4 / 13
願いを叶える桜・上
第4話 物語の悪役視点から見るとただの鬱展開
しおりを挟む
原作の水野碧唯《みずのあおい》の幼少期は物凄く悲惨《ひさん》なものとして描かれていた。
学校では先生までもが加担した集団によるいじめが行われており、さらに家庭ではクズの両親による家庭内暴力という悲劇が繰り返されていたのだ。
例を挙れば、学校で水の入ったバケツに顔を無理やり突っ込まれるなど身体的にも壮絶ないじめの連続。
さらには実の両親にさえ臓器売買《ぞうきばいばい》のために内臓を狙われるといった絶望的な環境だった。
俺と碧唯《あおい》が初めて出会った時から、放課後にも関わらずランドセルを背負っているのは、家に帰りたくないという気持ちの現れなのだろう。
そんな碧唯《あおい》の人生を大きく狂わせてしまった元凶は術式《じゅつしき》の早期発現であるといえよう。術式の発現が中学生の時期と言われているこの世界において、小学生、それも低学年で発現させた碧唯《あおい》は異才の何物でもなかった。
だが取り巻く環境は碧唯を異才ではなく唯《ただ》の異端として差別し始めるというクソっぷり。
その周りの目を引くほどに可愛らしい容姿を持ち合わせている碧唯《あおい》は男子たちの間でとても人気があり、頻繁にちょっかいを受けていた。
加えて周りの世代と比べて精神年齢も幾分か高かったため、くだらないちょっかいは飄々とかわしていたものの、チリも積もれば山となるように、日々、碧唯《あおい》のストレスは積み重なっていった。
ストレスを軽減させられる場所がないのだ、溜まることはあっても減る事なんてない。
そしてある日碧唯《あおい》のストレスがピークに達し、彼女の術式が突如として発現し暴走。
いきなり発現してしまった術式。そんなもの小学生のか弱い女子が制御できるわけもなく、クラスメイトに重傷を負わせるという大事態に…
すると現れるモンスターペアレンツと、日ごろから碧唯《あおい》に嫉妬の念を抱いていた担任の女子教員。それに合わさって、屑な両親もプラスされ生まれるのは「隠蔽」の二文字。
このカスどもはこの碧唯のやらかした事件を世間から隠蔽した。だから、術式《じゅつしき》の扱い方なんてものをロクに教えてもらえなかった。
碧唯《あおい》は適切な機関で適切な教育を受ければこんなにも不幸にならなかったというのに、術式の制御方法を知らない、教えてもらえない彼女は周囲を無差別に傷つける。
力の制御方法なんてものを知らず、教えられず唯々《ただただ》みんなから憎悪の感情を向けられ、恐怖され、無論ひどい孤独にさいなまれた。
それが原因で、周りからは、常に浮くような存在で、更には家族にも疎まれてしまう始末。
更には、碧唯のオッドアイが臓器としてとても高価であると知った両親から目をえぐり取られそうになる日々。
こんなん俺だったらストレスマッハで剥げるやろ…
誰にも触れられず、夜の闇が町を包み込む中、静かな路地裏に座り込みながら涙を流す日々。
自分を慰めるように強く抱きしめても、心の内に溜まった感情が溢れ、嗚咽と共に胸から湧き上がってくる。寂しさと絶望が蜷局《とぐろ》を巻きながらむせあがり、音もなく地面に滴《したたり》り落ちる涙。
そんな孤独と絶望の中、碧唯《あおい》はそんな周りのカスでクズの人間と同じになりたくないという思いでまわりには優しさを振りまいていた。不器用ながらも困っている人は必ず助けていた。いや、周りに優しくしていたのは、自分も愛されたかったから…
そんな地獄が続くこと3年間。小学5年生の音楽会。
その年はクズな両親が珍しく学校行事に現れる。その両親が自分のことを見てくれるんだという期待、興奮、喜びがあふれる。
碧唯のメンタルが回復し―――し…
しなかった…
そんな淡い碧唯の思いは踏みにじられ、裏切られる。
俺は常日頃思うよ。ラノベとかゲームに出てくる悪役の視点からストーリを見ると絶対鬱ゲーになるって。
だって悪役の悲惨な過去を聞いたところで、「それでもお前のしたことは許せないンゴ!」って言うに決まっているが、ヒロインの不幸な過去であれば「あ~ぁ。かわいそうなヒロインたん。ブヒブヒ。話聞こうか?」ってなるだろ?
