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第5ステージ 美少女のプロ
美少女のプロ②
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「滅私奉公、今日もLPの限り働きます!」「働きます!」
「合言葉は──」
「獲物はいただき!」
ホールにN P Cたちの気合の入ったレスポンスが響きわたる。怪しい宗教団体のようでレンカは引き気味だ。
壇上で、各持ち場に指示を出しているのはもちろんサハラである。
スタッフの中にサシミの姿は見当たらない。P Cゆえ、プレイヤーがログインするまでじっと部屋で待機しているのかもしれない。
(ヒットするゲームだけあってやっぱりブラックだわ)
働き方改革を訴えたいレンカだったが、本来の自分の仕事は、ゲームに出入りする怪しいキャラクターを見つけることだ。瑣末な不満にかまっているひまは──
「いや、あんたが怪しいわ」
違和感に気づき、おとなしく業務をこなしているカイヤにつめよった。
みずから手伝いをするようなキャラではない。
「何を企んでるの? プラットホームに出るのはめんどうくさいって、のんびり過ごしたいって言ってたじゃない」
「きみが夢中になってるゲームをぼくも知りたくなったから、かな」
見透かすような青い目でのぞき込まれ、レンカはドキリと息を呑んだ。
どこまで気づいているのか。
人手が足りないとはサハラから聞いてはいるだろうが、テロリストの件までは知らないはずだ。
何もかも怪しく思え、疑いのまなざしを向ける。
攻略対象三人の中で、一番油断ならないのが彼だ。
ゲーム内でも二面性をもつ設定だが、本人も愛らしいビジュアルの反面、何を考えているのかわからない不穏さがある。
「まず、あなたがここにいる必然性がないわ」
「ぼく、意外と強いんだよ。乙女ゲームよりアクションゲームに向いてると思わない?」
ショタ枠が何を言ってるのやらと、レンカは鼻白む。
「それよりレンカ、プレイヤーがログアウトしてる間に休憩入って来たら?」
カイヤは呆れるようにため息をついた。実際昼食も摂れず休みなしで監視していたせいで、空腹と眠気でレンカの目の下にはクマが広がり凶悪な表情になっている。
「とても乙女ゲームのヒロインとは思えないんだけど」
向けられた冷笑も引き金となって、レンカはカイヤの襟元をつかんだ。
「白状しなさい、何か魂胆があるんでしょう!」
「ないない、ぼくは本当のことしか言わな……あっレンカお客さんが……ぐえっ、苦しっ」
カイヤは目を白黒させてカウンターを指した。ログアウト中を狙ってN P Cのスレイヤーが遊びに来たようだ。
「あの、このクエスト行きたいんですが」
「はーいはいどうぞどうぞ」
彼が出した用紙に適当に判をおし、麻の幕の向こうへ送り出す。
「いい? わたしの仕事の邪魔は」
高らかに鳴る法螺貝の出発音をさえぎってカイヤが尋ねてくる。
「ねえ、今出したクエスト、巨大蟻が出るんじゃない?」
「それがどうかした?」
「お客さん、初期装備だったなあって」
見ると、受けたクエスト用紙にはレベルAと記載がある。
レンカは血の気が引き、一気に眠気も覚めた。
「早く言えー!」
クエストの適正値に届かない初心者のスレイヤーを、依頼よりランクが上の危険なエリアへ導いてしまった。
クエストでならLPの残数値がゼロになっても、キャラクターは死ぬことなく送還されるだけだが、ダメージがないわけではなく、その恐怖からストレス障害を発症することもある。
「わたし、わけを話して連れもどして来る!」
「あっ待ってレンカ──」
カイヤの声を後にレンカは貸し出し用の双眼鏡を手にすると、自分も陽よけ幕を飛び出した。
「合言葉は──」
「獲物はいただき!」
ホールにN P Cたちの気合の入ったレスポンスが響きわたる。怪しい宗教団体のようでレンカは引き気味だ。
壇上で、各持ち場に指示を出しているのはもちろんサハラである。
スタッフの中にサシミの姿は見当たらない。P Cゆえ、プレイヤーがログインするまでじっと部屋で待機しているのかもしれない。
(ヒットするゲームだけあってやっぱりブラックだわ)
働き方改革を訴えたいレンカだったが、本来の自分の仕事は、ゲームに出入りする怪しいキャラクターを見つけることだ。瑣末な不満にかまっているひまは──
「いや、あんたが怪しいわ」
違和感に気づき、おとなしく業務をこなしているカイヤにつめよった。
みずから手伝いをするようなキャラではない。
「何を企んでるの? プラットホームに出るのはめんどうくさいって、のんびり過ごしたいって言ってたじゃない」
「きみが夢中になってるゲームをぼくも知りたくなったから、かな」
見透かすような青い目でのぞき込まれ、レンカはドキリと息を呑んだ。
どこまで気づいているのか。
人手が足りないとはサハラから聞いてはいるだろうが、テロリストの件までは知らないはずだ。
何もかも怪しく思え、疑いのまなざしを向ける。
攻略対象三人の中で、一番油断ならないのが彼だ。
ゲーム内でも二面性をもつ設定だが、本人も愛らしいビジュアルの反面、何を考えているのかわからない不穏さがある。
「まず、あなたがここにいる必然性がないわ」
「ぼく、意外と強いんだよ。乙女ゲームよりアクションゲームに向いてると思わない?」
ショタ枠が何を言ってるのやらと、レンカは鼻白む。
「それよりレンカ、プレイヤーがログアウトしてる間に休憩入って来たら?」
カイヤは呆れるようにため息をついた。実際昼食も摂れず休みなしで監視していたせいで、空腹と眠気でレンカの目の下にはクマが広がり凶悪な表情になっている。
「とても乙女ゲームのヒロインとは思えないんだけど」
向けられた冷笑も引き金となって、レンカはカイヤの襟元をつかんだ。
「白状しなさい、何か魂胆があるんでしょう!」
「ないない、ぼくは本当のことしか言わな……あっレンカお客さんが……ぐえっ、苦しっ」
カイヤは目を白黒させてカウンターを指した。ログアウト中を狙ってN P Cのスレイヤーが遊びに来たようだ。
「あの、このクエスト行きたいんですが」
「はーいはいどうぞどうぞ」
彼が出した用紙に適当に判をおし、麻の幕の向こうへ送り出す。
「いい? わたしの仕事の邪魔は」
高らかに鳴る法螺貝の出発音をさえぎってカイヤが尋ねてくる。
「ねえ、今出したクエスト、巨大蟻が出るんじゃない?」
「それがどうかした?」
「お客さん、初期装備だったなあって」
見ると、受けたクエスト用紙にはレベルAと記載がある。
レンカは血の気が引き、一気に眠気も覚めた。
「早く言えー!」
クエストの適正値に届かない初心者のスレイヤーを、依頼よりランクが上の危険なエリアへ導いてしまった。
クエストでならLPの残数値がゼロになっても、キャラクターは死ぬことなく送還されるだけだが、ダメージがないわけではなく、その恐怖からストレス障害を発症することもある。
「わたし、わけを話して連れもどして来る!」
「あっ待ってレンカ──」
カイヤの声を後にレンカは貸し出し用の双眼鏡を手にすると、自分も陽よけ幕を飛び出した。
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