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第4ステージ 恋したっていいじゃない
恋したっていいじゃない①
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レンカは思い切ってバスルームのドアを開けた。
人影が見えなかったのはそのはず、彼はバスタブの中にいた。
しかし、P Cは、到底クエストに出られる状態ではなかった。
彼は頭部のみを残し、光の砂となりつつあった。
サハラたちがレンカの悲鳴を聞いて飛び込んで来たときには彼は顔の半分のみで、
「ほんとは、女の子もハントしたかっ……」
と言い残し消えていった。
後味の悪い末期に、三人に気まずい沈黙が走る。
「……おい! もっと有力なダイイングメッセージはないのか!」
バスタブに向かって叫ぶサハラだったが、こちらをふり返った瞬間、真顔で洗面台の剃刀をレンカに翳した。
「動くな」
「え?」
──ザクッ!
レンカは一瞬何をされたのかわからなかったが、足もとにぱさりと落ちた自分のストロベリーブロンドの髪のひとふさに、さらなる悲鳴をあげた。
「な、何するんですかー!」
「どきたまえ!」
サハラはレンカを突き飛ばすほどにおしのけて、スーツの懐から出したスプレー缶を、落ちたレンカの髪目がけて吹きつけた。
「な何を……」
「よく見てるんだ」
ブロンドのつやがうねり、束の下から何かが苦しそうによたよたと這い出て来る。
それはあめ玉ほどの大きさの黒い昆虫で、脚と頭が朱い不気味な虫だった。
「アサシンバグ、すべてのウィルスの中でもっとも危険な種だ。何せ噛みつかれて感染したら、対象は消え去るんだからな。受付嬢もこのP Cも、こいつのせいで消えた」
サハラはキャビネットにあった空き壜に虫をつまんで入れると、固く蓋を閉じかかげて見せた。
「これがきみの髪に留まってた」
思わずレンカはひっと頭をかかえる。
「開いた窓から誰かが放り込んで殺られたか」
サハラの言葉に青年はあわてて窓を閉め、恐る恐る申し出た。
「それで主任、P Cはどうしましょう……」
「時間がない、レベルと体型があう者をピックアップしろ」
総合案内から通知音が鳴り、アナウンスが響きわたる。
「プラットホームの電源が入りました。各キャラクターは定位置へもどり、準備を整えてください」
ここから、プレイヤーがどのゲームを選ぶかで出番が決まる。
「ログインシグナル点灯を確認、起動シークエンスに移行、システム完了──」
「来るぞ、うちだ!」
サハラの声とともに『デザート無双2』の信号がグリーンに点滅した。
レンカの初めての仕事だ。
サハラが裏に控えているものの、最低限の流れしか聞く時間がなかったのは不安しかない。
受注紙が散乱したカウンターを急いで片づけ、水差しの花を整える。
すぐに褐色の肌をしたP Cが受付にやって来た。代わりを見つけて来たのだろう。
「『クエスト№33・明星の侵略者』ですネ。行ってらっしゃいマセ御武運をー」
P Cは、頭に巻いたターバンをなびかせ颯爽と出て行った。
レンカがクエストを受注し送り出すと、法螺貝の出発音が鳴る。
彼がくぐった麻の陽よけ幕から、熱い風が吹き込んで来る。
そこが狩猟の舞台への入り口だ。
すでにひと仕事終えたようにレンカがふうと肩を下ろすと、サハラが出て来て無言でひたいをおさえていた。
「どこかぶつけたんですか?」
「AIのほうがマシだな」
「な」自分に降された評価が不当に思えて、レンカは言い返す。
「何か問題が? わたしの仕事は、受付嬢を務めながら不審者をチェックすることですよね?」
「もちろん。だがわたしは彼女の代わりとに、と言ったはずだ。なんだねあの顔は」
笑ってお辞儀もしたはずだが、何が気に入らないのか。
「もう一度やってみろ」
こらえてにっこり笑うレンカに、サハラは事務的に告げる。
「はい×」
「へ?」
「きみの笑顔、魅力がないんだ。目が笑ってないというかわざとらしいというか」
仮にも、乙女ゲームの主役を務めた自分の顔を、
(魅力がない!?)