それはともかく、そんなわけでいろいろと限界に達した碧唯は音楽会の5年生の発表のステージで―
―観客、演奏者、指揮者を皆殺しにした。
軽症者、重傷者はともにゼロ。
死者215名を出した歴史に名を遺すほどの事故
「姫岸小学校大規模死亡事故《ひめぎししょうがっこうだいきぼしぼうじこ》」
それが水野碧唯という大量殺人鬼の初犯である。
§
「今日は珍しくボーとしているじゃないか」
「え?そうかな…?」
何日連続かも分からない夜の海。俺の方をチラチラと見て、心配そうにしていた。
此方の体調を慮《おもんぱか》っているらしい。
「考え事でボーとしてただけだよ」
それを聞いて安心したようにする碧唯。
最近、チラチラとこちらを見てくることが多くなったように感じるのだが…
何なら海よりも俺を見ている時間が長い気がする。
サブ―ンと海が静かに打ち寄せる。その音は夜の静けさの中で、より一層鮮明に響き渡る。
もう海が耳にこびりついたんじゃないかというくらい聞いた音。そろそろ脳みそが溶かされそうである。
平日も休みの日も例の公園に集まっては、毎回と言っていいほどこの海辺にやってきて時間を潰している。だというのに、一向に碧唯から悩みを相談されることがなかった。
………悩みを相談されないことが悩みとか…何か自意識過剰ぽくてキモイ。
「そんなに海を見ていて楽しいか?」
「さあ、どうだろうね…」
「………」
「でも、嫌なことが全部忘れられるから好きだね、海」
「そうか」
碧唯は闇に包まれた海辺をぼんやりと見つめている。いつもより一段と大きい満月が海面に銀色の道を作り上げている。
碧唯が砂を手に握りると指の隙間から砂粒が零れ落ちた。
「ここ最近の数週間、本当に…楽しかった」
「なんだ?いきなり…」
「アハハ、何でだろね…なんか言いたくなったのさ」
「…なんか不穏な言い方するなぁ」
碧唯は照れくさそうに頬を赤らめ、控えめな声で感謝の気持ちを伝えてくる。
そして翌日。碧唯は例の公園に姿を現さなかった。
学校では先生までもが加担した集団によるいじめが行われており、さらに家庭ではクズの両親による家庭内暴力という悲劇が繰り返されていたのだ。
例を挙れば、学校で水の入ったバケツに顔を無理やり突っ込まれるなど身体的にも壮絶ないじめの連続。
さらには実の両親にさえ臓器売買《ぞうきばいばい》のために内臓を狙われるといった絶望的な環境だった。
俺と碧唯《あおい》が初めて出会った時から、放課後にも関わらずランドセルを背負っているのは、家に帰りたくないという気持ちの現れなのだろう。
そんな碧唯《あおい》の人生を大きく狂わせてしまった元凶は術式《じゅつしき》の早期発現であるといえよう。術式の発現が中学生の時期と言われているこの世界において、小学生、それも低学年で発現させた碧唯《あおい》は異才の何物でもなかった。
だが取り巻く環境は碧唯を異才ではなく唯《ただ》の異端として差別し始めるというクソっぷり。
その周りの目を引くほどに可愛らしい容姿を持ち合わせている碧唯《あおい》は男子たちの間でとても人気があり、頻繁にちょっかいを受けていた。
加えて周りの世代と比べて精神年齢も幾分か高かったため、くだらないちょっかいは飄々とかわしていたものの、チリも積もれば山となるように、日々、碧唯《あおい》のストレスは積み重なっていった。
ストレスを軽減させられる場所がないのだ、溜まることはあっても減る事なんてない。
そしてある日碧唯《あおい》のストレスがピークに達し、彼女の術式が突如として発現し暴走。
いきなり発現してしまった術式。そんなもの小学生のか弱い女子が制御できるわけもなく、クラスメイトに重傷を負わせるという大事態に…
すると現れるモンスターペアレンツと、日ごろから碧唯《あおい》に嫉妬の念を抱いていた担任の女子教員。それに合わさって、屑な両親もプラスされ生まれるのは「隠蔽」の二文字。
このカスどもはこの碧唯のやらかした事件を世間から隠蔽した。だから、術式《じゅつしき》の扱い方なんてものをロクに教えてもらえなかった。
碧唯《あおい》は適切な機関で適切な教育を受ければこんなにも不幸にならなかったというのに、術式の制御方法を知らない、教えてもらえない彼女は周囲を無差別に傷つける。
力の制御方法なんてものを知らず、教えられず唯々《ただただ》みんなから憎悪の感情を向けられ、恐怖され、無論ひどい孤独にさいなまれた。
それが原因で、周りからは、常に浮くような存在で、更には家族にも疎まれてしまう始末。
更には、碧唯のオッドアイが臓器としてとても高価であると知った両親から目をえぐり取られそうになる日々。
