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『憤怒の王』 ─ノルクス爺さんの小話─

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 むかしむかし、ある小さな王国に“憤怒の王”と呼ばれる王様がいました。

 名をミカ王といい、ぷっくりとしたお腹に短足、頭には大きな王冠、赤背には赤いマントを身につけ、大きな髭を生やした50歳くらいの王様だった。

 その王様──ミカ王が“憤怒の王”と呼ばれる理由とは、いつも何かに怒っていて気に入らないものはすぐに無くすよう命令していた。自国の民や大臣でさえ気に入らなければ殺してしまっていた。

 ある日、ミカ王の噂を聞きある男がミカ王のもとへと訪れた。男は自らを古代魔法を使える者だと名乗った。

 ミカ王は、この男のことを胡散臭い思ったがあまりにも自信を持って話す姿を見て少し興味を持ったのだ。それに気に入らなければ殺せばいいと思っていた。

 男は、ミカ王にある提案を持ちかけた。男が言うには“カガク”という古代魔法を使えるという。しかもその魔法や魔法で生み出したものは魔力や魔石を消費しないともいった。

 そこでこの国の魔法学者とともにとある“キカイ”の研究をしたい。その“キカイ”とは使用者が命じれば何でも消してしまうというなんとも不思議で身勝手なものだった。

 そして男はふところから小汚い皮袋を取り出した。ミカ王がその袋の中を見るとなんと最上級とも言える魔石だった。ここまでものだと瞳ほどの大きさでさえ、小さな町ならば吹き飛ばすほどの爆破魔法を使うことも簡単である。

 王は男の研究を承諾した。こんなどこにでもいそうな男があれほど強力な魔石を持っていることに対して嫉妬のようでもあるが少し苛立ちを覚えていたのだが……




 ──男が研究を開始して1日目
 男はまず“キカイ”の設計図の制作を開始した。
 王は、ソーリという野菜の味に怒り、国のすべての民に対しソーリの栽培を禁止した。

 ──男が研究を開始して2日目
 男は、設計図を完成させた。
 王は、城の庭からリピニャの花をすべて抜くよう命じた。

 ──男が研究を開始して7日目
 男は、必要な材料を探した。
 王は、とある靴職人を国外追放した。

 ──男が研究を開始して13日目
 男は、試作第一号を作った。
 王は、珍しく怒らなかった。

 ──男が研究を開始して27日目
 男は、試作11号にてようやく計画通りに作動させることができた。
 王は、10年間以上国を守るため働いてくれた王騎士団長を殺した。

 ──男が研究を開始して30日目
 男は、ついに“キカイ”を完成させた。
 王は、珍しく怒ってないが 最近ずっと何か企んでいる様だった。


 ミカ王は研究の完成を聞きつけ男を城へ呼んだ。男は“キカイ”を持って城へとやってきた。王は大いに満足していた。

 男に向かってこういった。
 「良くやった。その“キカイ”をよく見たい。もっと近くに持ってきてくれぬか?」

 男は言われた通りミカ王の近くに行き“キカイ”を渡した。王はまじまじとそれを見ていた。すると次の瞬間

 「この男を消せ」

 その言葉とともに“キカイ”がクッキクィィィィィンという音をたて光出した。すると男が光に包まれ泡のように消えていってしまった。


  ──男が研究を開始して30日目
 男は、世界から消えた。
 王は、“キカイ”を手に入れた。



 それからというもの、“キカイ”を手にした王の暴走は止まることを知らなかった。

 ある時は、世界からチフミトリオンを消し去った。

 ある時は、愛していたはずの妻と二番目の子を消し去った。

 ある時は、鬱陶しいという理由で国の民のうち3割を消し去った。

 ある時は、ノト教信者と関係する書物を消し去った。

 ある時は、自分以外に、ミカと文字がつく物や人を消し去った。

 ある時は、城で働く全ての人を消し去った。



 全国民がこのままミカ王の暴走を止めなければこの国が、世界が滅んでしまうと考えた。

  そこで新大臣は王を止める方法がないか密かに国民に募集した。王にバレないように慎重に慎重に行われた。

 しかし、様々な方法や人が集まったがどれもミカ王の前では無駄だった。大臣はもうおしまいだと思いつつ最後の望みを託して“キカイ”を作った男の研究所へと向かった。

 研究所の中は荒れていて何も無かった。しかし小さな机の引き出しの中にひとつの手紙があった。そこには『もし私が王に消されたら王に渡して欲しい』と書かれた紙切れもあった。


 さっそく大臣は王の下へと、もどった。王の後ろには憎たらしいあの“キカイ”があった。大臣はミカ王に何も言わずに手紙を渡した。

 『ある男の話をしよう、その男は1国の王でありながら民のことを考えず自分のことを第一に考える身勝手な王だった。花の見た目に文句をつけて庭からその花をすべて抜き取ったり、王に商業の自由化を提案した靴職人を殺したり、王の名前を言い間違えた子供を殺し、20年来の親友でさえ簡単に殺してしまうような男である。私は彼を30日間見続けた。その中でももっともひどかったの──』

 手紙を読んでいる途中でミカ王は口を開いた。

 「なんだこの話は」

 大臣はビクビクしながら返答した。

 「ひどい話でございますね。旅のものが王へと当てた手紙の様ですが……」

 「フンッ!気に食わない話だ!読む価値もない。身勝手すぎる。こんな王など必要ないッ!」


 その言葉とともに“キカイ”がクッキクィィィィィンという音をたて光出した。



 
 

 ──『憤怒の王』 ノルクス爺さんの小話より
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