22 / 80
第1章
まうちゃん
しおりを挟む
工房を出て、小川沿いの道を歩く。
この道は、夕暮れ時になると小川から吹く涼しい風が気持ち良い。この小川は、染め物をするために本流から引いた用水路なんだよね。夏場は良いけれど、冬場の染め付け作業は水が冷たいから大変だろうなぁ。
オソメさんは、染め物の工房の3代目。
よっ!3代目染吉!(本名)
おふくろさんから代替わりして、10年が経つ。母さんが父さんと結婚した頃からの友達でとても仲良しだ。オソメさんは、所謂オカマさんなのだけど、子供の頃から女の子の格好をしていたので周りは女の人だと思っているんだって。おふくろさんは、全面的にオソメさんのことを受け入れているので、「工房は染吉の好きにしなっ!」て言って早々に引退して、今は趣味の園芸に勤しんでいる。剛胆なおふくろさんだ。
オソメさんの親父さんは陶芸家だったのだけど、20年前に事故で亡くなっている。
私もオソメさんが染吉だと知ったのは去年のことで、おふくろさんがうちの母さんの店で酔っぱらってついポロリと言っちゃったのを聞いてしまったんだ。別に本人は隠していないのよって母さんは言ってたけど、あの見た目からは誰も男だとはわからないだろうな。
まあ、でも、私はオソメさんはオソメさんとしか思っていない。性別を超越した存在ってことねっ。うふっ。
丁度、橋の上を歩いていた時に、
またぷるっと包みが震えた。
ん?
んん??
胸に抱いた丸い包みは、気のせいではなく振動している。し続けている。
イッツ!バイブレーション!!
中身が気になり、そっと布を開けてみると
綺麗な水色の卵だった。
鶏の卵…では無いよね。
何の卵なのかな。どんな鳥が生まれるんだろう。
パリパリっと殻に亀裂が入った。
お、いよいよですな!
ほわほわのひよこちゃん出てくるのかな~。
ワクワクして見ていると、予想していた感じではなく、パカッと勢い良く割れた。
「まぅ~。」
なんじゃこりゃー!
「まぅ~。」
ひよこじゃない、だと?!
それは、それは
透き通るような白さの小さなドラゴンだった。
「ひぃぃぃぃぃぃっ。」
と、言いつつも小さなドラゴンを放り投げる訳にもいかず両手を目一杯伸ばす。
「まぅ?」
キラキラした大きな目で私を見るドラゴン。あら、ちょっと可愛い…かも。
「まぅぅっ。」
パタパタと飛んで、私の肩に止まり、頬擦りをする。
「まぅ~。」
私のドラゴンに対するトラウマをも解かすこの可愛さ!
「まうちゃん。」
と、呼んでみると
「まぅっ!」
と返事をする。ふふっ。可愛いな。
そっと頭を撫でてみる。
気持ち良さそうに目を閉じるまうちゃん。
ツルッとした触り心地。
もふもふも好きだけど、このツルツルも
なかなか良いなー。
そこで気付いてしまった。
このドラゴンて(正確には卵だったけど)ブロンさんていう人の忘れ物だったよね。どうしよう。生まれちゃった…。
それにドラゴンなんて誰かに見つかったら大騒ぎになるよね。ひょっとしたら殺されちゃうかもしれない。
え、私は斬りませんよ?
チャリバー持ってませんし。
持ちたくもありませんし。
まうちゃんを肩に乗せたまま、持っていたスカーフをすっぽりと頭から被り、周りから見られないようにする。
「まうちゃん。ちょっと静かにね。」
俯き加減で取りあえず母さんの店に向かうことにした。
「カミュ~!帰ってる?」
「お、姉さん。今帰って来たとこ。」
「良かった~。かくかくしかじかで、こういうわけなのよ~。」
と、私はスカーフを外す。
「まぅ~。」
「おおお!!!可愛い~っ。」
「この子がまうちゃんです。さて、どうしましょ。」
「どうしましょって…。どうする?」
持ち主に返したいけれど、金熊亭にドラゴンを連れて行くわけにはいかないよね。
困ったなぁ。
「ね。カミュ。私、取りあえず金熊亭に行って事情を説明してくる。その間まうちゃん預かっててくれない?」
「うん、いいけど…、姉さん1人で大丈夫?」
「大丈夫よ。それで、ここにそのブロンさんに来て貰おうよ。」
肩に乗っているまうちゃんに
「まうちゃん。私、ちょっと出掛けて来るからその間カミュとお留守番しててね。」
と、話しかける。
「まぅ~まぅ~。」
まうちゃんは私に頬擦りをしてからカミュの肩にパタタと飛び移った。
「この子、言葉がわかるみたいだね。ドラゴンて賢いんだなぁ。じゃあ留守番してるから、姉さん気を付けて行ってきて。」
「まぅ~!」
気を付けるもなにも、金熊亭まではここから走って3分なのだが。
「いってきまーす!」
この道は、夕暮れ時になると小川から吹く涼しい風が気持ち良い。この小川は、染め物をするために本流から引いた用水路なんだよね。夏場は良いけれど、冬場の染め付け作業は水が冷たいから大変だろうなぁ。
オソメさんは、染め物の工房の3代目。
よっ!3代目染吉!(本名)
おふくろさんから代替わりして、10年が経つ。母さんが父さんと結婚した頃からの友達でとても仲良しだ。オソメさんは、所謂オカマさんなのだけど、子供の頃から女の子の格好をしていたので周りは女の人だと思っているんだって。おふくろさんは、全面的にオソメさんのことを受け入れているので、「工房は染吉の好きにしなっ!」て言って早々に引退して、今は趣味の園芸に勤しんでいる。剛胆なおふくろさんだ。
オソメさんの親父さんは陶芸家だったのだけど、20年前に事故で亡くなっている。
私もオソメさんが染吉だと知ったのは去年のことで、おふくろさんがうちの母さんの店で酔っぱらってついポロリと言っちゃったのを聞いてしまったんだ。別に本人は隠していないのよって母さんは言ってたけど、あの見た目からは誰も男だとはわからないだろうな。
まあ、でも、私はオソメさんはオソメさんとしか思っていない。性別を超越した存在ってことねっ。うふっ。
丁度、橋の上を歩いていた時に、
またぷるっと包みが震えた。
ん?