レンカは、アイデンティティがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。
笑顔には絶対の自信があった。
ゲーム内でも悪魔バージョンのカイヤに、何度も「笑えよ」と煽られたというのに。
「彼女は笑顔もプロだったぞ」
しかし、レンカも一縷のプライドをかけて反駁する。
「そ……そっちは3Dがベースでしょ。解像度が違うぶん、表情パターンが広いのは当たり前ですよ」
「そうではない、心の問題だ」
「うちだってプレイヤーは、ドラマを楽しんでくれました」
完全コンプリートまで行ったのだ。
心が伝わらなかったら当然ストーリーもつまらなく、途中でやめるはずだ。
だがサハラは、おもむろに首をふって言った。
「乙女ゲームで画面に立たされるのは、ほとんどが攻略対象だ。彼らはれっきとした役者で功労者だろうが、きみが演じたのは見せ場のムービーシーンだけだろう」
自分はプレイヤーの化身のようなものだから、確かにボイス設定もなくセリフもほとんどテキストだ。
「テロリストという正体をかくすためであっても、彼女の受付は完璧だった。ある意味女優なのだ。きみの場合セリフは棒読み、顔は仮面だ。それでヒロインと言えるかね?」
さらにサハラはフロントのスタッフを呼び、鏡とメイクセットを用意させる。
「あとね、きみ、化粧をしてるかしてないかわからないんだよね。男うけはするだろうが、この場所ゲームの顔だから。もっとちゃんと塗って」
(セクハラっ……)
素顔に血色を加えるくらいがもともとのキャラクターデザインの設定であったし、フルメイクでもナチュラルに仕上げるのが流行ということを、この男は知らない。
(これを作り込むのに、どれだけ時間をかけてると……!)
ピキピキと顔が引きつるレンカの前に、男性スレイヤーの面々が集まって来た。
「あれ支配人、その子が新しい受付嬢?」
「おれ知ってる、乙女ゲーの子だ」
現場のキャラクターたちにはわかるようだ。
自分のゲームの中では常にメンズがとなりにいたが、ここの彼らはアンバーたちとはタイプが違う。
迫力ある武装した男たちに囲まれると、さすがにしり込みする。
「ふ、不慣れなところもあるかと思いますが、がんばりますのでどうぞよろしくお願いします」
お辞儀をするレンカへの射るような視線が怖い。
「かーわいい……」
ぼそりとしたつぶやきを筆頭に、彼らは頬を染めてはしゃぎ始めた。
「名前なんていうの?」
「いい匂いだなー、マイナスイオン出てる?」
「おれとパーティ組まない?」
(うふふ、そうでしょそうでしょ)
いつものくせでつい顔パターンに組み込まれている笑顔で返すが、
「はい、そこまで」
サハラが手を打ち、一団の前に割って入った。
「彼女はこれから仕事なのだ、きみたちも持ち場にもどったもどった」
しっしっと虫のように追い払われ、愚痴りながらもしぶしぶ去って行く男たち。
サハラは苦笑しながら、レンカへ目線を移した。
「さすがは乙女ゲーヒロイン、まるで香り高い花のようだ。早速虫どもがたかって来たな」
壮大な皮肉とほめ言葉で大仰に腕を広げる。
だが転瞬彼は真顔になり、ひたいに陰を落とし近づいてきた。
「ここ、ゲーム内恋愛禁止だから。遊びじゃないからね」
「遊びだよ」
楽しげな声にレンカが顔を上げたのと同時に、クエスト成功のファンファーレが鳴った。
狩猟に出かけていたP Cがもどって来たのだ。
「ゲームは遊び、支配人」
のんきな声にサハラがぴくりと目をすがめる。プレイヤーは、本日は一クエストでログオフしたようだ。
「クエストなんて久しぶり過ぎて、剣の研ぎ方も忘れてたよ」
「お前がひとりで地図作成ばかりやってるからだ」
「そっちのほうが性にあってるんだ」
