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NTR
しおりを挟むオイルランプを付け、マリアにガウンを羽織らせた。
それからフランソルは、顔を赤くしてベッドに座っているこの元上官を睨みつけた。
ブランデーを手渡すと、彼女はちびちびそれを飲みながら、こちらを上目遣いに窺っている。
説教を待つ子供のようだ。
アーヴァイン退任の後、治安警備艦隊の司令官だった元女艦長にはとても見えない。
「なんでここに居るんです? まだ海の上のはずですよ、大佐」
「あの──それが順調な航海で、予想より早く着いてしまったんだ」
「だったらすぐあのケツ顎──じゃない閣下に会えばいいでしょう? なんでコソコソ忍び込んできてるんですか!?」
マリアは俯く。
「だって……どんな顔で会えばいいか。やっぱり夢だったんじゃないかって、その──結婚とか……」
ガウンを引っ張り寄せ、乳房を隠すマリア。そこには婚約指輪の代わりに──死ね──ケツ顎から渡されたニップルリング──死ね死ね──がはまっているのだ。
「レトローシア島で結婚式挙げて、指輪──ちゃんとした指輪渡されたでしょ?」
「もったいなくて、おこがましくて……。宝箱にしまってある。いっそ首輪にしてくれたら付けられたのに」
「なんで!?」
マリアは弑された前アリビア皇帝の娘。生存している唯一の直系だ。皇帝の血を尊ぶ者たちに担ぎ上げられないよう、その存在を隠して生かされることになった。
プラチナの髪を指に巻き付けながら、もじもじしているこの元皇女。軍人でもあり、非常に厳しく冷酷な雰囲気をまとっていたのだが──いつからこんな乙女になってしまったのか。
気づくとフランソルは、彼女を抱きしめていた。
「冷えきっているじゃないですか」
マリアは少し驚いたようにフランソルを見上げた。
「合鍵で入って、しばらく納戸に隠れていたから」
全裸で震えながら寝付くのを待っていたのか! この季節に、この人アホなのか!? やっぱりアホだったの!?
フランソルの、マリアを抱く腕に力がこもる。
やっと少し、自分の体温を分けてあげられただろうか。
すんっと髪の匂いを嗅いだ。ああ、そう言えばこの香りだ。大佐の匂い。
「フランソル、やめ──」
いつの間にか首筋に鼻を埋めていた。
マリアの甘い匂いが強まったのを感じた。あれ? なにこの反応?
「ブランデーがこぼれ……あっ!」
マリアの顔が青ざめる。
「しまった、これを……飲んだらいけなかったんだ!」
たしかに、この元上官は酒類がダメだったが……フランソルは諭すように彼女に言った。
「体が冷えているんです、我慢して飲んだ方がいい」
せめて服着たまま夜這えよ、凍死するぞ。
しかしマリアは首をふった。
「そうじゃなくて、薬を入れたんだ。中将──じゃない、元帥を気持ちよくさせるために」
フランソルの表情が固まる。
「嘘を言わないでください。私はありとあらゆる薬や毒の臭いが分かる。無味無臭、ブランデーの味自体も変わってなかった」
「ウエスティア大陸のピンクガラガラヘビの毒なんだ。体が痺れて力が入らなくなって、さらには媚薬……に……も……ふぅ」
フランソルは額を押さえた。マリアの瞳がとろんと蕩けてきたからだ。うわ……。
「ピンクガラガラヘビですって?」
一度達しないと、その毒は抜けないとかいう、ご都合うっふん媚薬だ。じっさいにモノを試した事は無い。
そうか、無味無臭だったのか……。
この新大陸の生態への理解はまだまだ未熟だった。
先住民の毒をもっと知っておかなければならなかった。フランソルは舌打ちする。
「すみません大佐、私がうかつだった」
マリアが紅潮した顔をあげた。
「どうし──」
「抱きますよ」
いつ帰ってくるともしれないケツ顎を待っている間に、マリアは──いや自分も──悶え死ぬだろう。
失礼ながら、彼女の体は淫乱だ。本番無しで満足するとは思えない。かと言って、その辺りの男を襲わせるわけにはいかない。
それくらいなら自分で……そう、要はマリアを抱きたい。
「抱きます。最後に貴女を」
祖国で自白剤にも使われていた媚薬は強力だったが、それよりもこの新大陸製のものは遅効性らしい。
徐々に息を乱していく元上官を見ながら、なんとなく思った。
これは神の慈悲なのではないか。
(たぶん、彼女に触れられる、最後の機会)
次の瞬間、フランソルは元上官の後頭部を掴み、押し付けるようにその唇を奪っていた。
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