのオナホールだと思ってしまう傾向がある。だから今は言ってはいけない。
「頼む。俺の傍に居てくれ」
マリアはしばらく黙っていた。一緒に逃げてくれた部下たちと会社を立ち上げたばかりだ。去っていくのは無責任かもしれないが……だけど、頼もしい元海賊たちも居るではないか?
珍しい髪の色の賞金首だった二人も、今頃下の階で花火を見ていることだろう。
商船は、家のようなものだった。初めてできた、仲間たちだった。でも──。
「必要なんだ、マリアが」
アーヴァインの顔を見上げる。マリアは、白い手を持ち上げ、無精ひげの生えた割れた顎をなぞった。
こんな緊張した顔をさせているのだ、この自分が……海の英雄に。
明日話してみよう。大事な人の傍に居たいと……。みんなに気持ちを伝えよう。
マリアは花がほころぶように笑った。
「はい」
ケツ顎もその返事を聞き、ケツがほころぶように笑い返した。ほっとしたのだ。
その後室内に戻り、花火の音を聞きながら、何度も愛し合った二人だった。
※ ※ ※ ※ ※
翌日、アーヴァインはさっそく任務で外出してしまった。スッキリした顔で。会えなかった三ヶ月分を埋めるように、マリアをめちゃくちゃにし、満足したのだろう。
反対に高熱を出して寝込んでしまったマリアは、仲間たちからさんざん説得された。
「考え直せ!」
「あのエロ提督めっ」
「うっそー上の階のバルコニーでやってたのぉ?」
「この寒空にサイテーだな」
「趣味悪いっすYO!」
「ケツ顎だしね」
熱に浮かされながら、それでもマリアは幸せそうに笑った。
いいんだ。これからは、好きに生きるんだ。もう二度と、彼に淋しいなんて言わせないんだ。
だって、桟橋で会ったときの彼の顔も、やっぱりほっとしていたから。おそらくは自分と同じ気持ちだったはず。
アーヴァインは戦場を操る男。軍人なんて、常に危険にさらされているのだ。マリアはいつも心配だった。
そしてマリアも、商船とは言え、危険な航海を続ける仕事。敵国の私掠戦や海賊船、それに大時化。いつも順調とは限らない。
いつ死ぬかも分からない二人が、残りの人生を一緒に居てはいけない理由は無い。
熱に浮かされながら、そうきちんと説明できたのであろう。彼らは渋々諦めてくれた。
一番説得力があったのは、おそらくアンリエッタのあの言葉。
「往復三か月の遠恋なんて、続かないわよ。だって三か月えっちしなかったら、あたし死んじゃうもの」
やっと熱が下がった二日後の夜──。
今回は熱が出て、アーヴァインのお供をさせてもらえなかった。
だけど、次からは絶対に離れない。どんな危険な場所でも一緒についていくんだ。そう決意を固めつつ、病み上がりの体を休めていた。
真夜中である。
マリアは目を覚ました。
ズルッ──ズルッ──
体が動かない。
全身がスースーする。
(これが、金縛り)
マリアの体を舐めながら這い上ってきたのは、顔の割れた──いや、顎の割れた──
マリアは絶叫していた。
完
ご愛読ありがとうございました。
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