勇者の曾孫の迷走録

たくみ

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9.マザーラブ?①

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 うわー!と盛り上がるは学園の闘技場だ。

 高等部2年に進級して2週間。本日は現在の2年生のランキングを決める武術大会の決勝トーナメントを行っている。そして今俺が立っているのは闘技場のど真ん中。

 周囲の観客席にはほぼ全ての生徒が揃っている。

 先日の予選は見事突破した俺は今日も順調に勝ち進み、決勝戦へと進出した。そして、目の前に俺と同じように立つはこの男、英雄の曾孫様であるリカルドだ。



「さあ、やって参りました決勝戦!1年時から飛び抜けた実力!無敗の男!高身長!イケメン!頭脳明晰!憎い!同じ男として憎い!だが筆記試験では難しい問題は正解、なぜか簡単な問題は書き間違える抜けてる一面を俺は愛してるぞーーー!皆様ご存知この国を救った英雄の曾孫様であるリカルド・ライオネルーーーーー!!!」

 うわーーーーー!と上がる歓声。

 かっこいい~
 素敵~
 兄貴~
 師匠~

 それで良いのか司会進行者さん。司会は3年生の放送部の明るく少々お調子者の先輩だ。この学園は完全学力主義の為、貴族の方が多いが平民もまあまあいる。だからだろうかあまり堅苦しくない。

 どうどうと手つきで場を静まり返らせる先輩。

「お次はこの男!これまた高身長!イケメン!高貴な血筋!筆記試験第一位!そして超超超美少女の婚約者!かーーーっ!羨ましすぎる!!!化け物みたいな強さはないが、全てにおいて優秀、そつなくスマートにこなす!弱点が見つからなくてただただいけ好かない男アレン・デラクシアーーーーー!!!」

 再び上がる歓声。

 かっこいい~
 素敵~
 高物件ー!
 いけ好かない!いけ好かない!いけ好かない!…………

 まあ野次もどきの歓声もかなり混じっているようだが熱意は伝わってくる。


「それでは早速…………決勝戦開始!!!」

 ブオオーーーーー!
 ブオオーーーーー!
 ブオオーーーーー!

 先輩の号令とともに法螺貝の音がなる。まるで戦国時代みたいだ。

 とか言ってる場合ではない。

 カキンッカキンッカキンッキンッキンッキッキッキッ……

 開始早々猛スピードで繰り出される刃が潰された剣。ますます早くなっていく剣になんとかギリギリの線で同じく剣で弾き続ける。

 相手の方が強い、強い……が何か爪痕を残したいと思うのが男というものだろう。彼の足元に何本もの太い尖った氷を出現させる……が彼の身体を傷つけることはなかった。とりあえず猛攻は止まった。

 うおーーーっ。観客が声を上げる。俺にではない。

 大口開けた炎でできたドラゴンが襲いかかってくる。

 かわす。いや、髪の毛が数本焼けた。


 炎には水だ。水のドラゴンを練り上げ飛ばす。

 あっ……蒸発した。

 

 いやんとショックを受ける俺に再び剣による猛攻が襲いかかる。先程とはうってかわり力強く一撃一撃重みのある剣さばき。手が痺れてくる。

 ダンっと背後に飛び退り、手のひらに魔力を練り上げる。

 ハーーーッと放つ。

 直撃…………するわけ無く、見事に彼の巧みな剣術によって真っ二つにされる我が魔法。

 そのままビューンと懐に飛び込まれ首元に剣を突きつけられる。俺ははあと息を吐くと両手を上げると持っていた剣から手を離す。

 カランと剣が地面と接触する音を響かせると割れんばかりの歓声が闘技場に響き渡る。

「勝者はリカルドだーーー!強い!強すぎる!やつを倒せる猛者はこの先現れるのかあ!?」

 
 続く歓声。

「アレン、腕を上げたな」

 ちょっと上から目線で先生みたいなことを言ってくるのはもちろんリカルドだ。

「あーーー!もう少し粘れると思ったんだけどなあ」

「ハハッ俺だって遊んでるわけじゃないからな」

 そう言ってニカッと笑う様はとても爽やかでキマっている。

 彼とは1年生のあの入学式の出会いから同じクラスということもあり、よく一緒に過ごすようになった。ジャックが家の事情であまり学園に来れなくなったので、今では一番長い時を共に過ごす友人と言える。

 そのまま駄弁っていると、先輩が近づいてきた。

「リカルドおめでとう!いや~まじでバケモンみたいに強いな!アレンもお疲れ様、ナイスファイトだったぞ!負け戦だったがあれだけの身のこなし、魔法の腕、また女性ファンが増えたんじゃないのか~!アッハッハ!…………憎し」

 最後にぼそっと言うでない。怖いだろうが。

 彼はその後皆に聞こえるように声を張り上げる。

「さあ皆様!優勝したリカルドと最後まで諦めず善戦したアレンに大きな拍手をお願い致します!」
 
 盛大な拍手と温かい歓声が場内に湧き上がる。そんな中少々下卑た目でじろ~っとベストを脱いで露わになったリカルドの胸辺りを見る司会者。

「ところで~~~~~」

 彼は別にリカルドの逞しい胸筋をイヤらしい目で見ているわけではない。そもそも胸筋を見ているわけでもない。彼が見ているのはリカルドが着るシャツの胸元に見事に施された獅子の刺繍とリカルドのLの刺繍。

 こういった大会みたいな試験では家族や恋人、婚約者等々特別な人から刺繍を施されたシャツをもらって着るものが多い。別になくても良いので刺繍なしのシャツを着た人もいる。

 ちなみにアレンは母、婚約者、キース、侍女、なぜか父と弟たちが1枚のシャツにそれぞれ刺繍を施してくれたので派手目のごちゃごちゃシャツになっている。

 まあベストを着ているし脱がなきゃ見えない。着なくても良いのだが皆それぞれ思いを込めて施してくれたのだし……嬉し恥ずかし着なくては失礼というものだ。

「その胸元の素晴らしい刺繍は誰にしてもらったのかな~~~?」

 ニヤニヤニヤニヤと先輩はどんな答えを期待しているのか。

 リカルドはそんな笑いを真正面から受け止めると、爽やかに微笑み胸を張り答えた。


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