P Cの青年は、笑いながら防具とターバンをはずした。
ぱらぱらと砂が散り、レンカはうっと顔をしかめる。束ねた髪もぼさぼさだ。
だが彼は気にも留めず、「あーのど渇いた」とカウンターの花を活けた水差しから直にごくごくと水を飲んだ。
「ちょっとそれ……!」
「あ、ごめんごめん、汲み直して来るね」
そういう問題じゃないとレンカは呆れたが、新たにわたされた花瓶を受け取ったとき、両眼は彼の砂だらけの指に釘づけになった。
(この指……)
目の前の青年を二度見する。
褐色肌の知りあいはいないが、よく見ると顔の造作には見覚えがある。
サボテン、ビネガー、ランスヘッドバイパー。
その瞬間記憶の破片はパズルのように組みあわさって、レンカだけのスチルを作った。
「サボテンの君!」
「え?」
初めて与えられる役職名に彼はぽかんとしていたが、サハラは片眉をつり上げる。
「わたし、以前オアシス村で助けてもらった……」
「オアシス村? えーと」
困ったように青年は頭をかいた。
どうやら本当に憶えていないようで、少なからずレンカはショックを受けた。
(わたしのこと、記憶にない男性がいるの!?)
別人だろうか、それとも似たキャラクターなのか。
確かにあのときの彼はこのような灼けた肌でも長髪でもなかったが。
しかし、乙女ゲームなら完全に出会いの一幕だというのにどうにも納得がいかない。
こうなったら、
(奥義、必殺ブリリアントスマイル!)
輝くエフェクトを背負った笑顔でレンカは問いかけた。
「あのーオアシス村、行ったことありません? 最近日灼けしました?」
「はい終了」
何も返事が聞けないままサハラに遮断される。
最後の悪あがきとばかりに、レンカは勢い身を乗り出して名乗った。
「あっ待って、わたしレンカ。レンカ・アークエット。乙女ゲームのヒロインです!」
「ぼく、今日からP Cの」
「サシミだ」
代わりに答えたのはサハラだった。
人影が見えなかったのはそのはず、彼はバスタブの中にいた。
しかし、P Cは、到底クエストに出られる状態ではなかった。
彼は頭部のみを残し、光の砂となりつつあった。
サハラたちがレンカの悲鳴を聞いて飛び込んで来たときには彼は顔の半分のみで、
「ほんとは、女の子もハントしたかっ……」
と言い残し消えていった。
後味の悪い末期に、三人に気まずい沈黙が走る。
「……おい! もっと有力なダイイングメッセージはないのか!」
バスタブに向かって叫ぶサハラだったが、こちらをふり返った瞬間、真顔で洗面台の剃刀をレンカに翳した。
「動くな」
「え?」
──ザクッ!
レンカは一瞬何をされたのかわからなかったが、足もとにぱさりと落ちた自分のストロベリーブロンドの髪のひとふさに、さらなる悲鳴をあげた。
「な、何するんですかー!」
「どきたまえ!」
サハラはレンカを突き飛ばすほどにおしのけて、スーツの懐から出したスプレー缶を、落ちたレンカの髪目がけて吹きつけた。
「な何を……」
「よく見てるんだ」
ブロンドのつやがうねり、束の下から何かが苦しそうによたよたと這い出て来る。
それはあめ玉ほどの大きさの黒い昆虫で、脚と頭が朱い不気味な虫だった。
「アサシンバグ、すべてのウィルスの中でもっとも危険な種だ。何せ噛みつかれて感染したら、対象は消え去るんだからな。受付嬢もこのP Cも、こいつのせいで消えた」
サハラはキャビネットにあった空き壜に虫をつまんで入れると、固く蓋を閉じかかげて見せた。
「これがきみの髪に留まってた」
思わずレンカはひっと頭をかかえる。
「開いた窓から誰かが放り込んで殺られたか」
サハラの言葉に青年はあわてて窓を閉め、恐る恐る申し出た。
「それで主任、P Cはどうしましょう……」