こんなん俺だったらストレスマッハで剥げるやろ…
誰にも触れられず、夜の闇が町を包み込む中、静かな路地裏に座り込みながら涙を流す日々。
自分を慰めるように強く抱きしめても、心の内に溜まった感情が溢れ、嗚咽と共に胸から湧き上がってくる。寂しさと絶望が蜷局《とぐろ》を巻きながらむせあがり、音もなく地面に滴《したたり》り落ちる涙。
そんな孤独と絶望の中、碧唯《あおい》はそんな周りのカスでクズの人間と同じになりたくないという思いでまわりには優しさを振りまいていた。不器用ながらも困っている人は必ず助けていた。いや、周りに優しくしていたのは、自分も愛されたかったから…
そんな地獄が続くこと3年間。小学5年生の音楽会。
その年はクズな両親が珍しく学校行事に現れる。その両親が自分のことを見てくれるんだという期待、興奮、喜びがあふれる。
碧唯のメンタルが回復し―――し…
しなかった…
そんな淡い碧唯の思いは踏みにじられ、裏切られる。
俺は常日頃思うよ。ラノベとかゲームに出てくる悪役の視点からストーリを見ると絶対鬱ゲーになるって。
だって悪役の悲惨な過去を聞いたところで、「それでもお前のしたことは許せないンゴ!」って言うに決まっているが、ヒロインの不幸な過去であれば「あ~ぁ。かわいそうなヒロインたん。ブヒブヒ。話聞こうか?」ってなるだろ?
それはともかく、そんなわけでいろいろと限界に達した碧唯は音楽会の5年生の発表のステージで―
―観客、演奏者、指揮者を皆殺しにした。
軽症者、重傷者はともにゼロ。
死者215名を出した歴史に名を遺すほどの事故
「姫岸小学校大規模死亡事故《ひめぎししょうがっこうだいきぼしぼうじこ》」
それが水野碧唯という大量殺人鬼の初犯である。
§
「今日は珍しくボーとしているじゃないか」
「え?そうかな…?」
何日連続かも分からない夜の海。俺の方をチラチラと見て、心配そうにしていた。
此方の体調を慮《おもんぱか》っているらしい。
「考え事でボーとしてただけだよ」
それを聞いて安心したようにする碧唯。
最近、チラチラとこちらを見てくることが多くなったように感じるのだが…
何なら海よりも俺を見ている時間が長い気がする。
サブ―ンと海が静かに打ち寄せる。その音は夜の静けさの中で、より一層鮮明に響き渡る。
もう海が耳にこびりついたんじゃないかというくらい聞いた音。そろそろ脳みそが溶かされそうである。
平日も休みの日も例の公園に集まっては、毎回と言っていいほどこの海辺にやってきて時間を潰している。だというのに、一向に碧唯から悩みを相談されることがなかった。
………悩みを相談されないことが悩みとか…何か自意識過剰ぽくてキモイ。
「そんなに海を見ていて楽しいか?」
「さあ、どうだろうね…」
「………」
「でも、嫌なことが全部忘れられるから好きだね、海」
「そうか」
碧唯は闇に包まれた海辺をぼんやりと見つめている。いつもより一段と大きい満月が海面に銀色の道を作り上げている。
碧唯が砂を手に握りると指の隙間から砂粒が零れ落ちた。
「ここ最近の数週間、本当に…楽しかった」
「なんだ?いきなり…」
「アハハ、何でだろね…なんか言いたくなったのさ」
「…なんか不穏な言い方するなぁ」
碧唯は照れくさそうに頬を赤らめ、控えめな声で感謝の気持ちを伝えてくる。
そして翌日。碧唯は例の公園に姿を現さなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
もし学園のアイドルが俺のメイドになったら
みずがめ
恋愛
もしも、憧れの女子が絶対服従のメイドになったら……。そんなの普通の男子ならやることは決まっているよな?
これは不幸な陰キャが、学園一の美少女をメイドという名の性奴隷として扱い、欲望の限りを尽くしまくるお話である。
※【挿絵あり】にはいただいたイラストを載せています。
「小説家になろう」ノクターンノベルズにも掲載しています。表紙はあっきコタロウさんに描いていただきました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
裏アカ男子
やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。
転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。
そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。
―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる