勇者の曾孫の迷走録

たくみ

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22.君に合う名はなんですか?⑧

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「なあリカルド」

「なんだアレン?」

「お前さっきさー……名前つけたよな?」

「…………………………」


 おやっ?心なしか表情が暗いような

「おーーーい!アレン、リカルド。さっき大丈夫だったか?なんかまずいところに出くわしちゃったみたいでごめんなあ」

 さっき逃げろと言われて逃げたジャックと出くわした。

「いや、大丈夫って……こらリカルド!」

 ビュンっと急にいなくなったかと思うとジャックの胸ぐらを掴むリカルド。その頬には涙が流れている。

「「どっどっどっどうした!?」」

 思わずどもってしまった二人。

「ジャック~、なんであのときライオン丸なんて言ったんだよ~~~。ライオン丸って名前になっちゃったじゃないか~~~」

 なんとも情けない声音で紡がれる言葉に?マークが浮かぶ。

「リカルド……違う名前つけるつもりだったのか?」

 あのときライなんとかと言おうとしてたので、ライオン丸だと思ったのだが。

「ライアンって言おう思ったらライオン丸って呼ばれてつられちまったんだよ~~~」

 とりあえずジャックから手を離しオイオイと泣くリカルド。俺とジャックは顔を見合わす。

「なんかごめんな」

「いや、すまない。お前は悪くない。つられた自分がいけないんだ」

 いや、めっちゃ泣いてるし。

「でもそんなに気落ちしなくてもいいと思うぞ?」

「「?」」

 ジャックがなぜそんなことを言うのかわからず、今度は俺とリカルドが顔を見合わす。

「いやだって……」

 そう言って彼がチラリと見る先にはライオン丸様が優雅にドスンと座っていた。

「なんかご機嫌だし、嬉しそうに見えるし、ライオン丸っていう名前喜んでるように俺には見えるんだけど……」

 俺とリカルドの視線を受けどんどん尻窄みになっていく言葉。だがその言葉を受け改めてライオン丸を見る。

 確かに……表情は明るいし、何よりしっぽがゆ~らゆ~らと優美に動いている。

『何をそんなにショックを受けることがある?この名はそなたが友人からつけられたあだ名なのであろう?ライオンのように雄々しく、強く、見目麗しく……良い意味で称賛の意味でつけられたあだ名なのであろう?それを我に与えてくれたのであろう?何を憂うことがある?』

「ライオン丸……」

 リカルドがライオン丸に向かって一歩踏み出す。ライオン丸もゆらりと立ち上がると近づいてくる。

「でも…………」

『ん?なんだ?』

「いや、普通にダサくないですか?」

「「!?」」

 なっ!?それは……本人いや本獣が気に入ってるんだから別にいいだろうが。いい話風にまとめてくださったライオン丸にいちいち言うことではない。

『?ダサいか?』

『別にダサくないもふ。この国では珍しい名前かもしれないけど、やべぇとかは思わないもふ』

 いつの間にやら隣に来ていたもっふんが答える。

『だよなぁ。どんな名前であれマスターが決めてくれた名前。何も不服はないから気を落とすでないぞ』

 あ、兄貴。かっこいいっす。

『人の名前ダッサイとかいうやつのほうがダッサイもふ。気をつけるもふ』

 まあ、確かに。

『少々働いて疲れたな。暫く天界に帰るとしよう。ではな』

『お供するもふ』

 そう言って消える二匹。


「あれ?そういえば名前決まったこと開票会場の人達に言ったのか?」

「「あっ……」」

 言ってない。そもそも言う暇なんてなかった。

 でも、なんて言えば良いのか……。とりあえず会場に向かう。会場に到着した俺達をマッケロ先輩が迎える。

「おっ、おかえり~~~。急に走ってどこか行くから心配したぞ☆」

 わおっ、見事なウインクと指ピストル。

 非常に言い出しにくい。

「先輩!それに皆!聞いてほしいことがあります!」

 ビシッと手を上げ発言するはもちろんリカルドだ。

「うん?なにかな?」

 皆が何事かとざわざわする中代表をしてマッケロ先輩が問いかけてくる。

「先程色々あり、名前決まったんです!皆さんに投票してもらったり、色々盛り上げてもらったのに……勝手につけちゃってほんっとうにすみません!!!」

 深々と頭を下げるリカルドに会場内はしーーーんと静まり返る。

「あー……頭を上げてくれ。実は開票したんだけど分散しちまってな。決まらなくてどうしようかと思ってたんだよ」

 他の生徒たちもどこか気まずそうな顔をしている。

「だから無事決まって良かったよ!ちょっと残念な気もするが……なんやかんやいって相棒に名前つけられた方が精霊獣様も嬉しいってもんだよ!なあ、皆!」

 おー!
 良かったー!と声が上がる。

 多少残念そうな悔しそうな表情の者もいるが、概ねの人は納得しているようだ。

「で?」

「で?」

「いや、名前は?」

「ああ、ライオン丸です!」

 ニカっと爽やかに言われた名前に俄にざわめきが生じる。まああんまり馴染みのない名前だから反応が微妙なのも仕方ない。

 ちなみにジャックがリカルドにつけたライオン丸というあだ名は彼が読んだ他国の本に出てきた主人公ライオン丸にちなんだものである。ライオン丸という少年が悪い王様を倒して国に平和をもたらした話しを見て、激強のリカルドにその名をつけたのだった。

「へ~……めっちゃいい名前じゃん!超強そう!」

「先輩……」

 いい先輩だ。おちゃらけてんな~とかたまに思ってすみませんでした。リカルドも何気ないながらも温かい言葉に涙を浮かべる。

「なんだよその顔。いや、男前はどんな顔してもイケメンだな。羨ましいぞチクショー!」

 いえ、あなたもなかなかのイケメンです先輩。

「それに、そもそもライオン丸様もなんやかんや言ってお前が決めた名前をつけられて嬉しいと思うぞ?だってお前たちはパートナーなんだからな!」

 サムズアップし、また見事にバチコーンとウインクを決める先輩。

「というわけでリカルドの相棒の精霊獣様の名前はライオン丸に決定しました!皆様、これにて解散!!!」

 うおー、キャーという歓声と共にパチパチと溢れんばかりの拍手が鳴り響く。

 そして、皆満足したのかぞろぞろと教室に戻っていった。



「さあ、俺等も戻ろうぜリカルド」

「…………………………」

 ?動く気配のないリカルド。彼は一瞬唇を噛み締めたあと覚悟を決めたのか口を開いた。

「アレン」

 うおっ!?なんだそんな力強い目で人を見て……。こっちが緊張するじゃないか。

「おっ、おう。なんだ?」
 
 顔面偏差値たけえな。自分が女子だったらころっといってるわ。なぜかモテてる様子はないが。

「よく考えたらライオン丸の名前つけたのジャックじゃないか?」

「は?お前がつけてただろ?」

「いや、俺はつられただけで。そもそもライオン丸って言ったのはジャックだ」

「それはお前に対して言ったんだろう」

「いや、でも」

「ええい!もう何でも良いから教室に荷物取りに帰るぞ!」

 振り返らずに教室にずんずんと向かうと、後ろから慌てた様子で追いかけてくる気配がする。

 なんか笑える。

「リカルド」

「うん?」

「とりあえず無事名前が決まって良かったな」

「まあ、そうなのかな?」
 
 ちょっと困惑気味の顔に俺はまた少し笑ってしまった。



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