「時間がない、レベルと体型があう者をピックアップしろ」
総合案内から通知音が鳴り、アナウンスが響きわたる。
「プラットホームの電源が入りました。各キャラクターは定位置へもどり、準備を整えてください」
ここから、プレイヤーがどのゲームを選ぶかで出番が決まる。
「ログインシグナル点灯を確認、起動シークエンスに移行、システム完了──」
「来るぞ、うちだ!」
サハラの声とともに『デザート無双2』の信号がグリーンに点滅した。
レンカの初めての仕事だ。
サハラが裏に控えているものの、最低限の流れしか聞く時間がなかったのは不安しかない。
受注紙が散乱したカウンターを急いで片づけ、水差しの花を整える。
すぐに褐色の肌をしたP Cが受付にやって来た。代わりを見つけて来たのだろう。
「『クエスト№33・明星の侵略者』ですネ。行ってらっしゃいマセ御武運をー」
P Cは、頭に巻いたターバンをなびかせ颯爽と出て行った。
レンカがクエストを受注し送り出すと、法螺貝の出発音が鳴る。
彼がくぐった麻の陽よけ幕から、熱い風が吹き込んで来る。
そこが狩猟の舞台への入り口だ。
すでにひと仕事終えたようにレンカがふうと肩を下ろすと、サハラが出て来て無言でひたいをおさえていた。
「どこかぶつけたんですか?」
「AIのほうがマシだな」
「な」自分に降された評価が不当に思えて、レンカは言い返す。
「何か問題が? わたしの仕事は、受付嬢を務めながら不審者をチェックすることですよね?」
「もちろん。だがわたしは彼女の代わりとに、と言ったはずだ。なんだねあの顔は」
笑ってお辞儀もしたはずだが、何が気に入らないのか。
「もう一度やってみろ」
こらえてにっこり笑うレンカに、サハラは事務的に告げる。
「はい×」
「へ?」
「きみの笑顔、魅力がないんだ。目が笑ってないというかわざとらしいというか」
仮にも、乙女ゲームの主役を務めた自分の顔を、
(魅力がない!?)
レンカは、アイデンティティがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。
笑顔には絶対の自信があった。
ゲーム内でも悪魔バージョンのカイヤに、何度も「笑えよ」と煽られたというのに。
「彼女は笑顔もプロだったぞ」
しかし、レンカも一縷のプライドをかけて反駁する。
「そ……そっちは3Dがベースでしょ。解像度が違うぶん、表情パターンが広いのは当たり前ですよ」
「そうではない、心の問題だ」
「うちだってプレイヤーは、ドラマを楽しんでくれました」
完全コンプリートまで行ったのだ。
心が伝わらなかったら当然ストーリーもつまらなく、途中でやめるはずだ。
だがサハラは、おもむろに首をふって言った。
「乙女ゲームで画面に立たされるのは、ほとんどが攻略対象だ。彼らはれっきとした役者で功労者だろうが、きみが演じたのは見せ場のムービーシーンだけだろう」
自分はプレイヤーの化身のようなものだから、確かにボイス設定もなくセリフもほとんどテキストだ。
「テロリストという正体をかくすためであっても、彼女の受付は完璧だった。ある意味女優なのだ。きみの場合セリフは棒読み、顔は仮面だ。それでヒロインと言えるかね?」
さらにサハラはフロントのスタッフを呼び、鏡とメイクセットを用意させる。
「あとね、きみ、化粧をしてるかしてないかわからないんだよね。男うけはするだろうが、この場所ゲームの顔だから。もっとちゃんと塗って」
(セクハラっ……)
素顔に血色を加えるくらいがもともとのキャラクターデザインの設定であったし、フルメイクでもナチュラルに仕上げるのが流行ということを、この男は知らない。
(これを作り込むのに、どれだけ時間をかけてると……!)
ピキピキと顔が引きつるレンカの前に、男性スレイヤーの面々が集まって来た。
「あれ支配人、その子が新しい受付嬢?」
「おれ知ってる、乙女ゲーの子だ」
現場のキャラクターたちにはわかるようだ。
自分のゲームの中では常にメンズがとなりにいたが、ここの彼らはアンバーたちとはタイプが違う。
迫力ある武装した男たちに囲まれると、さすがにしり込みする。
「ふ、不慣れなところもあるかと思いますが、がんばりますのでどうぞよろしくお願いします」
お辞儀をするレンカへの射るような視線が怖い。
「かーわいい……」
ぼそりとしたつぶやきを筆頭に、彼らは頬を染めてはしゃぎ始めた。
「名前なんていうの?」
「いい匂いだなー、マイナスイオン出てる?」
「おれとパーティ組まない?」
(うふふ、そうでしょそうでしょ)
いつものくせでつい顔パターンに組み込まれている笑顔で返すが、
「はい、そこまで」
サハラが手を打ち、一団の前に割って入った。
「彼女はこれから仕事なのだ、きみたちも持ち場にもどったもどった」
しっしっと虫のように追い払われ、愚痴りながらもしぶしぶ去って行く男たち。
サハラは苦笑しながら、レンカへ目線を移した。
「さすがは乙女ゲーヒロイン、まるで香り高い花のようだ。早速虫どもがたかって来たな」
壮大な皮肉とほめ言葉で大仰に腕を広げる。
だが転瞬彼は真顔になり、ひたいに陰を落とし近づいてきた。
「ここ、ゲーム内恋愛禁止だから。遊びじゃないからね」
「遊びだよ」
楽しげな声にレンカが顔を上げたのと同時に、クエスト成功のファンファーレが鳴った。
狩猟に出かけていたP Cがもどって来たのだ。
「ゲームは遊び、支配人」
のんきな声にサハラがぴくりと目をすがめる。プレイヤーは、本日は一クエストでログオフしたようだ。
「クエストなんて久しぶり過ぎて、剣の研ぎ方も忘れてたよ」
「お前がひとりで地図作成ばかりやってるからだ」
「そっちのほうが性にあってるんだ」
P Cの青年は、笑いながら防具とターバンをはずした。
ぱらぱらと砂が散り、レンカはうっと顔をしかめる。束ねた髪もぼさぼさだ。
だが彼は気にも留めず、「あーのど渇いた」とカウンターの花を活けた水差しから直にごくごくと水を飲んだ。
「ちょっとそれ……!」
「あ、ごめんごめん、汲み直して来るね」
そういう問題じゃないとレンカは呆れたが、新たにわたされた花瓶を受け取ったとき、両眼は彼の砂だらけの指に釘づけになった。
(この指……)
目の前の青年を二度見する。
褐色肌の知りあいはいないが、よく見ると顔の造作には見覚えがある。
サボテン、ビネガー、ランスヘッドバイパー。
その瞬間記憶の破片はパズルのように組みあわさって、レンカだけのスチルを作った。
「サボテンの君!」
「え?」
初めて与えられる役職名に彼はぽかんとしていたが、サハラは片眉をつり上げる。
「わたし、以前オアシス村で助けてもらった……」
「オアシス村? えーと」
困ったように青年は頭をかいた。
どうやら本当に憶えていないようで、少なからずレンカはショックを受けた。
(わたしのこと、記憶にない男性がいるの!?)
別人だろうか、それとも似たキャラクターなのか。
確かにあのときの彼はこのような灼けた肌でも長髪でもなかったが。
しかし、乙女ゲームなら完全に出会いの一幕だというのにどうにも納得がいかない。
こうなったら、
(奥義、必殺ブリリアントスマイル!)
輝くエフェクトを背負った笑顔でレンカは問いかけた。
「あのーオアシス村、行ったことありません? 最近日灼けしました?」
「はい終了」
何も返事が聞けないままサハラに遮断される。
最後の悪あがきとばかりに、レンカは勢い身を乗り出して名乗った。
「あっ待って、わたしレンカ。レンカ・アークエット。乙女ゲームのヒロインです!」
「ぼく、今日からP Cの」
「サシミだ」
代わりに答えたのはサハラだった。
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