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第2章

失われた種族

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「石柩がひとーつ。石柩がふたーつ。」

不気味な声で石柩を数えているナディアさん。広いこの円形の空間の真ん中の小さめの石柩3つを中心にして放射線状に等間隔で並んでいる。まるで、その3つの石柩を守るみたいな形だ。
暗くもなく、明るくもない、この空間の壁には様々な彫刻がされてあって、象徴的モチーフは体の長い竜だ。美しい竜の背中には1人の女性が乗っている。

「石柩がみっつ、石柩がよっつ。」


さっきの圧倒的な強さでモンスターを狩りまくる姿が目に焼き付いて離れない。
この人は敵に回しちゃいけないと心底思った。

「石柩が5つ、石柩が6つ。」



私、サフィニアは王国の筆頭魔術師だ。
最高レベル魔力で大概のことは出来てしまうんだけど、そんな私でもナディアさんとイオンさんにはどんな手を使っても勝てないだろう。

数えるのに飽きたのか、こっちに向かって歩いてきたナディアさん。

「サフィニアちゃーん!転移の魔方陣お願い!」

「てへ。わかりましたー。」

ナディアさんに頼まれ、遺跡の壁面に転移の魔方陣を展開して定着させる。
朝飯前~。


カミュっちはこの遺跡に着いてから、開けられて空っぽになった石柩を調べつくし、今度は封印されている石柩にいくつもの魔方陣を展開させては、考え込み、少しずつ修正したり、新しい術式を足してみたりしている。

本当は私がちょちょいとやったらすぐに開くんだけど、それじゃカミュっちは成長しないしね。何事も経験だよ。

なぜ、ちょちょいと開けられるかって?
封印したのが私だから。
前に来たことあるんだもん。ここ。
王立研究所の所長ゼンとね。

その時に全ての石柩を開けたんだけど、ゼンはそれをレポートに書かなかった。石柩は開かなかったってことにしたんだ。

何故かって?
石柩の中に入っていたのは、大勢のドラゴニュートと3体のハーフドラゴンの亡骸だったから。
正確に言うとミイラ状態だったけど。

失われた種族のハーフドラゴン。
その名の通り、人間とドラゴンのハーフ。
もう何百年も前に絶滅したらしいんだけど詳しいことはわからない。これが最後のハーフドラゴンだったのかもしれない。
そして、ドラゴニュートも現在では確認されていないんだ。
この遺跡とミイラを世の中に発表することも考えたけど…。なんだかねー、ちょっと可哀想だし、トレジャーハンターに遺跡を荒らされるのを避けようってことで、ここはこのままにして置こうってゼンと話し合い決めた。


それなのに、石柩が1つだけ開けられていてその中は空っぽになっていた。ナディアさんの仲間の傭兵さんたちが調べた時には、その中に悪の種子の欠片が残っていたらしい。

この隣国に、私が封印したものを開けられるくらい凄い魔術師がいるのか?
この屈辱、どうしてくれようか。


「さっきから怖い顔をして何を考えてるんだ?」

アルフォンソが石柩の上に乗り話し掛けてきた。

「てへ。私そんな顔してた?ね、アルフォンソ、この隣国で1番凄い魔術師って誰かわかる?」

「1番凄い魔術師…。ちょっとわからん。数も、把握出来ていない。お前たちの国のように登録制ではないからな。」

「そうか。アルフォンソが猫になった時って、どんな感じだったの?」

「それは…領地の見廻りに行った時だった。ある村で、珍しい鉱石が見付かったと聞いて、その洞窟に行くことになったんだ。まぁ、今考えると罠だったんだけどな、その洞窟の通路はとても狭く、人ひとりがやっと通れるくらいで、同行していた護衛たちと途中で分断されてしまったんだ。前後を岩の壁が塞ぎ、1人立ち往生していると、地面から黒いローブの男がすーっと顕れた。その男が何か呪文のようなものを唱えると、我輩の意識が遠くなっていったんだ。はっ、と気づいた時にはもうこの姿だった。前後の壁は消えていて、そこには護衛たちが倒れていた。全員すでに事切れていたよ。なぜ我輩をひと思いに殺さなかったのかはわからん。それ以降襲われることもないし、監視されてもいない。」

「その黒いローブの男…会ってみたいですねぇ。てへ。」

「我輩はそいつの顔を見ていないから、探しようがないぞ?」

「あ、それは、くるるなら匂いを覚えているって言ってたからわかると思うよ?てへ。」
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