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第1章

ドスドスくねくね

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作中でのヤマハゼの染め物についてですが黄櫨染めという山櫨やまはぜの樹を使用した日本古来の染め物を参考にしました。あくまでもファンタジーですので、ご了承くださいませ。







「向日葵色のドレスを作るためには、白い生地を染めるところから始まります。染料はヤマハゼの樹液。ヤマハゼの木は辺境の森に沢山生えていますが、ヤマハゼはウルシ科の植物でかぶれることがあります。なので、専門の職人さんが樹液を採取して来て、それを使って丁寧に布地を染め上げるのです。」

ドレスの採寸を終えた私達10人に、執事のジェフリーさんから、ドレスについての説明があった。

ヤマハゼの樹液を採取してから、布地を染め上げるまでに1週間。それをお針子さん達が裁断、縫製して、ドレスが完成するまでに8日間掛かるそうだ。

色んな人が携わっているんだね。感謝して大切に着よう。


私達がそのヤマハゼで染めたドレスを着ることによって、辺境伯領の名産品であるヤマハゼの染め物がお祭りを見に来た他領の人達に宣伝出来るんだ。勿論、メインの向日葵油もね。向日葵の精って言わば宣伝部長みたいなものなのだね!

お祭りまでには、父さんと母さんが帰って来るはず。兄さんはちょっとどうだか分からないけど…。今年もみんなでお祭りを楽しみたいなぁ。


説明会も終わり、帰ろうとすると
ジェフリーさんが近寄ってきて、
「イオンさん、ちょっとお話が…。」

「なんでしょうか。」

今日、仕事で何かミスでもしちゃったかな、私…。

「明日、私は朝からヤマハゼの樹液を採取しに職人さん達と森に行くんですけど、イオンさんも一緒に行ってみませんか?」

森…。
ちょっと森にはトラウマが…。
脳裏に浮かぶのは真っ二つのドラゴン…。

「えーと、それは業務命令でしょうか?」

「そういう訳ではありませんが、さっきのヤマハゼの説明をとても熱心に聞いていた様ですので、興味があるのかと思いまして。」

ちょっと、行きたくないなぁ。
「あの…。森はちょっと…。」

情けない顔でそう言うとジェフリーさんは
あ!という顔をして

「申し訳ない。失念していました。そうでしたね。うん。森は…ね。」

どうやら分かってくれたみたいで良かった。さすが出来る執事だねっ!

そこに、1人の女性が近付いてきた。
確か、商家の娘さんだ。名前はロザリーさん。勿論彼女も今年の向日葵の精だ。
がっちりした逞しい体で、ドスドスと音を立てて側に来たかと思ったら、「ふんっ!」と私を押し退けた。パワフル~。

「ジェフリー様ぁ。私、一緒に行きたいですわぁ。是非連れていってくださいませ。」

そのパワフルな体のどこから出てるんですか?ってくらいの可愛らしい声で、ジェフリーさんに話し掛けている。ロザリーさんは上背もあるため、ちょっと仰け反ったジェフリーさん。

「えー、その…か弱いロザリーさんを森へ連れて行くのは少し心配なので…。」

「イヤですわぁ。か弱いだなんてっ。」

ロザリーさんは赤くなってくねくねしてる。超くねくね。
ジェフリーさん、なんだか引き気味で遠い目をしてる。

「ですので、向日葵のドレスのために
私がヤマハゼの樹液を頑張って採取してきますので楽しみにしていてください。」

「私のためにだなんて!ロザリー嬉しいっっ。」

ロザリーさんのためだなんて言ってないよね。

「それでは、私はまだ仕事がありますので、これで失礼いたします。」

そう言うとジェフリーさんは、そそくさと行ってしまった。名残惜しそうに手を振るロザリーさん。ジェフリーさんの背中が見えなくなった途端、くるっとこっちを向いた。
「貴女、勘違いしては駄目よ。ジェフリーさんは私に気があるんだから!」

「はぁ…。そうなんですね。」

「そうよ。今の聞いてたでしょ?愛があるから心配してくれるのよ。貴女なんて、心配されてないから森に誘われたのよ!そこんとこ、よーく理解しなさいね!」

「わかりました。」

ロザリーさんの鼻息が私のおでこに、ふんふんっ掛かるし、ギラギラした目が怖かった。

「それでは、ごきげんよう!!」

また、ドスドスと行ってしまった。
ふぅ~。恋する女の子は凄いのね。
ジェフリーさん、モテモテだな。


お屋敷を出ると、カミュが迎えに来てくれていた。侍女さん達に囲まれている。
私に気付いたカミュは、手を振っている。

「姉さーん!お疲れさまー!」
  (助けて~、早く来て~)


兄さんと同じく、カミュも先輩侍女さん達に人気があるんだよねー。可愛いもんねっ。弟にしたい男ナンバーワンだよね。
あ、事実、私の弟だった。


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