んん??
胸に抱いた丸い包みは、気のせいではなく振動している。し続けている。
イッツ!バイブレーション!!
中身が気になり、そっと布を開けてみると
綺麗な水色の卵だった。
鶏の卵…では無いよね。
何の卵なのかな。どんな鳥が生まれるんだろう。
パリパリっと殻に亀裂が入った。
お、いよいよですな!
ほわほわのひよこちゃん出てくるのかな~。
ワクワクして見ていると、予想していた感じではなく、パカッと勢い良く割れた。
「まぅ~。」
なんじゃこりゃー!
「まぅ~。」
ひよこじゃない、だと?!
それは、それは
透き通るような白さの小さなドラゴンだった。
「ひぃぃぃぃぃぃっ。」
と、言いつつも小さなドラゴンを放り投げる訳にもいかず両手を目一杯伸ばす。
「まぅ?」
キラキラした大きな目で私を見るドラゴン。あら、ちょっと可愛い…かも。
「まぅぅっ。」
パタパタと飛んで、私の肩に止まり、頬擦りをする。
「まぅ~。」
私のドラゴンに対するトラウマをも解かすこの可愛さ!
「まうちゃん。」
と、呼んでみると
「まぅっ!」
と返事をする。ふふっ。可愛いな。
そっと頭を撫でてみる。
気持ち良さそうに目を閉じるまうちゃん。
ツルッとした触り心地。
もふもふも好きだけど、このツルツルも
なかなか良いなー。
そこで気付いてしまった。
このドラゴンて(正確には卵だったけど)ブロンさんていう人の忘れ物だったよね。どうしよう。生まれちゃった…。
それにドラゴンなんて誰かに見つかったら大騒ぎになるよね。ひょっとしたら殺されちゃうかもしれない。
え、私は斬りませんよ?
チャリバー持ってませんし。
持ちたくもありませんし。
まうちゃんを肩に乗せたまま、持っていたスカーフをすっぽりと頭から被り、周りから見られないようにする。
「まうちゃん。ちょっと静かにね。」
俯き加減で取りあえず母さんの店に向かうことにした。
「カミュ~!帰ってる?」
「お、姉さん。今帰って来たとこ。」
「良かった~。かくかくしかじかで、こういうわけなのよ~。」
と、私はスカーフを外す。
「まぅ~。」
「おおお!!!可愛い~っ。」
「この子がまうちゃんです。さて、どうしましょ。」
「どうしましょって…。どうする?」
持ち主に返したいけれど、金熊亭にドラゴンを連れて行くわけにはいかないよね。
困ったなぁ。
「ね。カミュ。私、取りあえず金熊亭に行って事情を説明してくる。その間まうちゃん預かっててくれない?」
「うん、いいけど…、姉さん1人で大丈夫?」
「大丈夫よ。それで、ここにそのブロンさんに来て貰おうよ。」
肩に乗っているまうちゃんに
「まうちゃん。私、ちょっと出掛けて来るからその間カミュとお留守番しててね。」
と、話しかける。
「まぅ~まぅ~。」
まうちゃんは私に頬擦りをしてからカミュの肩にパタタと飛び移った。
「この子、言葉がわかるみたいだね。ドラゴンて賢いんだなぁ。じゃあ留守番してるから、姉さん気を付けて行ってきて。」
「まぅ~!」
気を付けるもなにも、金熊亭まではここから走って3分なのだが。
「いってきまーす!」
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる