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第1章

エクスチャリバー

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(……聞こえ……ますか……

……今、あなたの……頭の中に…

……直接……語りかけて……います……)
 


「煩いですっ!!」


(そんな~つれないなぁ。俺とイオンちゃんの仲じゃないか~。)

「私と貴方は何の関係もありません!
関係したくもありません!」

(えー、一緒にドラゴン斬ったじゃん?
あんな気持ちよく共鳴出来たの久しぶりなのになぁ。)

「とにかく!私これから仕事なので!」

寝不足でふらつきながらも
仕事に出掛ける準備をする。

昨夜は気持ち悪いやら煩いやらで
殆ど眠れてない。

エクス○リバー改め、エクスチャリバーは
帰ってくるなり、軽い調子であれこれと
話し掛けてきて本当に迷惑だった。

(ねー、イオンちゃんはアーサー王の伝説知ってる?俺がこの世界に初めて登場した時の話聞きたいでしょ?そう、あれは
俺がまだカリバーンという名で呼ばれていた頃……)

疲れているし、気持ち悪かったから
早く寝たいのに、これは拷問ですか!?
ってくらいだった。
耳を塞いでも頭の中に入ってくる言葉に
イライラもピークになった私は
明け方、父さん達が帰って来た後
こっそり外に出て、
エクスチャリバーを布にくるんで
庭に埋めた。
土をかけるまでは、
(いやー!なにすんのー!やめてー!)と
叫んでいたけど。



「永遠におやすみなさい。」


エクスチャリバーは静かになった。

もっと早くに埋めれば良かった。

そうして、少しだけ眠ったけど
寝起きは最悪で、起こしに来てくれた
カミュに優しくされて涙が出てきた。

だって、私、普通の女の子なのに。
突然エクスチャリバーを渡されて、
勇者の血族だの、ドラゴン討伐だの、
気付いたら、真っ二つのグロい死体を目の前にして、その後延々と聞かされるエクスチャリバーの回顧録。
泣きたくもなる。

エクスチャリバーを埋めたと言ったら
カミュは
「それはちょっと不味いんじゃない?」
って、掘り起こしに行った。


で、冒頭の
(……語りかけて…います…)に繋がるの。

土から出たら喋るのね。
帰ってきたらまた埋めようかな。


遅刻しちゃいそうだから
そのまま放置して仕事に出掛けた。





「おはようございます!」


辺境伯様のお屋敷は、
夕べのドラゴン騒ぎの余韻はなく
侍女さん達もいつもと同じで
皆さんにこやかに慎ましやかに
仕事をしていた。

私は1番下っぱなので、侍女さん達から指示を貰いお庭やお屋敷の手入れやお掃除、お洗濯、食事の下ごしらえ等をしている。

「おはようございます。イオンさん。
今朝はなんだか疲れているみたいですね。」

執事のジェフリーさんが声を掛けてくれた。

「おはようございます!いえ、全然大丈夫です。今日も宜しくお願いします。」

ジェフリーさんは、フラン兄さんより少し年上なのにとても落ち着いていて、
とっても優秀な執事さんだ。
黒髪にキリッとした目元。ミステリアスな雰囲気で、黒い執事と呼ばれている。
まるでセバ○チャンのよう……


「早速ですが、旦那様の執務室に来て頂けますか?少しお話があるそうなので。」

あちゃー。やっぱりそうよね。
聞かれるよね。夕べのこと。

「はい。わかりました。」


ドキドキしながら、
ジェフリーさんの後ろを歩く。

きっと、父さんから話は聞いてると思うんだけど…。
エクスチャリバーのことってどこまで
話していいんだっけ?
ど、どうしよう。


コンコン、と執務室のドアを
ジェフリーさんがノックする。

「どうぞ。」

部屋の中から、とても素敵な声がする。
辺境伯様はイケボなのよねぇ~って
そんな場合でない。

「失礼致します。」
「失礼致しまっすぅ。」

部屋に入るとそこには
ロマンスグレーの辺境伯様が窓辺に立って
お茶を飲んでいた。
逆光で顔はよく見えないけど
もう、その佇まいがイケメン!
勿論、お顔もそうだけど。

「おはよう。イオン。夕べはご苦労だったね。」

「おはようございます。いいえ、その、
ありがとうございます。」

「まぁ、座りなさい。
ジェフリーは下がっていいよ。」


そう言って、ソファーに腰掛ける。
私は、向かい側にちょこんと座った。

ジェフリーさんは、私にもお茶を淹れてくれた後、静かに退室。
物音ひとつ立てないのは流石だなぁ。


「さて、イオン。夕べの話は、ジョルジュ団長から報告は受けているけれど、君の言葉で聞かせてくれるかい?」

優しく語りかけてくれるけれど
全く笑っていない目に
一気に変な汗が出てきた。

え、何か怒ってる?
怖いよぉ。


「わ、わかりました。」


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