勇者の曾孫の迷走録

たくみ

文字の大きさ
上 下
31 / 34

31.兄弟過去話②

しおりを挟む
「嫉妬なんていうのは誰でもするものだよ」

「まあそうですけど……」

 でもこの人がリカルドに嫉妬。目の前のリカルドに劣らぬ美貌、頭脳、落ち着きをもつこの人が?

「あの、でもリカルドのどこに?」

「え?」

「あっと……リカルドができないやつって言ってるわけじゃなくて。むしろかっこいいし、頭いいし、背高いし、剣も魔法も上手いし、俺が勝てるものなんて血筋くらいですけど。なんかお兄さんの嫉妬を買うような感じじゃないっていうか……」

 上手く言えないが、なんだろう。お兄さんの方が余裕があるというのか、上に感じるというのか。とりあえずお兄さんがリカルドに嫉妬……なんか想像ができない。

 俺の言葉に何がおもしろいのかお兄さんはクスクスと笑っている。

「アレン君はいい人だね」

「え?」

「君がいろいろな物を持っているから嫉妬とは無縁なだけかな?」

「え?」

 疑問府を浮かべてしまう俺を見て更に笑うお兄さん。

「いやいやすまない。少し顔が面白くて。ところでどうしてそんな話しを弟さんにしたんだい?ああ、最初は弟さんからの羨ましい?っていう質問だったみたいだけど、君は嫉妬とかとは無縁そうだから掘り下げないタイプだろう?そしてそのやり取りを私に話すなんて何かあったのかな?と思ったんだけれど……」

 鋭いな。

「……クラスの男子で自分のお兄さんのことを羨ましい、いや妬ましいって話しているやつがいたんです。友達と話すだけじゃなくて悪評も広めていて、家でも色々と騒ぎを起こしてお兄さんから後継者の座を奪おうとしてるんですよ」

 その男子はあまり付き合いがないので俺の勝手な印象だが、もともと少し暗めのひねくれたやつだった。だがどんどん顔つきが変わっていき、今では危ないやつという印象だ。

 お兄さんとの仲の悪化によりそうなってしまったよう。

 それを見て俺は思った。

 兄弟にあれほどまでの憎悪を抱いてしまうものなのか、と。

 いや、まあ俺とて貴族に生まれた身。後継問題でいろいろゴタゴタする家があるのも知識としては知っている。が、実際に間近で見たのは初めてだった。

 だからスタンにも直球で聞いてみた。本心はわからないがとりあえずはそこまで恨まれていない気がする。たぶんだけど。

 だから他の兄弟にも話しを聞いてみようと思った。リカルドに聞こうと思ったんだが、残念ながら彼は留守だったのでお兄さんが話し相手となったが。

「ふーん……」

 お兄さんは俺をじーーーーっと見ると面白そうに笑うと言った。

「僕もリカルドに消えろって思ったことも、実際に手を出したこともあるけどね」

「!?」

「そんなに驚くことでもないと思うけどなぁ」

「えっ、あ、いやでも……二人仲いいですし」

「今はね。僕もアイツのことはばかわいいと思っているよ。それに、我が領地の最終兵器だとも」

 お兄さんの目がキラリと薄暗く光る。ばかわいいってバカと可愛いかけてるよな。ちょっとリカルドに似合う言葉とか思ってしまった。すまんリカルド。

「それは、なんとなくわかります」

 お兄さんはこの伯爵領を継ぐ身。身内であろうと領地や国に何かあれば、弟だろうと過酷な場に送り出す覚悟がなければならない。

 はっ!

 いやいや、それは置いといて……。

「そんな焦った顔しないで。今から話すよ。僕はねリカルドのことが嫌いだった。妬ましくて妬ましくて仕方なかった」

「いや、どこが?」

「あはは、アレン君は結構失礼だよね」

「すみません」

 リカルドはこの人の弟だった。素直に謝るとくすりと笑われた。

「リカルドは幼いときから優秀だった。いや、天才というべきか……。まさに英雄の血を引くにふさわしいガキだった」

 トリスタンはゆっくりと瞬きをすると、俺をまっすぐに見据え過去を語りだした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...