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淫らな幽霊

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 その夜、フランソルはアーヴァインの部屋を隅々まで調べた。

 元々はペントハウス仕様になっていた部屋だ。さすがに広い。

 これだけ部屋があるんだから、安全面を考慮すると自分と同じ部屋でもいいんじゃね? と最初は提案した。

「マリアたんが新大陸に到着したら、めっちゃイチャイチャするけど。それでも平気なのお前」

 そう聞かれ断念した。平気なわけあるか。

 バルコニーからは、東海岸の街並みと、その向こうに海が広がっているのが見える。上を見上げた。

 青い青い空。カモメの声。

 最上階であるわけだから、上からは侵入できない。下の階の部屋には、情報部の部下たちを待機させている。右隣は続き部屋のバルコニー。左隣はフランソルの部屋のものだ。

「忍び込めるのは、土蜘蛛くらいだ」

 それと、命を狙う刺客なら、初日にザックリやっているだろう。あの若き元帥がそう簡単に殺されるとは思わないけれど、攻撃してこないのはおかしい。

「やはり、夢だと思うけどな」

 ブランデーの瓶を見つけて、匂いを嗅ぎ、舐めてみる。何か幻覚剤のようなものが入っているわけでもなさそうだ。

 アーヴァイン・ヘルツは、寝る前にいつも一杯やる。そして飲み過ぎると自分でローブを脱ぎ捨て、全裸になって熟睡してしまうことがあった。

 朝起きて全裸でカピカピ……。夢精? 溜まりすぎて出ちゃった?

 何せ彼が知る限り、マリアが航海に出てからは、あの上官、女を抱いていないはず。

 あの10P提督という異名を持つケツ顎元帥が、だ。処理を忘れて粗相くらいするかもしれない。

「まあ、気休め程度に今晩様子をみてみるか」

 何も無かったと言えば、彼も安心するだろう。




※ ※ ※ ※ ※


 夜中、フランソルは目を覚ました。シン……と静まり返った天井を見あげている。

 いま、何時だ? 枕元の懐中時計に手を伸ばそうとして、気づいた。

 ばかな。

 体が動かない。

 まるで、押さえつけられているかのようだ。

 絹ずれの音がした。

 それは、自分が寝巻代わりに着ていたローブを脱がされている音だった。

 そうか、上に乗られているから動けないんだ。大丈夫、枕の下にはリヴォルバーを隠してある。

 寝たふりをしたまま様子を窺った。

 するっとなにかが這い上がってくる気配。それから──。

 ペトリと、首筋を舐め上げられた。

 ひぃいいい。

 フランソルは枕の下に手を伸ばすのを堪えた。気味が悪い。

 霊的な存在はやはりあったのか? なぜならこの幽霊、氷のように冷たい。

 ぺろぺろ体中を舐め上げられ、もう自分は冥府に行くんだと固まったままのフランソル。

 しかし幽霊の口が下半身に下がっていった時、予想に反して自分のモノが元気に立ち上がるのを感じた。

 ひやりとした唇が、フランソルのフリチンソルをいたぶる。

 その唇はぷっくりしていて、柔らかかった。しばらく鼻の頭や唇でフリチンソルをフリチンさせると、幽霊が口を開いた。

 れろり。

 フランソルの背筋をぞくりと這い上がる快感。

 さらにむしゃぶりつかれた。

 す、すごい。

 なんという口淫術。まるでプロの娼婦。やはり自分の父親と同じく、昔ニコロスによって処刑された総督の一人の──愛人?

 長い舌が、フランソル自身を絡めとる。しつこく、いやらしく、ねっとりと絡みつき、フランソルに理性を忘れさせる。

(ああ、なんて……なんて)

 じゅじゅっ

 吸われた! うぉおおおお、堪えろ、堪えるんだ。

 フランソルは昇天しそうになり、必死で海神教会の経典の一部を読み上げようとする。

 初めに海があった、海は神と共にあった、海は神であった、海は空を吐き、陸を吐き、チンチンを舐め舐めうぁああああ無理だ!

 幽霊にイかされるとかまずあっちゃダメ! なぜならこのフランソル、冷静沈着な情報部のクールなブレーンキャラであり──

 でも……あ、あれ? 本当に幽霊なのか?

 フランソルは、相手の舌や口内が生温かいことに気づいた。

 途端、ゾクゾクと鳥肌が立つ。幽霊よりまずいじゃないか、この女は諜報員だ。我々をスパイしにきた、れっきとした人間だ!

 フランソルは渾身の力で幽霊──間諜を足で挟み、引き倒す。

 何のことは無い、金縛りと思い込んでいたが、簡単に女は倒れた。

 その時、窓から差し込んだ冬の冴えた月が、女の顔を照らし出した。

「あ──れ?」

 元皇女マリアは、フランソルの顔を見てきょとんとしている。

「中将──元帥閣下は?」

 フランソルは全裸で横たわっている愛するマリアを見つめ、気絶しそうになった。

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